
来年4月で廃線になるJR西日本・三江線。田んぼの中に立つ高架駅・宇都井駅など人気のスポットも多い。利用客が激減し廃止となったが、いまは連日観光客や地元住人で大賑わい。存続に向け知恵を絞ってきた地元関係者は、複雑な胸中を漏らす。
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中国地方の山陰線・江津(ごうつ)駅(島根県江津市)から中国山地を縫うように広島県北部の主要都市、三次(みよし)市の芸備線三次駅までを結ぶJR西日本の三江(さんこう)線。全長108.1キロという長大線だが利用客の減少に悩み、2018年4月1日ついに廃止となる。
10月末、最後の雄姿を目に焼き付けようと三江線を訪れた。一番のお目当ては「天空の駅」とも呼ばれる途中駅の宇都井駅(島根県邑南町)。ここは1975年の三江線全通時に新設された比較的新しい駅で、谷間を突っ切る高架線に駅を併設したため駅舎が都市部のような高架駅となっている。しかしこの駅に来る列車は1日上下合わせて8本のみ。鉄道では日帰りはとても不可能なため、広島空港からレンタカーを使うしかない。
車がすれ違えないような道を縫って走ると、田んぼの真ん中に忽然と立つ駅舎が姿を現した。エレベーターなどもちろんないので、地上から20メートル上のホームまでは116段の階段を上る必要がある。「ゆずりあってゆっくりお進みください」という注意書きが貼ってあるが、譲り合うほど乗降客が来ることはあるのだろうか。ここ数年の乗降客数は0〜1人で推移している。踊り場ごとに地元小学生が観光名所の紹介を絡めて作った張り紙があり、それを眺めながら進むと意外にすんなりとホームまでたどり着くことができた。
駅の待合室はきれいに整備され、片隅にノートが積まれている。全国各地から「天空の駅」を訪れた感想が書き連ねてある。地元に住む松島喜久恵さん(91)が長年、管理をしてきたものだ。住まいは駅から2キロ弱離れているが、今でも月に数回はシルバーカーに乗って駅を訪れ、時には三江線を利用して温泉に通ったりもしている。松島さんが開通当時を振り返る。
「九州から3人職人さんが来て駅を作っていて、私もその手伝いで材料を運んだりしたんですよ。それまでは街に出るのもバスしかなくて、三江線ができて便利になりました」
だが、松島さんのように三江線を定期的に利用している住民はやはり少ないようだ。宇津井駅近くに住む70代の農業男性は、
「廃止は寂しいね、列車が来るのを時計がわりにしてたから。子どもが高校に通ったり親が三次に買い物に出たりするときは使っていたこともある」
だが、この男性自身は、
「車を使っていたから、ほとんど乗ったことはないね」
宇都井駅から2駅の口羽駅(島根県邑南町)近くに住む男性は、「三次に行くのも車だし、現実を見たら全然乗る人おらんしね」。やはり付近に住む60代女性は、「三次の病院に行くのもバスが便利ですし、鉄道は使いませんね」とあっさり。潮駅(島根県美郷町)近くの温泉施設の支配人(60)も、
「三江線を使って温泉に来る人はほとんどゼロですね。私も1回しか乗ったことがない。むしろこんな辺鄙なところによく鉄道を引いてくれたと感謝していますよ」
宇都井駅近くを取材していた12時過ぎ、汽笛のような音が駅舎付近から聞こえてきた。時刻表上は一本の列車もこない時間帯。幻聴かと思って116段の階段を駆け上ってみると、そこに止まっていたのは島根県の伝統芸能「神楽」にちなんだラッピング列車。いま、三江線は廃線を惜しみ全国から訪れる観光客や「この機会に乗っておこう」という住民で乗客が急増し、時には臨時の団体列車も走っているという。確かに記者が見た列車の車内は昼間から楽しげな酒宴が行われている様子。まさに、最後の三江線バブルだ。だが、存続活動にかかわってきた地元関係者は、「もっと前から利用をしてもらっていれば廃止にならなかった。今更、という思いもありますね」と率直な気持ちを口にした。
沿線最大級の駅、石見川本駅(島根県川本町)を訪れた。駅舎で時間をつぶしていたという地元の小学生女子は、「友達と江津の街に行く時には三江線を使います。なくなったらイヤですね」
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配信12/18(月) 10:55
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