平成29(2017)年に滋賀県を訪れた観光客数が前年比3・4%増の5248万1千人と過去最多を更新した。集客の原動力となったのは、琵琶湖や世界文化遺産の比叡山延暦寺、国宝の彦根城などおなじみの観光スポットではなく、写真の見栄えがいい“インスタ映え”する施設だった。民間調査会社の都道府県魅力度ランキングで全国38位、近畿で最下位の滋賀だが、近年は写真共有アプリ「インスタグラム」をはじめ会員制交流サイト(SNS)を通じて若い女性らが訪れているといい、県などもSNSでの魅力の発信を本格検討している。(清水更沙)
◆国宝の3倍以上が訪問
県によると、29年の観光客数でトップに輝いたのは、27年にオープンした菓子製造販売会社・たねやグループの旗艦店「ラ コリーナ近江八幡」(近江八幡市)。国宝・彦根城の83万6300人の3倍以上となる283万3900人が訪れた。
和菓子や洋菓子の売り場が並び、職人が目の前でお菓子を焼き上げる工房やカフェが併設された店舗部分も人気だが、何といっても観光客を引きつけたのはそのユニークな外観だ。屋根一面が芝におおわれた建物は周囲の自然豊かな景観ともマッチ。建物を背景に記念撮影する人も多く、SNS映えする観光スポットを紹介するサイト「SNAPLACE(スナップレイス)」がまとめた「インスタ映えスポットランキング」で全国4位にランクインした。
一方、大津市の高原リゾート「びわ湖バレイ」は28年にオープンした琵琶湖を一望できる山頂の休憩スペース「びわ湖テラス」が話題を呼び、観光客数は27年の37万2300人から29年は60万7100人に増加した。
びわ湖テラスはカフェなどを備え、標高1108メートルから琵琶湖を見下ろすインスタ映えスポットとして若い女性らを中心に人気で、担当者は「SNS効果がなければ、これほど集客数は伸びなかった」と驚く。30年8月には新テラスもオープンし、さらなる集客につなげた。
◆女性らがスマホで風景を撮影
琵琶湖から吹き抜ける風が心地よい高地に位置する箱館山スキー場(高島市)では30年夏、親子連れや中高年のハイカーらに交じり、若いカップルや女性たちの姿があちこちに見られた。
お目当ては新しく営業した2つの施設。その1つ、標高630メートル地点に設けられた山頂テラス「びわ湖の見える丘」は、琵琶湖に浮かぶ竹生島や、対岸の伊吹山などが眺望できる絶景スポットだ。テラス前では若い女性らが列を作り、歓声をあげながらスマートフォンなどで風景を撮影。本格的な一眼レフを用いてポーズにこだわりながら撮影する人の姿も見られた。
冬季に「ゲレンデ食堂」として営業する建物を改修し、「びわ湖の見える丘」とともに開業したパフェ専門店のカフェ「LAMP(ランプ)」も人気だ。
看板メニューはランプの明かりをともす部分にグラスを載せ、フルーツを盛りつけたパフェ。無数のランプがともり、幻想的な雰囲気に包まれる店内とともに撮影する人が絶えない。
写真映えするスポットを求めて夏休みの旅行先を決めるという大学生の溝口富美乃さん(20)は「(びわ湖の見える丘やランプは)インスタで見て行きたいと思った。こんなきれいな場所があるとは知らなかった。良い写真が撮れたので自慢したい」と喜ぶ。
同スキー場によると、オフシーズンの7〜8月に訪れた人は前年同期比約1万3千人増の約7万人。担当者は「インスタグラムの拡散力に目をつけて企画したが、思っていた以上の反響だ。大勢の観光客が訪れる人気施設になれば」と話す。
◆経験を共有が動機
観光とメディア文化に詳しい立命館大の遠藤英樹教授(観光社会学)は「SNSはテレビや雑誌よりも空いた時間に気軽に接することができるため、利用者が急増している。今は旅行先を決める際に、ガイドブックを買わずにインスタグラムなどを活用するケースが多いのではないか」と分析する。
SNSの普及で、誰もが気軽に写真や動画を投稿し、情報を発信できるようになった。遠藤教授は「SNSは受け取った情報を瞬時に拡散できる。1人が経験したことを何万人もの人が共有し、観光地に行きたいという動機づけにつながっている」と説明する。
SNSを通じた集客には滋賀県も期待を寄せる。県観光交流局の担当者は「インスタグラムなどの集客効果に着目し、31年度からの新指針としてより明確にSNSを通じた観光対策を打ち出したい」と意気込む。具体的な計画は未定だが、宿泊客を増やすために「朝型」と「夜型」の観光を県のインスタグラムなどを活用してPRするという。
