https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180219-00010000-nknatiogeo-sctch
テッポウエビのパチパチ音、コククジラの食事の合図か
指をパチンと鳴らすだけでディナーにありつけたらいいのに、と思うことはないだろうか?
ある種のクジラにとって、その手の話はごく当たり前のことなのかもしれない。
テッポウエビは海でいちばん騒がしい生物だ。
彼らは左右非対称なはさみをもち、大きい方のはさみを超高速でかち合わせることで、パチンという破裂音を出す。
このときにできる大きな気泡が破裂する際には、近くの獲物を気絶させたり、殺したりするほどの衝撃波が発生する。
テッポウエビが集団で音を出すと暴風雨のような音になり、もっと数が多くなると、旅客機が頭上を通過しているような音になる。
米国オレゴン州立大学の研究チームは今回、寒冷なオレゴン沿岸の岩礁帯で、初めてこの音を捉えた。
この騒音が、近くにいる東太平洋のコククジラ(Eschrichtius robustus)に、次の食事の時間を教えているのではないかというのが
彼らの考えだ。彼らの研究成果は、オレゴン州ポートランドで開催された2018年「海洋科学学会(Ocean Sciences Meeting)」で
2月13日に発表された。
■音は聞こえど姿は見えず
科学者たちは最初からテッポウエビを探していたわけではなく、海中の雑音がコククジラのホルモンや
体に及ぼす影響の研究をしていた。
クジラ類はクジラもイルカも音に敏感であるため、海中の多様な音からさまざまな影響を受けている可能性があるからだ。
2016年、彼らはオレゴン州の沖合の寒冷な浅い海域で、漂流型の水中聴音器を使って海中の音のデータを収集する研究をはじめた。
「私たちの研究は、テッポウエビとは全然関係ありませんでした」とオレゴン州立大学の海洋音響学者ジョー・ハクセル氏は言う。
「このエリアに入ったときには本当に驚きました。静かだろうと思っていた場所で、テッポウエビの立てる騒音を聞かされたのですから」。
テッポウエビは亜熱帯の温暖な海域にすむとされ、これまでこの海域で確認されたことはなかった。
テッポウエビの姿を彼らはまだ確認していないものの、エビたちが沿岸の藻場の近くの岩礁の割れ目に隠れていることは知られている。
その一方で、テッポウエビが音を立てると、コククジラがアミ(同じ藻場にすむエビのような小さな甲殻類)を食べに
このエリアにやってくることを観察していた。
研究者たちはクジラたちが実際に餌を食べているのか、それとも餌を探しているだけなのかを調べるために、
ボートでクジラに近づいたり頭上にドローンを飛ばしたりした。その結果、クジラたちがアミを食べていることが確認できた。
研究チームは、テッポウエビが出す音がクジラをこの海域に引き寄せる要因の1つになっているのかもしれないと考えた。
テッポウエビが出す音は、クジラにとっては、食事を知らせる「ディナーベル」のようなものなのかもしれない。
コククジラは、夜も含め、ひっきりなしに餌を食べている。
常に視覚を利用できるわけではないため、敏感な聴覚でテッポウエビの出す音を捉えて、餌場に向かっている可能性は否定できない。
とはいえ研究者たちは、ある種の匂いなど、クジラを岩礁の近くに引き寄せる要因はほかにもあるのではないかと考えている。
「テッポウエビが立てる音はクジラの食事の合図になっている可能性があります」とハクセル氏は言う。
「クジラはさまざまな方法で餌を探していて、音も手がかりの1つになっているのかもしれません」
■耳をすませば
この研究は、オレゴン沿岸海域の音響環境を解明する試みの一環として行われた。
テッポウエビは大きい音を出すものの、生物多様性に富む海域に生息する動物の1つにすぎず、ほかにアシカや
ゼニガタアザラシなどの海洋生物もいる。
テッポウエビがいつからこの海域にいたのかは不明だが、ハクセル氏は、長い間気づかれずにいたとは考えにくいと言う。
「テッポウエビがいるのに、この音を聞いた人が誰もいなかったなんて想像できません」
研究チームは、今年の春から夏にかけて罠を仕掛け、テッポウエビを捕獲しようと考えている。
目標は、騒音を発しているテッポウエビの種名を特定し、どのくらい前からこの海域にすんでいるかを解明することだ。
「まだ研究は始まったばかりです」とハクセル氏は言う。