http://eetimes.jp/ee/articles/1706/21/news016.html
IHSアナリスト「未来展望」(3):
有機EL vs TFT液晶 〜 2017年は中小型ディスプレイ市場の転換点 (1/2)
いずれ液晶の地位を奪うと目される有機EL。だが、そうやすやすと世代交代できるだろうか。IHS Markit Technologyのアナリストが、2017年以降の中小型ディスプレイ市場動向について見解を述べる。
[早瀬 宏(IHS Markit Technology),EE Times Japan]017年06月21日 11時30分 更新
2017年以降の中小型ディスプレイ市場を予想
2017年のスマートフォン市場で注目されるのは、なんといっても有機EL(以下、AMOLED)の採用がうわさされる新型iPhoneであるといえよう。これによって、従来TFT液晶(TFT LCD)がリードしてきた中小型ディスプレイ市場の主役がAMOLEDに入れ替わる可能性を高めている。
しかし、そのAMOLEDにも課題が多く、すんなり主役交代というわけにもいかない。そこで、「AMOLED vs TFT LCD」の競合がどのように繰り広げられるのか、2017年以降の中小型ディスプレイ市場を予想してみたい。
1)AMOLEDの強みと弱み
TFT LCDと比較した場合、AMOLEDの強みはなんといっても、自発光素子であることを下地とした画質の良さと、ディスプレイのフレキシブル化によって生まれる大幅なデザイン性の向上であるといえよう。一般的な見方を元に、AMOLEDとTFT LCDの特性を比較すると以下の通りにまとめられる。
有機EL(AMOLED)とTFT液晶(TFT LCD)の特性比較(ソースに表あり)
それぞれを大まかに比較した場合、AMOLEDは「画質とフレキシブル化」に優れ、TFT LCDは「大画面化と実用性」に優れていると見ることができる。この「画質とフレキシブル化」に注目し、AMOLEDを「高級感とデザイン性」で差別化してスマートフォンに搭載し成功したのがSamsung Electronicsグループである。
画面サイズが限られ、3〜4年で買い替えられるため耐久性の難が出にくく、キャリアとの契約で実質的な割賦販売によるコストの吸収が可能なことによりAMOLEDの弱点を吸収し、かつセットとディスプレイの垂直統合によって、スマートフォンの販売で上がった利益をAMOLEDへの積極投資し、能力増強とコストダウンを並行して進めることが可能となった。結果として2016年のSamsungのスマートフォン用AMOLEDの出荷数量シェアは98.5%と圧倒的な独占状態にある(IHS Markit調べ)。
2)TFT LCDの需要を浸食し需要を拡大するAMOLED
一方、スマートフォン市場でSamsungと首位を争ってきたAppleは、TFT LCD、中でも高集積化が可能な低温ポリシリコン(LTPS)TFT LCDを採用し、日本や韓国のLCDメーカーを競わせながら最先端のTFT LCDを手に入れることで、競合他社に先んじた性能のディスプレイを搭載しSamsungに対抗してきた。
しかし、LTPS技術による高精細化やIPS方式の液晶による高画質化によって改善を進めてきたスマートフォン用TFT LCDの性能向上もほぼ限界に達し、TFT LCDを採用する上では他のスマートフォンとの差別化を図るのが難しくなった。そこで注目されるのが、フレキシブル化が可能なAMOLEDを採用してスマートフォンのデザインに革新性を持たせることである。
Samsungの“Galaxy Note Edge”に始まった曲端面のフレキシブルAMOLEDは、“Galaxy S8”でベゼルレスともうたわれる全面ディスプレイに近い新たなスマートフォンのデザインへと昇華した。また、フレキシブルAMOLEDを採用することで、将来的にフォルダブルといわれる“折り畳み型スマートフォン”への可能性を目指しているといわれる。このフレキシブル型AMOLEDによるスマートフォンのデザインの革新性を期待して、Appleは2017年後半に登場すると予想される新型iPhoneにSamsung製のフレキシブル型AMOLEDの採用を進めようとしていると推察されている。
スマートフォン市場でSamsungと首位を争うAppleが今後AMOLEDを積極的に採用した場合、中小型ディスプレイ市場での「AMOLED vs TFT LCD」の競合は、AMOLEDが優位に傾く可能性を一段と高めている。既に中国のスマートフォンメーカー各社は、AMOLEDを搭載したスマートフォンをラインアップに加えており、AMOLEDを搭載するスマートフォン上位2強を追いかける上では、AMOLEDの採用は必要条件となるかもしれない。
これらの背景を元に、スマートフォン用ディスプレイの市場を予測したものが以下のデータである。
