滋賀県のシンボル琵琶湖。気候が和らぐこの季節、安らぎを求めて湖辺は多くの人でにぎわう。ただ、気候に誘われるのは人だけではない。
この時期、大量に現れる少し茶色の体長約1センチの虫。通称「ビワコムシ」だ。大量の蚊柱をつくり、ときには住宅の壁などにびっしりと張り付くさまは“春のホラー”だ。
今年はとりわけ大量発生しているといい、自治体には住民から「気持ち悪い」との苦情も。だが、その実態に迫ると、実は環境保全に役立つ“いい虫”であることが分かった。(杉森尚貴)
■「めっちゃ、きしょい…」
ある日の夕方。大津市南部の湖岸を散歩していると、記者(大阪出身)は、これまで見たことのない大量の蚊柱が発生していることに気付いた。「ビワコムシが多いな」。通行人の話し声が聞こえる。
湖岸を1歳の息子と散歩していた大津市の主婦、田中理沙さん(29)は「めっちゃ、きしょい…」と避けながら歩いていた。
田中さんは琵琶湖から約1キロ離れたマンションに住んでいるが、「ビワコムシは4階の室内まで入ってくる。駐車場にもわんさかいて車に大量につくので、夫が業務用殺虫剤を使って撃退している」という。
3年前に京都から引っ越してきた田中さん。「滋賀はのどかで住みやすいんですが、虫はちょっと…。自然の別の面に裏切られた感じがありますね」と顔をしかめた。
湖岸沿いのテラス席が売りのもののレストラン「なぎさWARMS」(同市打出浜)も困った様子だ。
ある女性スタッフは「(ビワコムシは)季節の風物詩で、ある程度は仕方ないのですが、今年は特に多いしサイズも大きい気がする。朝はテラス席の掃除を徹底しています」。
松鹿博文店長(42)も「自然食が売りの店なので殺虫剤は使いたくない。インバウンド(訪日外国人)のお客さまも増えているが、せっかく来た琵琶湖で虫を見ながらの観光は嫌でしょう。
店内に入らないように従業員全員で細心の注意を払っています」と話す。
大津市衛生課には、「駆除はするのか」「気持ち悪い。防御策は?」などと苦情や問い合わせが3月から数件寄せられているという。
ただ「たまたま今年は多いだけで人に危害を加えるわけでなく、県や市による大々的な駆除の予定はない」とする。
■正体に迫る
ビワコムシとは何者か。水底に暮らす生物(底生動物)を研究する滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの井上栄壮主任研究員(44)によると、「オオユスリカという、ユスリカに属する昆虫の一種」だという。
蚊に似ているが、人を刺すことはない。人体に具体的な害を与えないが、外見や動きが心理的に気分を害するという「迷惑害虫」に分類される。調査結果はないので具体的な発生数は不明だが、感覚的に今年は例年より多いという。
ビワコムシの幼虫は湖底の泥の中で植物プランクトンなどの有機物を食べて成長する。深い水底には住めず、水深が比較的浅い琵琶湖南部での発生が目立つという。
大量発生の原因は何か。井上氏は「鍵は餌となる植物プランクトンの増加にある」と分析する。琵琶湖では水草が多いと植物プランクトンが減る。昨年は原因不明だが水草が少なく、植物プランクトンが増えた。
外来種の植物プランクトン「ミクラステリアス ハーディ」の増加も、ビワコムシにとって好環境になっているという。ちなみに「ミクラステリアス ハーディ」の増加はアユの餌となる動物プランクトンの減少につながり、アユの不漁を招いている。
また、ビワコムシは年に二度卵を産むといい、10月ごろにもう一度大量発生する可能性もある。
■「経済発展の落とし子?各地で生息
琵琶湖の研究者らによると、ビワコムシと呼ばれるようになったのは、1970年代の高度経済成長期のころからだという。
(中略)
■実はいい虫?
嫌われ者のビワコムシだが、水生昆虫の研究者によると、「湖底の泥の中の有機物を食べて育つので、湖底の浄化に役立っている」という。湖に流れ込む生活排水による有機物も食べているとみられる。
また井上氏によると、ビワコムシの成虫は鳥やクモの餌になり、琵琶湖周辺の生態系の維持にも一役買っている。琵琶湖の釣り人が釣り餌とする「アカムシ」は、ビワコムシなどの幼虫だ。
人畜無害で環境保全にも役立っているビワコムシ。一方的に嫌がらずに、“共生”を図っていくことが求められているのかも。
配信 2017.5.12 05:30更新
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