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2月17日 6時52分
埼玉県草加市の市立病院が保険適用に必要な国の安全基準を満たさずに子宮がんの腹くう鏡手術を繰り返していた問題で、病院は16日の会見で、去年、初めて問題を把握したと説明しましたが、実際は4年ほど前、別の病院の医師から指摘を受けたのにその後も手術を続けていたことが関係者への取材でわかりました。
この問題は、草加市立病院が腹くう鏡を使った子宮体がんや子宮けいがんの手術を健康保険が適用される国の安全基準を満たしていないのに、去年までの5年間に69人の患者に行い、診療報酬を請求していたものです。
16日に行われた記者会見で市立病院の高元俊彦事業管理者は、この問題を初めて把握したのは去年9月で、すぐに腹くう鏡手術は行わないように対応したと説明していました。
しかし病院関係者によりますと、手術を行っていた男性医師は4年ほど前、埼玉県内で行われた学会で腹くう鏡手術の事例を発表し、出席していた別の病院の医師から「安全基準を満たしていない市立病院では認められないはずだ」と指摘されたということです。
NHKの取材に対し、男性医師は指摘を受けたことを認めたうえで「市立病院の内部で検討した結果、手術を行っても問題ないという結論になった」と話していて、病院の説明と食い違う形になっています。
腹くう鏡手術の技術習得には研修が不可欠
草加市立病院で子宮がんの腹くう鏡手術を行っていた医師はNHKの取材に対し「がん手術の技術を学ぶトレーニングを受けたことはなく、見よう見まねでやっていた。子宮がんで試してみたらうまくできたので続けていた」と説明し、病院は会見で「医師なので必要と判断すれば手術することは可能で、医療行為としての問題は生じていない」と強調しています。
これについて、長年腹くう鏡を使った子宮がんの手術に取り組んできた医師は、専門的な研修などで技術を習得しないまま手術を行うのは危険だと指摘しています。
およそ20年前から腹くう鏡手術に取り組んでいる岡山県の「倉敷成人病センター」では、技術を身につけようと全国からさまざまな年代の医師が研修に訪れています。研修を終えるまでには少なくとも2年かかりますが、医師たちはこの間、腹部に見立てた透明の箱に専用の練習器具を差し込み、腹くう鏡手術の基本である縫合の練習を毎日欠かさず行っています。
さらに手術室で実績のあるベテラン医師の手術を見学したり、助手を務めたりして技術を学びながら良性の腫瘍の切除などで徐々に経験を積んでいきます。
悪性の腫瘍は、ほかの臓器と癒着していることも多く、血管や神経を傷つけないように広範囲にわたって切り取らなければならないため、良性の腫瘍の切除よりもはるかに困難で高い技術が求められます。
医師たちはこうした研修を受けながら、日本産科婦人科内視鏡学会が定めるビデオ審査や論文提出などの試験で技術認定医を目指します。
三重県から研修に来ている女性医師は「毎日、内視鏡の器具を触って練習しないと腕が鈍るので患者に安全な手術ができるよう、朝、晩と診療の合間に練習している」と話していました。
日本産科婦人科内視鏡学会の常務理事も務める倉敷成人病センターの安藤正明院長は「子宮がんの手術はとても難しく、私の病院では手術ができるようになるには10年以上の技術のトレーニングが必要な人もいる。私も今でも毎日専用の機械を使って訓練している。技術のよしあしによって、がんの再発率や合併症などの手術の後遺症の確率が変わるのでしっかりとした訓練が必要だ」と指摘しています。
専門家「病院全体のガバナンスの問題」
草加市立病院の問題について、医療安全が専門の名古屋大学附属病院の長尾能雅教授は「4年前に群馬大学附属病院や千葉県立がんセンターで大きな腹くう鏡手術の事故が起き、医療界全体で改善を進めている中でこのようなことが起きていたとは信じられない。長期間、改善されていないとなると病院全体のガバナンスが問われる問題だ。病院はこれまでに手術を受けた患者に早急に事実を伝えたうえで、体に害がなかったかや、がんの再発率を検証する必要がある」と指摘しています。