彼はその頃、毎回こんなふうに無機質的ともいえるような記述で、自分の近況を書き送っていた。
仔細に検討すればそれぞれの記述も興味深いもので、例えば「幻聴の主の人数が10人から15人に増えた」というのは、彼の病気が進行していることを彼なりの表現で示したものだ。
彼は独居房で抗精神病薬の投薬治療を受けていた。
私が12年間つきあう間にも、病状は悪化しており、「暑さ寒さも感じなくなった」などと書き送ってきていた。
拘置所できちんとした治療がなされていないことは明らかだった。
さて実は、今回、フジテレビと産経新聞がキャンぺーンで報じたのは、その宮崎の逮捕後の取り調べの肉声テープが見つかったというニュースだ。
取調官が保存していたのだろうが、相当の長時間の肉声テープだった。
7日の放送では、そのテープの音声をふんだんに流しながら、宮崎事件についてドラマ仕立てで紹介した。
最初に聞いた時、私は「え?ドラマにしちゃうの?」と思ったが、実際に見て見るとなかなかよくできたドラマだった。
宮崎と刑事と、テレビレポーターにそれなりの配役をあて、力の入れ具合を示していた。
刑事役の金子ノブアキやレポーター役の秋元才加、宮崎勤役の坂本真など、なかなかの好演だった。
フジテレビに音声テープを提供した元刑事の思いは、逮捕当時の宮崎は、その後の裁判で主張した「ネズミ人間」や「もうひとりの自分」について何も語っていなかったし、
印象が全く違う、そのことを知ってほしいと考えたのだろう。
だから全体としてのテーマは「どちらの宮崎勤が本当の姿なのか」ということだった。
ニュース番組の方では元刑事たちははっきりと、宮崎の公判での様子は「詐病」だと思うと語っていた。
実は宮崎勤はいまだに、精神病に冒されていたのかそうでないのかはっきりわからないのだ。
元刑事たちは詐病説なのだが、私はそれを否定してきた。
私とて、わずか何回か彼に取材した程度の印象でそう言っているのではない。
12年間つきあってきて、宮崎が全て計算づくで病気を装っていたという見方は明らかに無理があると思う。
しかし、元捜査官たちは、いまだに宮崎が刑を免れるために精神病を装っていたと考えているようだ。
そこの真偽を極めるのは難しいのだが、今回のフジテレビは、どちらかの見方に立つことなく、全体としてバランスがとれていたと思う。
私も、最初に取り調べの肉声テープを聞いた時には、「え?」と驚いた。私が知っている宮崎とかなり違っていたからだ。
逮捕されて取り調べを受けている局面だから、宮崎自身も必死だったのだろう。
防戦のために次々と刑事の追及に反応する。そんなふうに次々と言葉を発する宮崎というのは、私には想像もできなかった。
私は相当回数接見しているが、いつも頬杖をついてボーッとしており、反応も「うん」とかポツポツと答えるのみだ。
法廷でもそうだった。裁判長に質問をされても返事をするまでに間があいて、裁判長からもっと迅速に答えるようにと注意されたほどだ。
刑事たちが宮崎が病気という疑いを全く持たなかったのはある意味では当然かもしれない。彼らは宮崎から自供を引き出し、
その自供によって遺骨などが発見されていくというプロセスだから、事件の背景や宮崎の深層心理を探るといった問題意識はもともとない。
しかし、実は今回の肉声も何度か聞いて確認すると、相当おかしな内容が少なくない。
例えば宮崎は、幼女を誘拐した動機について「あくまで理性として、かわいがりたい。そばに置く間は自分の子供であると…」と語り、
刑事が「なんで自分の子供がほしいんだ」と畳みかけると「相手にされないから」と答える。
そこで番組では、大人の女性に相手にされないから幼女に手を出した、というわかりやすい解説がなされる。
でもその後、宮崎は「自分で子供を持ちたいと思っているのか」と聞かれ、「はい」と答えている。
告白文の「今田勇子」になりきっているのだ。よく聞いてみると宮崎の答えはわけがわからないのだ。
でも、刑事は自分なりのストーリーにあてはめて理解していく。両者の応酬はそういう連続だ。
宮崎は確かに「ネズミ人間」の話はしていなかったかもしれないが、
その後の法廷では、公判で述べたことも取り調べ中に話していたのに刑事が取り合ってくれなかったと証言している。
つまり、宮崎なりに法廷と同じような話をしていたのに、刑事が取り合ってくれなかったというのだ。
私は宮崎の肉声テープを最初に聞いた時、刑事の追及にすぐに反応している宮崎におおいに驚いたものの、内容を考えるとそれが詐病説を裏付けるものとは受け取らなかった。
「宮崎勤とはいったい何者なのか」という問いは、いまだに残されたままなのだ。
今回、改めて宮崎勤に関心を抱いた人も多かったようなので、ここで前述した宮崎の処刑直後に発売された『創』の特集記事に当時私が書いた一文を下記に転載する。
「宮崎勤とはいったい何者なのか」という問いに、私なりに答えたものだ。
宮崎勤をネットで検索すると、いろいろな記述が出てくるのだが、本人に肉薄したものがほとんどない。
宮崎事件の頃までは、いまほどネットが普及していなかったため、私も彼とのやりとりをネットにほとんどアップしていない。
でも、後世の人は、宮崎について調べようと思えばまずネットを検索するに違いない。
だから今後、私も少しずつネットに宮崎についての情報をあげていこうと思っている。
彼とかわした情報はまだほんの一部しか公開していないし、宮崎事件というのは世間で思われているほど単純ではないと私は考えている。
ちなみにこの記事の冒頭に掲げた宮崎の手紙のイラストは、彼が描いた「犯行時に現れたもうひとりの自分」だ。
ネズミ人間とともにこの「もうひとりの自分」も大きな意味を持っているのだが、ただこの記事で引用した宮崎の最期の手紙とそのイラストは別の手紙であることをお断りしたい。
自筆のイラストを見せるためにここに紹介したものだ。「もうひとりの自分」については、ヤフーニュース雑誌のほうの記事を参照いただきたい。
※Yahoo!ニュースからの転載
自衛隊を死刑にしようとして外国派遣の違憲の法律をした安倍も死刑にすべきだ
精神病なら何しても無罪という歪んだ法をなんとかしろよ
数字が1バイト文字だったり2バイト文字だったりちぐはぐなんだけどなんで?