東日本大震災で被災した東北地方の沿岸部で、方言が徐々に廃れている。
「負げねど! 宮城」「がんばっぺし! 大槌」といったスローガンで励まし合い、復興に向かって進んできたが、避難などで言葉が語り継がれる若年層の流出が著しく、「『地域の絆』をつくる言葉が消滅の危機にある」と警鐘を鳴らす研究者もいる。
震災翌年の2012年、文化庁の委託で行われた岩手大による岩手県沿岸南部での聞き取り調査では、40歳以上やその親の世代は方言を日常的に使用しているが、それより下の世代の間では使われていないとの結果が出た。調査に当たった大野眞男教授は「生活基盤が失われ、働き盛りの世代が子どもを連れて外に出た。方言の継承にとって大変厳しい状況だ」と危機感をあらわにする。
宮城県沿岸部でも似たような状況といい、東京電力福島第1原発事故による避難指示が続く福島県の一部地域ではさらに深刻だ。避難先の福島市の小学校に勤務する方言研究者の小林初夫教諭は「3世代同居が普通だったが、原発避難で家族がばらばらになり、コミュニティーが崩壊した」と話す。
文化庁国語課の担当者は「福島から避難してきたことで、いじめや差別を受ける不安から方言を使いづらい現状がある。避難指示解除で帰還する人には高齢者が多いが、孤立しがちで方言を話す機会も薄れている」と指摘する。
継承を後押しする動きもある。民話を方言で伝えてきた岩手県釜石市の語り部グループ「漁火の会」は、市内の学校に活動の足場を広げている。同県大槌町の吉里吉里地区では、ボランティアの明治学院大の学生が地元住民の協力を得て、方言を取り入れた「吉里吉里カルタ」を2015年に作成。小学校の授業などで活用されている。標準語で驚いた時に発する「おやまあ」を意味する「ばぁらぁ」などの吉里吉里語を収録している。
21年度から全面実施される中学校の新学習指導要領の国語の説明書には「方言の保存、継承がコミュニティー再生に寄与するなど、地域の復興に活用する取り組みも進められている」との記述が新たに盛り込まれた。大野教授は「戦後の国語教育は共通語を話せるようにすることに力点が置かれていた。学校現場で方言を取り入れた教育が広がる可能性がある」と前向きに評価している。
方言を取り入れた吉里吉里カルタ=5日、岩手県大槌町
2018/03/07-07:28
時事ドットコム
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018030700281&g=soc