岸和田市内をだんじりが勢いよく走り抜けた=15日午後、大阪府岸和田市(鈴木健児撮影)
テレビで活躍するお笑いタレントらの影響などで、すっかり全国区となった「関西弁」。その中核は主に大阪で話される「大阪弁」だが、同じ大阪でも地域によって河内(かわち)弁、泉州弁と違いがあることは、大阪人でなければ知らないだろう。中でも大阪府南部の大阪湾沿岸地域の泉州弁は同じ関西弁エリア内でも「怖い」「荒っぽい」という印象を持たれているが、住民たちは泉州弁を愛して止まない。この強固なアイデンティティーの源は、泉州各地で毎年盛り上がる「だんじり祭り」にあるようだ。(古野英明)
■語尾が変?
「学生時代、大阪市内や北摂などに住む友人らから『語尾が変や』といわれ、愕然としました」
貝塚市に住む40代の会社員女性こう話す。泉州弁は語尾に「け」や「やし」をつけるのが特徴。一部河内弁などとも共通するが、例えば標準語で「本当か」は大阪弁では「ほんまか」だが、これが泉州弁になると「ほんまけ」と変化する。
こうした語尾の特徴に加え、敬語らしき言葉がほとんどないことが、他の関西弁エリアの人たちにも「荒っぽい」「怖い」という印象をもたれがちだ。
泉大津市出身で現在は堺市に住む会社員男性(55)は、休みの日に上司から電話がかかってきたときの母親の応対についてこう明かす。
「『○○け? あの子はどっか行ってらーよ』と答えたらしい。後で上司から『お前の家には二度と電話せん!』といわれた」
これが関西以外の地域の人になると、日常の会話を交わしているだけなのに「けんかをしている」と誤解させてしまうようだ。宮城県仙台市から岸和田市に引っ越してきた30代女性は「道ばたや自販機の前で大人同士が大声で怒鳴り合っているのをよく見る。最初はみんな怒りっぽいのかなと思った。違う国に来た気分」と話す。
このほか、泉州地域独特の言葉として「鍵をかぐ(かける)」「おっしょー(なんとまあ)」「おっちんする(座る)」などがある。
■敬意は「口答えしない」ことで示す
全国の方言を研究する富山大の中井精一教授によると、方言は地理的要因に大きく影響される。南北を和歌山と大阪に挟まれている泉州地方では北の方ほど大阪弁に、南の方ほど和歌山弁の影響が強くなることが、聞き取り調査で判明しているという。
中井教授は「昨今は大阪市内に通学・通勤する人が増えてきているため、泉州の人たちも標準的な大阪弁を話すようになってきているようだ。会話が成立しないと仕事にならないし、人間関係もうまくいかないためだろう」と説明する。その上で「だから昼間は大阪弁を話すが、仕事を終えて電車に乗って大和川を渡ると『地元に帰ってきた。泉州弁を思う存分しゃべれる』とホッとする、という人が多い。泉州の人たちは、いわゆる『バイリンガル』だ」と説明する。
中井教授が、「どうやって相手に敬意を表すのか」と泉州人に調査したところ、「口答えをしないこと」、つまり態度で示すという答えが多かったという。
ただ、敬語がないことをもって泉州弁が「荒っぽい」というマイナスイメージで語られることに、中井教授は抵抗を覚えるといい、「敬語がないというのは実は幸せなこと」と指摘する。「敬語というのは、上下関係をはっきりさせるための言葉で、その根底には身分差別がある。それがないのは、皆が平等ということで、ざっくばらんでアットホームな社会である証し」と話す。
■だんじりで継承
泉州弁でもう一つ興味深いのは、岸和田が有名な「だんじり祭り」との関係だ。中井教授の調査では、大阪市の南に隣接する堺市では、日常会話も大阪弁に近くなってきている。堺市以南のだんじりが盛んな地域では、泉州弁が深く根付いているという。
「だんじりは、地域の人たちが老若男女、わけへだてなく参加し、子供は幼いころから、年配者が話す泉州弁に接する。そして、本祭りが終わったら、その瞬間から来年に向かって動きだすので、1年を通して寄り合いなどで泉州弁が飛び交う。根付かないわけがない」と力説する。つまり、だんじりによって、泉州弁は脈々と受け継がれているというのだ。
一時期、東京に赴任していたという岸和田市の男性(50)は「戻ってきたときは、泉州弁を聞いて『怖っ』と思ったが、寄り合いを重ねているうちに感覚が戻ってきて、だんじりの本祭りを迎えたころには泉州弁にどっぷりとつかった。泉州弁って、気持ちがいい」と話した。
産経新聞 2018.10.23 09:00
https://www.sankei.com/west/news/181023/wst1810230003-n1.html
テレビで活躍するお笑いタレントらの影響などで、すっかり全国区となった「関西弁」。その中核は主に大阪で話される「大阪弁」だが、同じ大阪でも地域によって河内(かわち)弁、泉州弁と違いがあることは、大阪人でなければ知らないだろう。中でも大阪府南部の大阪湾沿岸地域の泉州弁は同じ関西弁エリア内でも「怖い」「荒っぽい」という印象を持たれているが、住民たちは泉州弁を愛して止まない。この強固なアイデンティティーの源は、泉州各地で毎年盛り上がる「だんじり祭り」にあるようだ。(古野英明)
■語尾が変?
