全長167キロ、停留所数はなんと166。奈良交通の「八木新宮特急」は、高速道路を走らない日本一長い路線バスだ。近鉄大和八木駅(奈良県橿原市)とJR紀勢線の新宮駅(和歌山県新宮市)を結ぶこの路線。高校生の頃から「いつかは乗りたい」という夢がかない、乗車することに。景色の移ろい、乗客との交流。運賃5250円の価値は……たしかにありました。(朝日新聞徳島総局記者・鈴木智之)
【09:59発 0キロ 新宮駅】
<「大和八木まで約6時間40分」>
バスは、1日3往復。新宮駅発は午前5時53分、7時46分、9時59分の3便。選んだのは9時59分発の終バスだ。あきらめて途中下車しようものなら、次の便は翌日だ。
出発5分前、駅前の停留所で、あこがれのバスは待っていた。青空の下、「大和八木」行きを示す電光掲示板がまぶしい。記念撮影もそこそこに、眺めの良い前方の座席を確保した。同乗者は温泉へ向かう数人の外国人客ら。定刻通りに出発。液晶画面には「大和八木まで約6時間40分」とある。改めて長旅を覚悟する。
あっという間に市街地を抜け、雄大な紀伊山地へと分け入る。熊野川沿いの国道168号を順調に北上。天候に恵まれ、気分は晴れやかだ。
物心ついた時からバス好きだった私には幸せなひととき。10時間でも20時間でも乗っていられそうだ。
およそ1時間で、川湯、湯の峰の温泉街へ。普通車でも運転が難しい曲がりくねった道を、ベテラン運転手が、いともたやすく進んでゆく。
.
【11:09発 39キロ 湯の峰温泉】
<「このまま乗ったらいつ着くんやろ」>
外国人客が降りていった。代わりに60代とみられる女性が1人乗ってきた。湯治に訪れ、奈良市の自宅へ帰るという。「このまま乗ったらいつ帰れるんやろ」。
聞けば往路は大阪まで出て、和歌山の紀伊田辺駅までJR紀勢線で南下し、紀伊水道側から紀伊山地に入るバスに乗ってきたという。
帰りもあと10分ほどで着く本宮大社前で紀伊田辺行きのバスに乗り換えるつもりだったが、「大和八木行き」(奈良県の平野部まで一気に出られる)だと知ってこのバスで奈良県側まで北上した場合の到着時刻が気になったらしい。
バス運転中で調べられない運転手に代わって、スマホで検索。
「このバスに奈良県の五条駅まで乗り続けたら午後5時過ぎに奈良市に着きますよ」。紀伊田辺に出る方法より早いとはいえ、五条駅まで4時間以上同じバスに揺られる必要がある。
「時間かかっても紀伊田辺に出る方が楽かも」と運転手。女性はしばし迷っていたが、「このまま乗ります」。
【11:20発 43キロ 本宮大社前】
<険しい旧道を右に左に。バス旅ならでは>
世界遺産「熊野古道」で知られる熊野本宮大社最寄りのバス停を通過した。実はバス旅の安全を祈願して、前日にお参りしておいた。
バスはずんずん山道を進み、高度を上げる。「疲れませんか」。運転手が先ほどの女性を気遣う。「昔、バスの車掌をしていたの。思い出して楽しんでます」「それはそれは下手な運転はできませんね」
笑い声に包まれ、バスは県境を越える。東京23区よりも広い日本最大の村、奈良県十津川村だ。
改良された国道のバイパスを避け、集落がある険しい旧道を右に左に。バス旅ならではの景色だ。バス停で乗ってきた地元の人が数停留所乗っては降りていく。しっかりと生活に根ざした路線バスなんだなあ。
.
