海水の代わりに塩分を含む温泉水を利用し、陸上でトラフグを養殖する取り組みが各地に広がっている。
海のない栃木県で二〇〇八年に研究が始まり、一〇年に「温泉トラフグ」として事業化。現在は北海道から四国までの十道府県に養殖施設がある。
養殖法を開発したのは、那珂川町で環境分析の会社を経営していた野口勝明さん(60)らだ。
町おこしを模索していた際、地元の温泉水が塩分を含むことに着目して「海の魚を育てたら面白いのでは」と思いついた。
〇八年、廃校になった小学校の校舎に水槽を設置して飼育を始めた。
育てたフグは当初、「味が薄い」とも言われたが、改良を重ねると「天然物と遜色ない」と評判に。
温泉水による水温調節でフグの食欲を促し、海上養殖では約一年半かかる出荷期間は約一年に短縮できた。
一〇年には養殖販売会社「夢創造」を設立した。
「うちでもできないだろうか」「視察したい」。温泉トラフグは話題になり、全国の温泉地から問い合わせが相次いだ。
野口さんらは、地域振興になればと技術提供を承諾。福島県郡山市で一一年に養殖施設ができ、栃木県外では現在、十一カ所が稼働する。
さらに九州などの十団体が事業化を検討しているという。
地域で他の魚種にも応用可能な養殖技術が水産業の発展に寄与したとして、野口さんは今年三月、日本水産学会の水産学技術賞も受賞。
新たに取り組んでいるサクラマスの養殖も軌道に乗せたい考えだ。
野口さんは「まずは全都道府県に養殖技術を広め、いつか『温泉トラフグサミット』を開きたい」と夢を語った。
温泉水を利用した夢創造の養殖場と「温泉トラフグ」=那須烏山市で
配信 2017年6月10日
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201706/CK2017061002000167.html