人口減主因に消費・設備投資で「いざなぎ」に大差
2017年11月9日
[東京 9日 ロイター] - 日本の景気は、「いざなぎ景気」を超えて約5年間の拡大が続いている。
だが「中身」には、成長率、消費、設備投資の伸びに「青年」と「高齢者」ほどの開きがあり、内閣府からも今回は
「横ばい景気」との指摘がある。人口減少問題が解消しなければ、近い将来の成長打ち止め感は強まるばかりだ。
「いざなぎ超えとはいっても、今回の景気は悪くなっていないという程度」──。内閣府幹部からは、景気拡大期間が
長期化したことへの高揚感はほとんどない。むしろ、アベノミクスが目指す企業部門から家計部門への好循環には、
いまだ至っていないと指摘。中身では、「いざなぎ」よりかなり見劣りするとみている。
景気拡大期間は、政府が9月分の「景気動向指数」を8日に公表し、同指数(CI)による景気の基調判断を「改善」と
判断したことにより、2012年11月の「景気の谷」以降58カ月間となった。
戦後最も長い拡大期間は、2002年1月から08年2月までのいわゆる「いざなみ景気」の73カ月、続いて1965年
10月から70年7月までの57カ月の「いざなぎ景気」。今回の58カ月間は「いざなぎ」を超えたということになる。
しかし、実質成長率で比較すれば、過去2回とは相当見劣りする。高度成長期にあたる「いざなぎ景気」では5─13%
程度、2000年代の「いざなみ景気」では2%弱の成長が続いた。 今回の拡大期間は、13年こそ円安の恩恵で2.6%
成長となったものの、その後は消費税引き上げでマイナス成長、直近2年間は1.3%成長にとどまっている。
その根本原因をたどれば、人口減少問題が企業や家計の行動に影響していることは明らかだ。
アベノミクス下ですすんだ円安を起点に、輸出と企業収益の拡大が実現し、雇用者増までは実現できた。
しかし、非正規労働者の賃金底上げは実現しつつあるものの、人口減少による国内市場の縮小が企業の視野にあり、
正規労働者の1人当たりの賃金の伸びは鈍い。
「人手不足とはいえ、企業にとって賃上げには、成長期待が重要な要素。期待ができないのに正社員の賃上げで固定
費が上昇することには消極的だ」(野村総研・エグゼクティブエコノミスト・木内登英氏)との指摘がある。
少子高齢化に伴う社会保険料の増大も、勤労者世帯の家計の財布のひもを固くしている。株価が上昇しているとはいえ、
恩恵は株式投資を行う余裕のある富裕層にとどまる。
中間層の所得はこの間、社会保険料の重圧だけがのしかかかり、経済全体で消費は振るわない状態だ。
民間消費は、「いざなぎ景気」時の毎年度13─15%の高い伸びに比べ、足元では0%台にとどまっている。
さらに市場規模の縮小は、国内設備投資の委縮を招いている。2000年代の景気拡大期には4─5%の伸びを
示していた設備投資だが、今回は2%台。
内閣府幹部によれば、人手不足の割に伸びが鈍いのは、省力化投資が緩やかに伸びているものの、産業機械
メーカによる価格競争で、ロボットや運搬機械などの価格が低下傾向にあるため、全体として投資金額がさほど
伸びないといった事情もあるという。
ただ、労働者1人当たりの資本装備率は、バブル期には年間3%以上伸びていたのに対し、ここ5年程度は
減少しているとの分析もある。設備投資の鈍さはこうした数字にも表れており、これが労働生産性を低下させ
ている一因ともなっている。
安倍晋三首相は「生産性革命」という課題を今後の目玉政策に位置付けている点で、人口減少がもたらす
この国の問題を認識している。
ただ、人口減少そのものへの対策、言い換えれば少子化を改善する具体的な対策は、まだ、明確に見えて
いない。「政府が少子化対策に本格的に取り組まなければ、経済全体が縮小均衡に向かう流れが止められない」
(日本総研・山田久理事)との指摘も出ている。
http://jp.reuters.com/article/japan-economy-izanagi-idJPKBN1D90SP