大阪市が年内にも、繁華街で悪質な客引き行為を繰り返した成人の大学生の氏名を公表する運用に改める方針を固めたことが分かった。2014年10月に罰則付きで施行された市客引き行為適正化条例に基づく措置。これまで就職活動などへの影響を考慮して公表してこなかったが、アルバイトの学生の客引きは後を絶たず、一掃を目指す市側がしびれを切らした形だ。
市条例は、キタとミナミの指定区域での客引きを業種を問わずに禁止。警察OBの市指導員の指導に従わない場合、市のホームページで氏名や住所を公表し、5万円以下の過料を科すとしている。客引きには派遣業者や飲食店に雇われたアルバイト、個別契約のフリーなどがあり、16年12月以降、飲食店経営者ら延べ7人の氏名が公表された。
市によると、数年前から大学生が目立つようになり、今年8月末までに指導した延べ1315人のうち、約2割が大学生だった。歩合制で客の代金の2割程度が報酬になるといい、月平均20万〜30万円を稼いでいた。
14年5月に420人いたキタとミナミの客引きは、条例施行1カ月後の同11月には157人まで減少。だが、数カ月後には再び目立つようになり、15年11月以降は高止まりが続く。大阪市の担当者は「割のいいバイトかもしれないが、逮捕される恐れもある違法行為だ」と警告している。
大阪市と同様、氏名を公表するとした条例がある自治体では対応が分かれる。兵庫県は今年7月、客引きをやめるよう呼びかけるチラシを作製し、県内の大学で配布した。担当者は「将来への影響を考えると対応は難しいが、学生だから公表しないルールはない」と頭を悩ませている。
日本最大の繁華街・歌舞伎町がある東京都新宿区では、公表対象を客引きを利用する店名にとどめる。個人名を公表すると、訴訟に発展する懸念があるためで、担当者は「指導に対して『逮捕されてもいい』と反発する学生もいる。公表にどれだけの効果があるかは未知数で二の足を踏んでいる」と明かす。
川崎市では巡回指導員が客引きする学生を見つけた場合、その場で教え諭している。「就職に不利になる」と説得するとやめた例があったといい、「公表はあくまで最終手段。粘り強く働きかけたい」とした。【宮嶋梓帆、高嶋将之】
◇忘年会時は月100万円超も
全国各地の繁華街では、学生とみられる客引きが手当たり次第に声をかける姿が日常的で、ぼったくりなどトラブルの温床にもなっている。対応に苦慮している自治体もあり、大阪市の決断は論議を呼びそうだ。
「居酒屋どうっすか。飲むだけでも。来てください。お願いします」。今月上旬、小雨にぬれたネオンが輝く夜の大阪・ミナミの道頓堀。腰に黒色の前掛けを巻いた大阪府内の有名私立大3年の男子学生(20)は、目が合う通行人の前にビールや焼き鳥の写真が並ぶメニューをすっと差し出し、ためらいなく声をかけていた。
男子学生が働くのは、ビル2階にある大手チェーン系の居酒屋。初めは店内で働いたが春からは店側の求めで「販売促進スタッフ」として客引きをするようになった。前年の売り上げを1%でも超えるよう、ノルマ達成を求められているという。
府内にある実家暮らしで、大学の講義やインターンシップをこなした後、夕方から午後11時ごろまで通りに立つ。月給は「だいたい40(万円)手前くらい」。年100万円近くかかる学費を自分で支払っても、友人と旅行に行ったり、洋服を買ったりするお金は十分手元に残る。「友達もいっぱいやってますよ」。友人を誘えば紹介料を得られるため、数珠つなぎのように広がっているという。
条例違反に問われた場合、氏名が公表される可能性があることは店側からの注意事項として聞いた。就職活動への影響を考えると「めちゃくちゃ怖い」と一瞬、表情を曇らせたが、違法行為と分かっても、他のバイトにはない高い報酬は簡単には手放せない。忘年会シーズンには月100万円以上を稼ぐ人もいるという。男子学生も「年内は続けるつもり」と話した。【宮嶋梓帆、高嶋将之】
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