タイ警察は1年前ほどから、査証(ビザ)が失効している不法滞在者と不法移民の摘発を理由に「不法滞在外国人X線」作戦を実施している。
だが、その人種差別的な手法と、難民まで逮捕されてしまう恐れがある同作戦に対し、懸念の声が上がっている。
タイは、物価の安さと風光明媚(めいび)なビーチの魅力に引かれる観光客や、いかがわしい性風俗の刺激を求める一部の人々も含め、年間数千万人もの旅行者を呼び込んでいる。
一方で、法規制に抜け穴が多く、簡単に国境を越えられ、汚職がはびこっていることから、国際犯罪の拠点にもなってきた。
こうした中で当局はX線作戦を強化し、ここ数週間で1000人以上を逮捕。
その大多数が、ビザが失効している不法滞在者だった。
逮捕された外国人の大多数は、近隣諸国出身者だ。
だが、肌の色に基づいて捜査対象を選ぶ手法をめぐり、人種差別的な色合いが見られる同作戦に対する懸念が広がっている。
「われわれの職務は、肌の黒い善良な人物と、肌の黒い、罪を犯していそうな人物を見分けることだ」と、入国管理局のスラチェート・ハックパーン(Surachate Hakparn)局長はAFPに説明した。
■疑わしきは「肌の黒い人物」
AFPが取材した10月初めのある晩、警察はバンコク市内の歓楽街ナナ(Nana)地区から取り締まりを開始した。
75人前後の警察官が整列し、そのうちの1人が「疑わしいのは、肌の黒い人物だ」と叫んだ。
「まず、身体検査をし、次にパスポートを調べろ」
取り締まり開始後、すぐに何人かが呼び止められた。
そのうちの3人はマリ出身で、その場で薬物検査を受けさせられた。
深夜11時55分までの逮捕者は約30人に及び、そのほぼ半数が黒人だった。
■刑務所のような状況に送り込まれる難民の子どもたち
タイは、姿を消すための場所として知られている。
ビザの審査が緩いことを悪用し、他人に成り済ますこともでき、当局にとって頭痛の種となっている。
一方で人権団体は、バンコクを経由して第三国に再定住を希望する難民が、法的な後ろ盾がないために警察のX線作戦に巻き込まれる可能性もあると指摘する。
人権団体フォーティファイ・ライツ(Fortify Rights)の推定によれば、こうしたケースに当てはまるのは大人約100人、子ども30人ほど。
その大多数がパキスタン人だが、シリアやソマリア出身者もいるという。
「タイの入国管理局は、取り締まりによって難民まで逮捕し、子どもたちを刑務所のようなひどい状況下に送り込んでいる。
また、南アジアやアフリカ出身の人々に対する取り締まりの方針には、明らかに人種差別的な側面があるように思える」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)アジア部門責任者ブラッド・アダムス(Brad Adams)氏は指摘する。
だが、当局は非を認めない。
スラチェート氏によると、タイに不法滞在する外国人は6000人を超えているという。
「家の中をきれいにするには、善良な人を招き入れ、悪人は追い出さなければならない。国の安定を保つためだ」とスラチェート氏は述べた。
http://www.afpbb.com/articles/-/3194362