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[東京 27日 ロイター] - 日本の長期金利は低下傾向を示しているが、東証REIT指数.TREITや大手不動産株が伸び悩んでいる。経済原理が素直に反映されれば、低金利は資金調達コストの低下をもたらし、利益採算を向上させるポジティブ材料。しかし、投資家の目には、一部バブル的な不動産市況の悪化や、中長期的な金利上昇見通しなど、この先の「暗雲」が気がかりと映っているようだ。
<空室率改善のカラクリ>
三鬼商事が公表する東京都心5区のオフィス空室率は、3月末時点で前月比0.10ポイント低下の3.60%と2カ月連続で改善した。しかし、そこには「カラクリ」があるという。
「東京オリンピックを目指した再開発バブルで、再開発のために壊されるビルのテナントが、空いているビルに移っただけ。需要自体は伸びていないから賃料は上昇しない。この先、ビルのスクラップが徐々に減ってくるので、再開発バブルが崩壊に向かっている」と、ドイツ証券・アナリストの大谷洋司氏は指摘する。
ニッセイ基礎研究所と三幸エステートによれば、どの価格水準で契約したかを示す成約賃料は、延床面積1万坪(3万3000平方メートル)以上などの条件を満たす東京都心部大型ビルで、2015年4─6月期の3万5652円/坪(共益費を除く)をピークに頭打ちの状況が続いている。20年7─9月期の2万7684円まで下落基調が続く見通しだ。
足元の不動産市場はバブル当時のような過熱感はみられないが、リスクマネーは流入している。日銀が2月9日に発表した貸出先別貸出金によると、国内金融機関による不動産向け融資は昨年12月末時点で前年比約7%増の70兆3592億円と過去最高を記録した。
不動産経済研究所によれば、2016年の全国新築マンション1戸当たりの平均価格は前年比1.3%減の4560万円。4年ぶりに下落したものの、バブル期に付けた最高価格である4488万円を上回っている。
東京五輪終了後は、オフィスの供給過剰で物件が余り、不動産価格の暴落リスクが高まるとされる「2020年問題」も待ち受ける。
ドイツ証券の大谷氏は「静かなるバブルの崩壊が、着実に伸展している」と話す。
<日銀の方向転換を警戒>
もう1つのネガティブ要因は、将来の金利上昇懸念だ。
2017年3月の東京証券取引所におけるJ−REITの売買シェアをみると、55.9%を海外投資家が占めている。
だが、J−REITの投資部門別売買状況によれば、海外投資家の3月の売り越し額は102億円で、3カ月連続の売り越しとなった。
海外投資家のJ−REITへの投資意欲が高まらない背景として「日銀による金融緩和余地が少なくなったとの見方が影響している」(アイビー総研代表の関大介氏)という。
東証REIT指数の27日終値は1745.51ポイント。仮に日銀が長期金利の誘導目標を現在のゼロ%から引き上げるとの見方が強まった場合、「1500ポイントを割り込む可能性も充分にある」(関氏)という。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏は「金利は短期的に低下傾向にあっても、中長期では上昇していくという市場参加者の見方に変化はない。日銀のイールドカーブコントロールは、延々と続かない」と話す。
不動産会社の業績は悪くない。三井不動産(8801.T)の2017年3月期連結業績は過去最高益を見込んでいるが、足元の株価は弱含みだ。
三菱地所(8802.T)も順調な業績の割には株価がさえない。住友不動産(8830.T)、東急不動産ホールディングス(3289.T)、野村不動産ホールディングス(3231.T)のPER(株価収益率)はいずれも15倍を下回っており、割安感が漂っている。
低金利、好業績見通し、割安感。買い材料は多い。しかし、REITや不動産株を薦める市場関係者は少ない。
REIT市場に詳しいニッセイ基礎研究所・金融研究部主任研究員の岩佐浩人氏は「アベノミクスのスタートが2012年だとすると、4─5年の長期の上昇サイクルが続いていた。不動産市況の悪化を見越して、利益確定している人は多い」と話している。
(辻茉莉花 編集:伊賀大記)
