安倍晋三首相(63)が掲げる成長戦略に反映する電波制度改革をめぐり、総務省が昨年12月25日の有識者会議で議論をスタートさせた。事業者への電波の割り当て方法や電波利用料の算出方法を見直し、新規参入を促す。楽天が携帯電話事業者への参入を正式に発表したことで改革の機運は高まりつつあるようにみえる。最大の焦点だった電波の利用権を競りにかける電波オークション導入は「検討継続」となったままだが、制度設計の行方によっては議論が再燃する可能性もある。
■交錯した積極論と慎重・反対論
野田聖子総務相(57)は昨年12月26日の閣議後の記者会見で、有識者会議における議論開始について「モバイル市場は大手3社のシェアが9割で寡占状態になっている。利用者が安くてよいサービスを手に入れられるモバイル市場を作っていけるようにしたい」と述べた。野田氏は今年春ごろまでには議論に関する一定の結果を取りまとめる方針も示した。
在、総務省は放送局や通信会社に電波を割り当てる場合、事業内容や技術力を審査して決める「比較審査方式」をとっている。総務省は改革案について、新たに電波利用料の提示を求め、どれだけ高い金額を提示しているかを、割当先を決める際の審査基準に加える「総合評価方式」を導入することを検討している。
規制改革推進会議の議論では、価格の競り上げで割り当てを決める電波オークション導入について、積極論を展開する会議のメンバーと慎重論や反対論を唱える総務省、通信や放送会社との間で見解が対立し、昨年11月29日に出した答申は「引き続き検討を継続する」との表現に落ち着いた。価格競争の要素を盛り込んだ総合評価方式は、競争入札による電波オークションの積極論と慎重・反対論の“折衷案”ともいえる。
■想定外の事態が起きた
そもそも総務省にとって、電波オークション導入の議論にスポットがいきなり当たるのは想定外だったといえる。そこには、2つの“誤算”があった。
一つは昨年8月の内閣改造に伴う総務相の交代だ。前任の高市早苗衆院議員(56)は安倍首相と政治信条が近く、気脈を通じる間柄だった。野田氏は就任前、公然と安倍首相を批判し、就任後は批判を封印したが、必然的にパイプは細くなり、官邸との意思疎通は高市氏のときのようにはいかなくなった。
安倍首相が電波の有効利用を成長戦略に反映する考えを表明したのは内閣改造から1カ月近くたった昨年9月11日の規制改革推進会議だった。さらに女房役の菅義偉官房長官(69)が9月13日の記者会見で電波オークション導入を検討する考えを示した。
「青天の霹靂(へきれき)だった」。総務省幹部は首相官邸の動き、特に菅氏の発言をこう振り返る。政府は昨年6月に公共用周波数の民間移行推進を閣議決定しており、いずれは公共用電波の有効利用が成長戦略の一環として政策テーマに上るとみられていた。しかし、第1次安倍内閣で総務相を務め、省内に影響力を持つ菅氏が電波オークション導入の検討にまで踏み込んだことで衝撃が走った。
■「意趣返しなのか」と募る疑心
「テレビ局に対する牽制じゃないのか?」
総務省や放送メディア関係者の間ではそんな疑心も浮かんだ。テレビ局は昨年、森友、加計学園問題をめぐり、一方の当事者の主張に多くの時間を割く報道を展開して安倍首相らに説明責任を求めたため、識者やネットユーザーなどから「偏向報道」との批判が上がった。こうした経緯から電波オークション導入の議論は、既得権益化した現在の電波制度に安住しているテレビ局への意趣返しではないか…というわけだ。
もう一つは突然の衆院解散だ。安倍首相が昨年9月25日に衆院の解散を表明し、10月22日投開票の総選挙に打って出たことで、総務省は電波オークションへの対応で身動きがとれなくなった。霞が関は政策テーマに取り組む場合、有識者で構成される懇談会や検討会を設置し、議論を重ねた上で実行に移そうとする。だが、政界は選挙一色に染まり、政治家は選挙に没頭した。
総務省が有識者会議を発足させたのは衆院選後の11月10日。その有識者会議で電波制度改革の議論にようやく踏み込んだのは12月25日だった。安倍首相が電波の有効利用を成長戦略に反映する考えを公にしてから長い時間が流れてしまった。
>>2以降に続く
産経ニュース 2018.1.9 01:00
http://www.sankei.com/politics/news/180109/plt1801090002-n1.html