【12:14発 64キロ 十津川温泉】
<まだ半分に満たないという現実に疲れ>
出発から2時間10分。時刻は正午を回った。奈良交通十津川営業所前の停留所でトイレ休憩。正直、もうかなり達成感はある。距離がまだ全体の半分にも満たない現実にやや疲れを感じ始めた。
リクライニングのないバスにあと4時間以上乗り続けられるのか、心拍が上がる。停留所近くにあった温泉の流れる手洗い場で、ほっと一息。
>>2以降に続く
3/5(月) 7:00
withnews
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180227-00000001-withnews-l29&p=1
【09:59発 0キロ 新宮駅】
<「大和八木まで約6時間40分」>
バスは、1日3往復。新宮駅発は午前5時53分、7時46分、9時59分の3便。選んだのは9時59分発の終バスだ。あきらめて途中下車しようものなら、次の便は翌日だ。
出発5分前、駅前の停留所で、あこがれのバスは待っていた。青空の下、「大和八木」行きを示す電光掲示板がまぶしい。記念撮影もそこそこに、眺めの良い前方の座席を確保した。同乗者は温泉へ向かう数人の外国人客ら。定刻通りに出発。液晶画面には「大和八木まで約6時間40分」とある。改めて長旅を覚悟する。
あっという間に市街地を抜け、雄大な紀伊山地へと分け入る。熊野川沿いの国道168号を順調に北上。天候に恵まれ、気分は晴れやかだ。
物心ついた時からバス好きだった私には幸せなひととき。10時間でも20時間でも乗っていられそうだ。
およそ1時間で、川湯、湯の峰の温泉街へ。普通車でも運転が難しい曲がりくねった道を、ベテラン運転手が、いともたやすく進んでゆく。
.
【11:09発 39キロ 湯の峰温泉】
<「このまま乗ったらいつ着くんやろ」>
外国人客が降りていった。代わりに60代とみられる女性が1人乗ってきた。湯治に訪れ、奈良市の自宅へ帰るという。「このまま乗ったらいつ帰れるんやろ」。
聞けば往路は大阪まで出て、和歌山の紀伊田辺駅までJR紀勢線で南下し、紀伊水道側から紀伊山地に入るバスに乗ってきたという。
帰りもあと10分ほどで着く本宮大社前で紀伊田辺行きのバスに乗り換えるつもりだったが、「大和八木行き」(奈良県の平野部まで一気に出られる)だと知ってこのバスで奈良県側まで北上した場合の到着時刻が気になったらしい。
バス運転中で調べられない運転手に代わって、スマホで検索。
「このバスに奈良県の五条駅まで乗り続けたら午後5時過ぎに奈良市に着きますよ」。紀伊田辺に出る方法より早いとはいえ、五条駅まで4時間以上同じバスに揺られる必要がある。
「時間かかっても紀伊田辺に出る方が楽かも」と運転手。女性はしばし迷っていたが、「このまま乗ります」。
【11:20発 43キロ 本宮大社前】
<険しい旧道を右に左に。バス旅ならでは>
世界遺産「熊野古道」で知られる熊野本宮大社最寄りのバス停を通過した。実はバス旅の安全を祈願して、前日にお参りしておいた。
バスはずんずん山道を進み、高度を上げる。「疲れませんか」。運転手が先ほどの女性を気遣う。「昔、バスの車掌をしていたの。思い出して楽しんでます」「それはそれは下手な運転はできませんね」
笑い声に包まれ、バスは県境を越える。東京23区よりも広い日本最大の村、奈良県十津川村だ。
改良された国道のバイパスを避け、集落がある険しい旧道を右に左に。バス旅ならではの景色だ。バス停で乗ってきた地元の人が数停留所乗っては降りていく。しっかりと生活に根ざした路線バスなんだなあ。
.
【12:14発 64キロ 十津川温泉】
<まだ半分に満たないという現実に疲れ>
出発から2時間10分。時刻は正午を回った。奈良交通十津川営業所前の停留所でトイレ休憩。正直、もうかなり達成感はある。距離がまだ全体の半分にも満たない現実にやや疲れを感じ始めた。
リクライニングのないバスにあと4時間以上乗り続けられるのか、心拍が上がる。停留所近くにあった温泉の流れる手洗い場で、ほっと一息。
>>2以降に続く
3/5(月) 7:00
withnews
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180227-00000001-withnews-l29&p=1