全国20政令市と東京23区で、災害後に被災者が避難生活を送る指定避難所(指定予定も含む)の38%が洪水の浸水想定区域にあることが、毎日新聞の取材で分かった。大阪市は淀川や大和川の氾濫で8割超が浸水する可能性があり、東京23区も海抜ゼロメートル地帯が広がる東部を中心に5割が浸水想定域にあった。多くの自治体は浸水被害後の避難生活先の確保を課題とし、他自治体への広域避難の検討に乗り出している。
国は温暖化による水害の激甚化に対応するため2015年に水防法を改正し、想定最大規模(1000年に1度の降雨量)の浸水想定域を公表するよう定めた。以前は100〜200年に1度の雨で想定していた。
毎日新聞が指定避難所の状況を自治体へのアンケートで調べると、想定最大規模の豪雨の場合、新潟市は7割の避難所が信濃川など複数河川の浸水想定域にあり、川崎市も7割近くが多摩川などの氾濫で浸水する想定だった。この他、浸水想定域にある避難所は、京都市が5割、さいたま、名古屋、浜松、熊本の4市が4割だった。
東京23区では、足立、葛飾両区が全て▽荒川、江戸川、墨田の3区は9割超▽江東、台東、中央の3区は8割超――に達した。
昨年7月の西日本豪雨で、約12平方キロが浸水した岡山県倉敷市真備(まび)町地区では指定避難所22カ所中14カ所が浸水し、開設の条件がそろった避難所3カ所は被災者であふれた。今回のアンケートでは「想定最大規模の降雨に対応する避難所の検討に苦慮している」(福岡市)など苦悩の声が聞かれた。
対策は始まっている。大半が海抜ゼロメートル地帯の墨田、江東、足立、葛飾、江戸川の5区は、台風による巨大高潮や河川の氾濫が予想される場合は24〜9時間前に広域避難勧告を出し、区外に避難してもらう仕組みを導入した。避難先も、親戚宅などを事前に確保するよう呼びかけている。
ただ、災害は豪雨だけではない。大阪市は避難所546カ所に約60万人を収容できるが、南海トラフ巨大地震は最悪の場合、収容能力を超える約82万人が避難者となる想定だ。さらに津波で、洪水とは別の区域への浸水が想定される。担当者は「広域避難を検討したいが、津波なら湾岸部、水害なら同一河川沿岸の隣接自治体も浸水している可能性があるなど、避難所確保の課題は多い」と話す。【井上元宏】
指定避難所
災害で自宅に住めなくなった被災者が、一定期間避難生活をする施設。被災者の滞在に適切な規模の公共施設などが指定される。このほか、避難勧告などが発令された場合にすぐに避難できる場所として「指定緊急避難場所」があり、ビル屋上なども対象となる。両方を兼ねる場合もある。
2019年1月13日 21時40分(最終更新 1月13日 21時57分)
https://mainichi.jp/articles/20190113/k00/00m/040/135000c