2017年 4月 27日 6:26 PM JST
[東京 27日 ロイター] - 日本の長期金利は低下傾向を示しているが、東証REIT指数.TREITや大手不動産株が伸び悩んでいる。経済原理が素直に反映されれば、低金利は資金調達コストの低下をもたらし、利益採算を向上させるポジティブ材料。しかし、投資家の目には、一部バブル的な不動産市況の悪化や、中長期的な金利上昇見通しなど、この先の「暗雲」が気がかりと映っているようだ。
<空室率改善のカラクリ>
三鬼商事が公表する東京都心5区のオフィス空室率は、3月末時点で前月比0.10ポイント低下の3.60%と2カ月連続で改善した。しかし、そこには「カラクリ」があるという。
「東京オリンピックを目指した再開発バブルで、再開発のために壊されるビルのテナントが、空いているビルに移っただけ。需要自体は伸びていないから賃料は上昇しない。この先、ビルのスクラップが徐々に減ってくるので、再開発バブルが崩壊に向かっている」と、ドイツ証券・アナリストの大谷洋司氏は指摘する。
ニッセイ基礎研究所と三幸エステートによれば、どの価格水準で契約したかを示す成約賃料は、延床面積1万坪(3万3000平方メートル)以上などの条件を満たす東京都心部大型ビルで、2015年4─6月期の3万5652円/坪(共益費を除く)をピークに頭打ちの状況が続いている。20年7─9月期の2万7684円まで下落基調が続く見通しだ。
足元の不動産市場はバブル当時のような過熱感はみられないが、リスクマネーは流入している。日銀が2月9日に発表した貸出先別貸出金によると、国内金融機関による不動産向け融資は昨年12月末時点で前年比約7%増の70兆3592億円と過去最高を記録した。
不動産経済研究所によれば、2016年の全国新築マンション1戸当たりの平均価格は前年比1.3%減の4560万円。4年ぶりに下落したものの、バブル期に付けた最高価格である4488万円を上回っている。
東京五輪終了後は、オフィスの供給過剰で物件が余り、不動産価格の暴落リスクが高まるとされる「2020年問題」も待ち受ける。
ドイツ証券の大谷氏は「静かなるバブルの崩壊が、着実に伸展している」と話す。
<日銀の方向転換を警戒>
もう1つのネガティブ要因は、将来の金利上昇懸念だ。
2017年3月の東京証券取引所におけるJ−REITの売買シェアをみると、55.9%を海外投資家が占めている。
だが、J−REITの投資部門別売買状況によれば、海外投資家の3月の売り越し額は102億円で、3カ月連続の売り越しとなった。
海外投資家のJ−REITへの投資意欲が高まらない背景として「日銀による金融緩和余地が少なくなったとの見方が影響している」(アイビー総研代表の関大介氏)という。
東証REIT指数の27日終値は1745.51ポイント。仮に日銀が長期金利の誘導目標を現在のゼロ%から引き上げるとの見方が強まった場合、「1500ポイントを割り込む可能性も充分にある」(関氏)という。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏は「金利は短期的に低下傾向にあっても、中長期では上昇していくという市場参加者の見方に変化はない。日銀のイールドカーブコントロールは、延々と続かない」と話す。
不動産会社の業績は悪くない。三井不動産(8801.T)の2017年3月期連結業績は過去最高益を見込んでいるが、足元の株価は弱含みだ。
三菱地所(8802.T)も順調な業績の割には株価がさえない。住友不動産(8830.T)、東急不動産ホールディングス(3289.T)、野村不動産ホールディングス(3231.T)のPER(株価収益率)はいずれも15倍を下回っており、割安感が漂っている。
低金利、好業績見通し、割安感。買い材料は多い。しかし、REITや不動産株を薦める市場関係者は少ない。
REIT市場に詳しいニッセイ基礎研究所・金融研究部主任研究員の岩佐浩人氏は「アベノミクスのスタートが2012年だとすると、4─5年の長期の上昇サイクルが続いていた。不動産市況の悪化を見越して、利益確定している人は多い」と話している。
(辻茉莉花 編集:伊賀大記)
2017年 4月 27日 6:26 PM JST