(つづく)
IHSアナリスト「未来展望」(3):
有機EL vs TFT液晶 〜 2017年は中小型ディスプレイ市場の転換点 (1/2)
いずれ液晶の地位を奪うと目される有機EL。だが、そうやすやすと世代交代できるだろうか。IHS Markit Technologyのアナリストが、2017年以降の中小型ディスプレイ市場動向について見解を述べる。
[早瀬 宏(IHS Markit Technology),EE Times Japan]017年06月21日 11時30分 更新
2017年以降の中小型ディスプレイ市場を予想
2017年のスマートフォン市場で注目されるのは、なんといっても有機EL(以下、AMOLED)の採用がうわさされる新型iPhoneであるといえよう。これによって、従来TFT液晶(TFT LCD)がリードしてきた中小型ディスプレイ市場の主役がAMOLEDに入れ替わる可能性を高めている。
しかし、そのAMOLEDにも課題が多く、すんなり主役交代というわけにもいかない。そこで、「AMOLED vs TFT LCD」の競合がどのように繰り広げられるのか、2017年以降の中小型ディスプレイ市場を予想してみたい。
1)AMOLEDの強みと弱み
TFT LCDと比較した場合、AMOLEDの強みはなんといっても、自発光素子であることを下地とした画質の良さと、ディスプレイのフレキシブル化によって生まれる大幅なデザイン性の向上であるといえよう。一般的な見方を元に、AMOLEDとTFT LCDの特性を比較すると以下の通りにまとめられる。
有機EL(AMOLED)とTFT液晶(TFT LCD)の特性比較(ソースに表あり)
それぞれを大まかに比較した場合、AMOLEDは「画質とフレキシブル化」に優れ、TFT LCDは「大画面化と実用性」に優れていると見ることができる。この「画質とフレキシブル化」に注目し、AMOLEDを「高級感とデザイン性」で差別化してスマートフォンに搭載し成功したのがSamsung Electronicsグループである。
画面サイズが限られ、3〜4年で買い替えられるため耐久性の難が出にくく、キャリアとの契約で実質的な割賦販売によるコストの吸収が可能なことによりAMOLEDの弱点を吸収し、かつセットとディスプレイの垂直統合によって、スマートフォンの販売で上がった利益をAMOLEDへの積極投資し、能力増強とコストダウンを並行して進めることが可能となった。結果として2016年のSamsungのスマートフォン用AMOLEDの出荷数量シェアは98.5%と圧倒的な独占状態にある(IHS Markit調べ)。
2)TFT LCDの需要を浸食し需要を拡大するAMOLED
一方、スマートフォン市場でSamsungと首位を争ってきたAppleは、TFT LCD、中でも高集積化が可能な低温ポリシリコン(LTPS)TFT LCDを採用し、日本や韓国のLCDメーカーを競わせながら最先端のTFT LCDを手に入れることで、競合他社に先んじた性能のディスプレイを搭載しSamsungに対抗してきた。
しかし、LTPS技術による高精細化やIPS方式の液晶による高画質化によって改善を進めてきたスマートフォン用TFT LCDの性能向上もほぼ限界に達し、TFT LCDを採用する上では他のスマートフォンとの差別化を図るのが難しくなった。そこで注目されるのが、フレキシブル化が可能なAMOLEDを採用してスマートフォンのデザインに革新性を持たせることである。
Samsungの“Galaxy Note Edge”に始まった曲端面のフレキシブルAMOLEDは、“Galaxy S8”でベゼルレスともうたわれる全面ディスプレイに近い新たなスマートフォンのデザインへと昇華した。また、フレキシブルAMOLEDを採用することで、将来的にフォルダブルといわれる“折り畳み型スマートフォン”への可能性を目指しているといわれる。このフレキシブル型AMOLEDによるスマートフォンのデザインの革新性を期待して、Appleは2017年後半に登場すると予想される新型iPhoneにSamsung製のフレキシブル型AMOLEDの採用を進めようとしていると推察されている。
スマートフォン市場でSamsungと首位を争うAppleが今後AMOLEDを積極的に採用した場合、中小型ディスプレイ市場での「AMOLED vs TFT LCD」の競合は、AMOLEDが優位に傾く可能性を一段と高めている。既に中国のスマートフォンメーカー各社は、AMOLEDを搭載したスマートフォンをラインアップに加えており、AMOLEDを搭載するスマートフォン上位2強を追いかける上では、AMOLEDの採用は必要条件となるかもしれない。
これらの背景を元に、スマートフォン用ディスプレイの市場を予測したものが以下のデータである。
(つづく)