先ごろ国土交通省が発表した2017年公示地価で、商業地の全国対象6491地点の価格上昇率トップ10に、京都市の3地点が入った。いずれも鉄道のターミナルや観光地から近い宿泊施設の好適地で、訪日観光客の増加で活発化しているホテルやゲストハウスの開発が価格を押し上げた。さらなる需要拡大を見込む事業者は強気の開発を続けるが、過当競争を指摘する声も出始めている。観光を「成長産業」と位置づける政府方針の流れを受け、過熱する「お宿バブル」の行方に警戒感が広がっている。
「住人の亡くなった民家がこの2年ほどで次々にゲストハウスに変わった」。京都市南区の東九条地域に住む40代の女性はそう話すと、周囲を指さした。古い木造の長屋では、のれんや堤灯を掲げたゲストハウスが住宅と混在して並ぶ。宿泊客がキャリーケースを引く音も絶えないという。
同地域はJR京都駅(下京区)まで徒歩約5分と近く、便利が良い。駅真南の地点は17年の公示地価が前年比で27・3%のプラスとなり、商業地の上昇率で京都府内1位、全国でも3位となった。一帯ではJR西日本や京阪ホールディングスなどのホテル建設が活発化し、ゲストハウスの開業も相次いでいる。
南区で起きている宿泊施設ブームは市内の縮図だ。市が17年中に旅館業法に基づき開業を許可した宿泊施設は925件に上り、前年から280件(43・4%)増えた。とりわけ急増しているのは、町家を改装したゲストハウスや格安ホステルといった簡易宿所だ。市内の簡易宿所は17年末時点で計2055施設。うち8割の1677施設が15〜17年の3年間に開業した。
こうした小規模な宿の開発を支え、市中心部の地価上昇の源泉となってきたのが国内外の投資マネーだ。「京都の宿泊施設への投資は高利回り。ここ数年の投資家の矛先は猫も杓子(しゃくし)もゲストハウスだった」。市内で簡易宿所を約40棟運営する不動産開発会社レアル(下京区)の児玉舟社長は、こう説明する。地域金融機関の審査担当者も「転売利益を稼ごうとする投機的な開発も見られる」といい、バブルを助長しかねない資金需要を慎重に見極める。
不動産や金融業界は、実需を上回るペースで大量供給される宿泊施設の動向を注視する。京都の20年の宿泊需要予測に対し、ホテルの客室供給量が1万1千室以上も上回るという民間試算も発表された。高騰する地価と建設費の下で開発を進めた場合、景気後退局面に入ると一気に採算が悪化する可能性も否めない。
地元不動産会社、八清(はちせ)(同区)の西村孝平社長は「簡易宿所が急増し、競争が激しくなった」と打ち明ける。同社は京町家を宿泊施設に改装し、首都圏在住者に別荘を兼ねた収益物件として売ったり、自社で運営したりしてきたが、2年ほど前から稼働率が低下。顧客の中には売り時と判断し、買ったときより高値で手放す人もいるという。
公示地価の府代表幹事を務めた不動産鑑定士の森口匠氏は「ゲストハウスはこれから淘汰(とうた)の時代に入るのではないか。地価をさらに上げるとは考えにくい」と指摘している。
yahooニュース(京都新聞) 4/1(日) 17:20配信
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