「学生時代、大阪市内や北摂などに住む友人らから『語尾が変や』といわれ、愕然としました」
貝塚市に住む40代の会社員女性こう話す。泉州弁は語尾に「け」や「やし」をつけるのが特徴。一部河内弁などとも共通するが、例えば標準語で「本当か」は大阪弁では「ほんまか」だが、これが泉州弁になると「ほんまけ」と変化する。
こうした語尾の特徴に加え、敬語らしき言葉がほとんどないことが、他の関西弁エリアの人たちにも「荒っぽい」「怖い」という印象をもたれがちだ。
泉大津市出身で現在は堺市に住む会社員男性(55)は、休みの日に上司から電話がかかってきたときの母親の応対についてこう明かす。
「『○○け? あの子はどっか行ってらーよ』と答えたらしい。後で上司から『お前の家には二度と電話せん!』といわれた」
これが関西以外の地域の人になると、日常の会話を交わしているだけなのに「けんかをしている」と誤解させてしまうようだ。宮城県仙台市から岸和田市に引っ越してきた30代女性は「道ばたや自販機の前で大人同士が大声で怒鳴り合っているのをよく見る。最初はみんな怒りっぽいのかなと思った。違う国に来た気分」と話す。
このほか、泉州地域独特の言葉として「鍵をかぐ(かける)」「おっしょー(なんとまあ)」「おっちんする(座る)」などがある。
■敬意は「口答えしない」ことで示す
全国の方言を研究する富山大の中井精一教授によると、方言は地理的要因に大きく影響される。南北を和歌山と大阪に挟まれている泉州地方では北の方ほど大阪弁に、南の方ほど和歌山弁の影響が強くなることが、聞き取り調査で判明しているという。
中井教授は「昨今は大阪市内に通学・通勤する人が増えてきているため、泉州の人たちも標準的な大阪弁を話すようになってきているようだ。会話が成立しないと仕事にならないし、人間関係もうまくいかないためだろう」と説明する。その上で「だから昼間は大阪弁を話すが、仕事を終えて電車に乗って大和川を渡ると『地元に帰ってきた。泉州弁を思う存分しゃべれる』とホッとする、という人が多い。泉州の人たちは、いわゆる『バイリンガル』だ」と説明する。
中井教授が、「どうやって相手に敬意を表すのか」と泉州人に調査したところ、「口答えをしないこと」、つまり態度で示すという答えが多かったという。
ただ、敬語がないことをもって泉州弁が「荒っぽい」というマイナスイメージで語られることに、中井教授は抵抗を覚えるといい、「敬語がないというのは実は幸せなこと」と指摘する。「敬語というのは、上下関係をはっきりさせるための言葉で、その根底には身分差別がある。それがないのは、皆が平等ということで、ざっくばらんでアットホームな社会である証し」と話す。
■だんじりで継承
泉州弁でもう一つ興味深いのは、岸和田が有名な「だんじり祭り」との関係だ。中井教授の調査では、大阪市の南に隣接する堺市では、日常会話も大阪弁に近くなってきている。堺市以南のだんじりが盛んな地域では、泉州弁が深く根付いているという。
「だんじりは、地域の人たちが老若男女、わけへだてなく参加し、子供は幼いころから、年配者が話す泉州弁に接する。そして、本祭りが終わったら、その瞬間から来年に向かって動きだすので、1年を通して寄り合いなどで泉州弁が飛び交う。根付かないわけがない」と力説する。つまり、だんじりによって、泉州弁は脈々と受け継がれているというのだ。
一時期、東京に赴任していたという岸和田市の男性(50)は「戻ってきたときは、泉州弁を聞いて『怖っ』と思ったが、寄り合いを重ねているうちに感覚が戻ってきて、だんじりの本祭りを迎えたころには泉州弁にどっぷりとつかった。泉州弁って、気持ちがいい」と話した。
産経新聞 2018.10.23 09:00
https://www.sankei.com/west/news/181023/wst1810230003-n1.html