「日本初のダム撤去」完了、悪臭減って清流戻る
2018年03月31日 14時56分
http://www.yomiuri.co.jp/eco/20180329-OYT1T50075.html?from=ytop_main1
熊本県八代市の県営荒瀬ダムの撤去工事が今月下旬に完了した。
本格的なコンクリートダムの撤去は全国初となる。悪臭や水質悪化の要因となっていたダム湖が姿を消して球磨川に清流が戻り、生物の種類も増えた。地元住民らは「ダム撤去の町」を掲げて地域おこしに乗り出した。
◆悪臭解消
ダムがあった場所から約100メートル下流に住む下村勉さん(88)は「長年悩まされた悪臭と騒音から解放された」と喜ぶ。
少雨の夏場は放水されずにダム湖はよどみ、悪臭が屋内まで流れ込んだ。雨の多い時には、放水のたびに窓が音を立てて揺れた。ダム湖に堆積たいせきした汚泥による環境悪化などから、地元で撤去を求める声が高まり、潮谷義子知事(当時)は2002年、ダム撤去を表明した。
撤去工事で悪臭と騒音は解消された。県荒瀬ダム撤去室によると、撤去工事が始まった12年以降、県がダムの上下流4か所で行った水質調査で、汚染の指標となる生物化学的酸素要求量(BOD)の値は、国がきれいな河川の基準とする1リットル当たり2ミリ・グラム以下で推移している。
県の調査では、流域の多くの地点で底生生物の種類が増えているという。ダム近くの調査地点では昨冬、カゲロウやカワゲラなど54種の生き物が確認され、04年度の調査時の約5倍になった。同室の担当者も「多様な生物を育む環境が整ってきた」と語る。
川に流れが生まれ、瀬や砂州が姿を現した。アユの産卵に適した河床も増えた。下村さんは「豊かな球磨川を次世代に引き継いでいきたい」と話す。
ダム撤去で土砂が流れ出し、河口域の干潟にも変化が起きた。干潟で生物を観察する環境カウンセラーの女性(68)によると、カニの仲間「ハクセンシオマネキ」など、希少生物の生息域も広がっているという。女性は「撤去の効果は大きい」と歓迎する。
◆「撤去の町」PR
ダムがあった八代市坂本町の坂本住民自治協議会長、森下政孝さん(76)も「子供の頃に遊んだ球磨川が戻ってきた」と実感する。最近は、川遊びやゴムボートで川を下る「ラフティング」を楽しむ人が増えたという。
市坂本支所によると、ダムが完成した1955年の坂本町の人口は約1万9000人。今は約3600人まで減り、高齢化率は5割を超える。
「日本で最初にダムを撤去した町」を掲げた地域おこしの取り組みも始まった。森下さんらは昨夏、球磨川を眺めながらアユ料理を楽しめる「食処さかもと鮎あゆやな」を仮設店舗で開業した。来月には新店舗を設け、今夏から本格的な営業を始める。
県はダム本体の一部を遺構として残し、展望スペースなどを整備する。
森下さんは「ダム撤去で清流を取り戻した町として全国にPRしていきたい。今後は農家レストランの開店や特産品開発を進めて雇用の場を創出し、人口減に歯止めをかけたい」と意気込んでいる。(関屋洋平)
◆県営荒瀬ダム=球磨川中流に建設された水力発電専用ダム。幅210メートル、高さ25メートル、総貯水容量1013万立方メートル。2008年に就任した蒲島知事は、巨額の費用がかかることを理由に一度は撤去方針を撤回したが、10年に正式に撤去を決めた。12年から工事が始まった。環境調査などを含む総費用は約84億円。
2018年03月31日 14時56分
http://www.yomiuri.co.jp/eco/20180329-OYT1T50075.html?from=ytop_main1
熊本県八代市の県営荒瀬ダムの撤去工事が今月下旬に完了した。
本格的なコンクリートダムの撤去は全国初となる。悪臭や水質悪化の要因となっていたダム湖が姿を消して球磨川に清流が戻り、生物の種類も増えた。地元住民らは「ダム撤去の町」を掲げて地域おこしに乗り出した。
◆悪臭解消
ダムがあった場所から約100メートル下流に住む下村勉さん(88)は「長年悩まされた悪臭と騒音から解放された」と喜ぶ。
少雨の夏場は放水されずにダム湖はよどみ、悪臭が屋内まで流れ込んだ。雨の多い時には、放水のたびに窓が音を立てて揺れた。ダム湖に堆積たいせきした汚泥による環境悪化などから、地元で撤去を求める声が高まり、潮谷義子知事(当時)は2002年、ダム撤去を表明した。
撤去工事で悪臭と騒音は解消された。県荒瀬ダム撤去室によると、撤去工事が始まった12年以降、県がダムの上下流4か所で行った水質調査で、汚染の指標となる生物化学的酸素要求量(BOD)の値は、国がきれいな河川の基準とする1リットル当たり2ミリ・グラム以下で推移している。
県の調査では、流域の多くの地点で底生生物の種類が増えているという。ダム近くの調査地点では昨冬、カゲロウやカワゲラなど54種の生き物が確認され、04年度の調査時の約5倍になった。同室の担当者も「多様な生物を育む環境が整ってきた」と語る。
川に流れが生まれ、瀬や砂州が姿を現した。アユの産卵に適した河床も増えた。下村さんは「豊かな球磨川を次世代に引き継いでいきたい」と話す。
ダム撤去で土砂が流れ出し、河口域の干潟にも変化が起きた。干潟で生物を観察する環境カウンセラーの女性(68)によると、カニの仲間「ハクセンシオマネキ」など、希少生物の生息域も広がっているという。女性は「撤去の効果は大きい」と歓迎する。
◆「撤去の町」PR
ダムがあった八代市坂本町の坂本住民自治協議会長、森下政孝さん(76)も「子供の頃に遊んだ球磨川が戻ってきた」と実感する。最近は、川遊びやゴムボートで川を下る「ラフティング」を楽しむ人が増えたという。
市坂本支所によると、ダムが完成した1955年の坂本町の人口は約1万9000人。今は約3600人まで減り、高齢化率は5割を超える。
「日本で最初にダムを撤去した町」を掲げた地域おこしの取り組みも始まった。森下さんらは昨夏、球磨川を眺めながらアユ料理を楽しめる「食処さかもと鮎あゆやな」を仮設店舗で開業した。来月には新店舗を設け、今夏から本格的な営業を始める。
県はダム本体の一部を遺構として残し、展望スペースなどを整備する。
森下さんは「ダム撤去で清流を取り戻した町として全国にPRしていきたい。今後は農家レストランの開店や特産品開発を進めて雇用の場を創出し、人口減に歯止めをかけたい」と意気込んでいる。(関屋洋平)
◆県営荒瀬ダム=球磨川中流に建設された水力発電専用ダム。幅210メートル、高さ25メートル、総貯水容量1013万立方メートル。2008年に就任した蒲島知事は、巨額の費用がかかることを理由に一度は撤去方針を撤回したが、10年に正式に撤去を決めた。12年から工事が始まった。環境調査などを含む総費用は約84億円。