2018年08月09日 17時25分 JST | 更新 2018年08月09日 18時14分 JST
東京医科大の入試の2次試験の「適性検査」で、性的指向や性的自認に関する質問を含む心理テストを実施していたことが分かった。「性生活に満足している?」「異性より同性に強い魅力を感じる?」などの質問が含まれている。このテストは一部自治体の教員採用試験などで導入され、合否判定に使われてきたことが問題視されてきた。
宮澤啓介・同大学長職務代理は8月7日の記者会見で使用の事実を認め、「以前から踏襲してきた。ご指摘いただいたので、前向きに改善していきたい」と述べた。
同大入試は、1次試験(筆記試験)を通過した受験生に、2次試験で面接、小論文と、適性試験を実施している。
宮澤学長職務代理によると、同大は適性試験の一つに、「MMPI(ミネソタ多面人格目録検査)」を採用している。
■MMPIとは
MMPIは、1940年代に精神疾患の有無を測定する目的で米国の研究者が開発した心理テスト。550の質問に「当てはまる」「当てはまらない」、もしくは「どちらともいえない」と答える。MMPIの中から250問ないし124問を抜粋した簡易版「MINI」「MINI-124」もある。同大の適性検査は、このうちのどれかを使用しているとみられる。
MMPIでは、回答内容からその人の性格に関する10種類の尺度を測り、その一つに男らしさ/女らしさを測る尺度も含まれている。
■「雇用差別にあたるので不適切」との判決も
教育とジェンダーに詳しい金沢大学人文学類の岩本健良・准教授によると、MMPIは本来の臨床目的を外れて企業や自治体での採用試験の際にも使われてきた。
だが、性的指向や宗教などに関する質問が差別的で、プライバシーの侵害に当たる、という指摘も相次いでいる。2005 年にはアメリカ連邦裁判所で MMPI を人事選考で用いるのは雇用差別にあたるので不適切との判決も出ており、採用や配属・異動等に用いることは原則として使用禁止となっているという。
日本でも公務員の採用試験などで使われていたが、質問が「人権侵害」という指摘がLGBTの当事者団体などから上がるようになり、2012年、衆院法務委員会で採用試験で使用することの妥当性が委員からただされ、滝実法相(当時)が「不用意な導入がどれだけ人を傷つけるか認識が薄かった」と答弁した経緯がある。
ハフポスト日本版が8月3日に配信した記事では、東京医科大を受験した女性が、適性試験への違和感を次のように綴っている。
「あなたは現在の性生活に満足していますか?」というようなセクシュアリティーに関わ
るような内容の質問が3問ほどあり、回答中に面食らったことを覚えています。
また、医学部の受験生が情報交換に使っているネットの掲示板で、同大の適性検査でどんな質問が出たのか、話題に挙がった場所で拾ったところ、
「歌手になりたいと思います」
「誰かが私の心を支配しています」
「異性より同性に強い魅力を感じます」
「性生活には満足しています」
「セックスのことで問題を起こしたことは一度もありません」
「浮気がしたい」
――などが該当した。
■入試にMMPIを使うと何が問題なのか
岩本准教授は、MMPIを入試の適性試験に使うことの問題点を以下のように指摘する。
・性的指向やセクシュアリティ、宗教的信条、家族などの質問を含んでいる。これを試験において尋ねることは、LGBTや宗教・家族的状況に対する差別およびハラスメント、プライバシー侵害にあたり、また受験者の人権を侵害する行為である。
・MMPIは、特定の職業に望ましいとする適性を測定する心理テストではない(その証拠に、「○○(という職業)になりたい」という質問がいくつも含まれている)。
・男らしさ/女らしさの尺度は、1940年代のアメリカ社会の伝統的性別役割分業を前提として作られており、本質的に精神病理的な傾向を示す尺度ではない。まして、学校や職業・スポーツ等さまざまな面で男女平等な社会参画が求められている今日の社会において、この尺度を選抜の材料として使用することは時代錯誤といえる。
・MMPIを教員や公務員・警察官等における採用試験等でテストを用いなければならない必然性はない。
・適性検査での利用について、検査の国際的な評価基準である「テストスタンダード」に基づいて評価をすると、質問項目の倫理的妥当性や、受験者への説明責任とその体制、など複数の項目において大きな問題点がある。
全文
https://m.huffingtonpost.jp/2018/08/09/mmri-tokyomeduniv_a_23498891/