2019.1.10 14:00
https://www.sankei.com/smp/premium/news/190110/prm1901100003-s1.html
◆国宝の3倍以上が訪問
県によると、29年の観光客数でトップに輝いたのは、27年にオープンした菓子製造販売会社・たねやグループの旗艦店「ラ コリーナ近江八幡」(近江八幡市)。国宝・彦根城の83万6300人の3倍以上となる283万3900人が訪れた。
和菓子や洋菓子の売り場が並び、職人が目の前でお菓子を焼き上げる工房やカフェが併設された店舗部分も人気だが、何といっても観光客を引きつけたのはそのユニークな外観だ。屋根一面が芝におおわれた建物は周囲の自然豊かな景観ともマッチ。建物を背景に記念撮影する人も多く、SNS映えする観光スポットを紹介するサイト「SNAPLACE(スナップレイス)」がまとめた「インスタ映えスポットランキング」で全国4位にランクインした。
一方、大津市の高原リゾート「びわ湖バレイ」は28年にオープンした琵琶湖を一望できる山頂の休憩スペース「びわ湖テラス」が話題を呼び、観光客数は27年の37万2300人から29年は60万7100人に増加した。
びわ湖テラスはカフェなどを備え、標高1108メートルから琵琶湖を見下ろすインスタ映えスポットとして若い女性らを中心に人気で、担当者は「SNS効果がなければ、これほど集客数は伸びなかった」と驚く。30年8月には新テラスもオープンし、さらなる集客につなげた。
◆女性らがスマホで風景を撮影
琵琶湖から吹き抜ける風が心地よい高地に位置する箱館山スキー場(高島市)では30年夏、親子連れや中高年のハイカーらに交じり、若いカップルや女性たちの姿があちこちに見られた。
お目当ては新しく営業した2つの施設。その1つ、標高630メートル地点に設けられた山頂テラス「びわ湖の見える丘」は、琵琶湖に浮かぶ竹生島や、対岸の伊吹山などが眺望できる絶景スポットだ。テラス前では若い女性らが列を作り、歓声をあげながらスマートフォンなどで風景を撮影。本格的な一眼レフを用いてポーズにこだわりながら撮影する人の姿も見られた。
冬季に「ゲレンデ食堂」として営業する建物を改修し、「びわ湖の見える丘」とともに開業したパフェ専門店のカフェ「LAMP(ランプ)」も人気だ。
看板メニューはランプの明かりをともす部分にグラスを載せ、フルーツを盛りつけたパフェ。無数のランプがともり、幻想的な雰囲気に包まれる店内とともに撮影する人が絶えない。
写真映えするスポットを求めて夏休みの旅行先を決めるという大学生の溝口富美乃さん(20)は「(びわ湖の見える丘やランプは)インスタで見て行きたいと思った。こんなきれいな場所があるとは知らなかった。良い写真が撮れたので自慢したい」と喜ぶ。
同スキー場によると、オフシーズンの7〜8月に訪れた人は前年同期比約1万3千人増の約7万人。担当者は「インスタグラムの拡散力に目をつけて企画したが、思っていた以上の反響だ。大勢の観光客が訪れる人気施設になれば」と話す。
◆経験を共有が動機
観光とメディア文化に詳しい立命館大の遠藤英樹教授(観光社会学)は「SNSはテレビや雑誌よりも空いた時間に気軽に接することができるため、利用者が急増している。今は旅行先を決める際に、ガイドブックを買わずにインスタグラムなどを活用するケースが多いのではないか」と分析する。
SNSの普及で、誰もが気軽に写真や動画を投稿し、情報を発信できるようになった。遠藤教授は「SNSは受け取った情報を瞬時に拡散できる。1人が経験したことを何万人もの人が共有し、観光地に行きたいという動機づけにつながっている」と説明する。
SNSを通じた集客には滋賀県も期待を寄せる。県観光交流局の担当者は「インスタグラムなどの集客効果に着目し、31年度からの新指針としてより明確にSNSを通じた観光対策を打ち出したい」と意気込む。具体的な計画は未定だが、宿泊客を増やすために「朝型」と「夜型」の観光を県のインスタグラムなどを活用してPRするという。
2019.1.10 14:00
https://www.sankei.com/smp/premium/news/190110/prm1901100003-s1.html