今春届いた税額通知書にマイナンバー制度の個人番号が記されていたことに、県内企業から戸惑いの声が上がっている。
事務効率化などを理由に本年度から記載を求めた国の方針通りだが、通知書の誤送付が続出。
県外では個人番号の漏えいにつながるとして、番号を伏せる自治体がある。県内でも送付方法を書留に変えたところがあり、対応に違いが出ている。
上田市のある会社に5月中旬、市・県民税の特別徴収税額通知書が届いた。従業員が開封すると従業員一人一人の氏名や税額に加え、マイナンバー制度の個人番号が書いてあった。
社長の男性は「厳重に管理すべき個人番号が簡単に見られる。記載の必要があるのか」と違和感を覚えた。
知人を通じ市に確認すると、市は「国の指示に従った」との返答だった。
国は本年度から、地方税法施行規則に基づく通知書に個人番号を記載するよう自治体に求めている。
総務省市町村税課は「市町村と事業者が納税者情報を正確に共有し、事務効率化を進めるため」と説明。「引き続き呼び掛ける」とする。
医師や歯科医師でつくる県保険医協会(長野市)は3月、個人番号記載は「個人情報の自己コントロール権」を侵害し、事業者に負担を負わせる―などとして県内全市町村に記載中止を求める要請書を送付。
5月31日、国に記載廃止を求める要請書を出した。
だが、5月以降、通知書の誤送付が相次いでいる。長野市では別の事業所の従業員の情報を誤って載せるミスが3件発生。松本市では本来の宛先とは異なる事業所に送った。
全国でも千葉市、広島市、京都市などでミスが起きた。
県外では、送付件数が多い大都市を中心に、情報漏えいへの市民や事業所の不安を踏まえ、番号を伏せる自治体がある。
大阪市は全12桁のうち上8桁を、名古屋市と東京都世田谷区は全部を分からないようにした。名古屋市の担当者は「市民から不安の声が出ている」と説明。
世田谷区は「事業者側の管理態勢も整っていない」とする。
県内市町村は、国の方針に従って個人番号を記載しているとみられる。県市町村課が通知書発送前に全市町村に確認したところ、個人番号を「記載する」と回答した。
県内で情報漏えいを防ぐ工夫をしている自治体もある。長野市、松本市、上田市などは、郵送方法を簡易書留に変更した。
ただ、従来通り普通郵便で送る自治体もあり、県内のある市は「書留は配達に時間がかかり、費用負担も大きい」と漏らす。
総務省は5月中旬、個人番号を記載しない自治体があるとして、「適切な対応」を呼び掛ける通知を出した。
マイナンバー制度に詳しい水永誠二弁護士(東京)は「国は情報漏えいのリスクを自治体や事業所だけに負わせている」と指摘。
「記載するリスクと責任、制度のメリットについて、きちんと説明する必要がある」と話している。
上田市の会社に届いた通知書に添付された文書。個人番号の取り扱いに注意を促している
配信(6月7日)
信毎Web
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