・流れは米中二極体制へ―― 不安定な平和の時代:イェン・シュエトン(閻学通) 清華大学特別教授(国際関係論)
いまや問うべきは、米中二極体制の時代がやってくるのかどうかではなく、それがどのようなものになるかだ。米中二極体制によって、終末戦争の瀬戸際の世界が出現するわけではない。自由貿易を前提とするリベラルな経済秩序を重視しているだけに、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるだろう。ほとんどの諸国は、問題ごとに米中どちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するようになり、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、リベラルな国際主義のシンボルだった政治的統合やグローバル統治の余地はほとんどなくなっていくはずだ。・・・
米中二極体制の本質米中対立は望んでいない新しいルール?米中二極体制のメカニズム
<米中二極体制の本質>
2018年10月初旬、アメリカのマイク・ペンス副大統領は、ワシントンのシンクタンクにおける感情的な演説で、様々な問題をあげつらって中国を批判した。南シナ海の領有権問題から、米選挙への干渉疑惑にいたるまで、中国は国際規範を破り、アメリカの利益を損なう行動をとっていると彼は批判した。スピーチのトーンはいつになく大胆だった。実際、一部の人が、演説を米中新冷戦の幕開けとみなすほどに、それは大胆な内容だった。
冷戦という歴史的アナロジーを持ち出すのは、一般的だとしても、誤解を招きかねない。但し、核心をついている部分もある。冷戦後の空白期におけるアメリカの覇権は終わり、中国が「ジュニア超大国」の役目を担う(冷戦期のような)二極体制が復活しつつあるからだ。中国の台頭によって様々な利害の相克を抱え込んだ米中が衝突コースにあるだけに、この秩序の移行期が混乱に満ちた、暴力的なものになる恐れもある。とはいえ、ワシントンが対外的な外交・軍事エンゲージメントの一部からゆっくりと後退しつつあるとしても、北京は、そのリーダーシップの空白を埋めて、ゼロから新しい国際規範を構築するはっきりとした計画はもっていない。
この状況からどのような世界秩序が導きだされるだろうか。警世家の主張とは逆に、米中二極体制によって、終末戦争瀬戸際の世界が出現するわけではないだろう。今後に向けた中国の野心は、欧米の外交エスタブリッシュメントの多くが想定するような壮大なものではなく、目的は絞り込まれている。世界における抜きん出た超大国としてのアメリカの地位に取って代わるよりも、今後10年の中国外交は、持続的な経済成長に必要な環境を維持していくことに焦点を合わせるはずだ。この必要性ゆえに、北京の指導者は、アメリカとその同盟国との全面的な対決を回避しようとするだろう。こうして、米中二極体制は「二つの超大国間の不安定な平和の時代」になるだろう。ともに軍備増強を試みながらも、明らかな紛争へとエスカレートしないように、緊張を管理しようと慎重な努力を続けると考えられる。
相手による同盟関係の構築を抑え込んで、グローバルな優位の確立を望むのではなく、米中はその競争関係を経済と技術部門に絞り込むはずだ。同時に、米中二極体制の下では、純然たる経済領域を例外とすれば、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、「リベラルな国際主義」のシンボルだった政治的統合や規範設定の余地はほとんどない。
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