ムラサキヒトデは八代海や有明海の内湾で取れ、薄紫色で白いとげに覆われている。地元でゴホンガゼと呼ばれ、大人の手のひらぐらいの大きさになると食べ頃。塩ゆでにして殻を割り、卵巣にある淡いオレンジ色の卵を食べる。味はウニやカニみそに似ている。
同県上天草市の天草四郎観光協会理事で旅館を営む段下繁文さん(68)によると、昨年4月の熊本地震前は、シーズン中、同市龍ケ岳町の海岸で1日50匹ほど取っていた。今季はほぼゼロ。漁船の底引き網にも掛からず「これほど取れないのは記憶にない」と言う。ムラサキヒトデが激減する一方で、天敵のムラサキウニが大量発生しているという。
天草一帯は本震で震度6弱を観測した。九州大天草臨海実験所(同県苓北町)の野島哲・元准教授は「地震との関連はデータがなく、激減の理由は分からない」と首をひねるが、東日本大震災以降、東北・三陸の沿岸でもヒトデが姿を消す代わりにウニが増える現象が確認されている。
宮城県漁協歌津支所の高橋一郎運営委員長(69)は「震災前はヒトデを駆除していたが、今は見当たらない。大量発生したウニは、殻を割っても身が通常の3分の1程度にしか育っていない」と戸惑う。
「世界的にも珍しい」(野島さん)という天草伝統のヒトデの食文化。地元で愛される珍味は復活するか。
=2017/05/10付 西日本新聞朝刊=
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