■多文化共生都市トロントで起きたバンの暴走事件は、10人が死亡、15人以上が負傷した。
犯人は「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だった
23日の白昼、カナダ一の大都市トロントで、バンが意図的に歩行者を襲撃し、10人が死亡、15人以上が負傷した。
これまでヨーロッパのようなテロや、アメリカのような銃乱射事件とはほぼ無縁であると感じていたトロント市民たちは、
たいへんな衝撃を受けている。
多民族国家であるカナダでは、このような事件が起こった場合、
犯人の民族的・宗教的バックグラウンドが軽率に取りざたされることはまずない。
今回の容疑者アレク・ミナシアン(25)についても、SNSのコメントなどで言及されただけで、
民族的・宗教的な関連は報道されていない。実際、テロ組織との関連もないようだ。
しかしながら、ミナシアンも所属するといわれる別の過激思想団体が急激に注目を集めている。
おもにインターネット上で集う、「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だ。
■性的関係がもてないのは女のせい
20年以上前、「不本意な禁欲主義者(involuntary celibate)」という言葉を考案したのは、奇しくもあるカナダ人女性だった。
同名のウェブサイトを立ち上げ、独り者の男女に出会いを支援するような場所になるはずだったという。
ところが、この言葉が勝手にincel「インセル」と縮められ、インターネット上で女性蔑視主義者を現すようになった。
長年、言葉の一人歩きを恐怖とともに見守ってきた女性は今回の事件を受け、
グローブ・アンド・メール紙に「核分裂を解明したあとで、
それが戦争で兵器として使われていると知った科学者のような気分だ。いい気分ではない」と語っている。
インセルとは、恋愛および性的なパートナーが見つからない、
あるいは自身に性体験のない原因が女性にあるとする男性たちだ。パートナーを持ち、
ふつうの性生活を送る女性たちをみな娼婦のようにみなし、極端な場合、
彼女たちを暴力やレイプで「罰する」ことを奨励する。
ミナシアンは事件前、フェイスブックに「インセルの反乱はすでに始まった!
すべての『チャッド』と『ステイシー』を襲ってやる。最高紳士エリオット・ロジャー万歳」と書き込んでいる。
トロントの襲撃事件の被害者の大多数は女性だった。
■インターネットに潜む闇
「チャド」「ステイシー」はインセルの使う用語で、性的に魅力があり、交際相手に困らない男女のことだ。
エリオット・ロジャーは2014年にカリフォルニア州で、自身が童貞なのは自分を振った女性たちのせいであるとし、
6人を無差別に殺害、多数の負傷者を出したあとで自殺した22歳の青年のことだ。
インセルの世界ではときにERと言及され、英雄視されている。
また、本誌米国版によると、女性はfeminoidまたは foid と呼ばれることもある。
女性を人間ではない humanoid「ヒト類似、ヒト型ロボット」と見なしているからだ。
公民権非営利団体のサザン・パバティ・ロー・センターはインセルたちを「オンライン上の男性至上主義者の生態系」と分析する。
この動きは、ピックアップ・アーティスト(PUA)すなわち、セックスを最終目的とした心理作戦を提唱する、
いわゆるナンパ師たちだと言われる。考案したテクニックが効かないことに腹を立て、
その怒りを女性に向けるようになったという。
オンライン上のフォーラム、Reddit や4Chanなどに存在するインセルのグループでは、
女性差別だけではなく、人種差別、同性愛者差別、フェミニスト攻撃などの意見が盛んに交わされている。
グローブ紙によると、各グループに5千から9千人のメンバー登録があるという。
トロントでの事件後も、早速ミナシアンの行動を賛美する声が登場。若い女性の犠牲者一人につきビールを一杯飲む、
などという書き込みもあった。
Metooムーブメントが世界的に拡大している矢先に明らかとなった、
新たなミソジニスト(女性蔑視主義者)の世界は大きな衝撃を与えている。
関連ソース画像
関連動画
Investigating van attack suspect Alek Minassian's past
ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10070.php
犯人は「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だった
23日の白昼、カナダ一の大都市トロントで、バンが意図的に歩行者を襲撃し、10人が死亡、15人以上が負傷した。
これまでヨーロッパのようなテロや、アメリカのような銃乱射事件とはほぼ無縁であると感じていたトロント市民たちは、
たいへんな衝撃を受けている。
多民族国家であるカナダでは、このような事件が起こった場合、
犯人の民族的・宗教的バックグラウンドが軽率に取りざたされることはまずない。
今回の容疑者アレク・ミナシアン(25)についても、SNSのコメントなどで言及されただけで、
民族的・宗教的な関連は報道されていない。実際、テロ組織との関連もないようだ。
しかしながら、ミナシアンも所属するといわれる別の過激思想団体が急激に注目を集めている。
おもにインターネット上で集う、「インセル」と呼ばれる女性蔑視主義者だ。
■性的関係がもてないのは女のせい
20年以上前、「不本意な禁欲主義者(involuntary celibate)」という言葉を考案したのは、奇しくもあるカナダ人女性だった。
同名のウェブサイトを立ち上げ、独り者の男女に出会いを支援するような場所になるはずだったという。
ところが、この言葉が勝手にincel「インセル」と縮められ、インターネット上で女性蔑視主義者を現すようになった。
長年、言葉の一人歩きを恐怖とともに見守ってきた女性は今回の事件を受け、
グローブ・アンド・メール紙に「核分裂を解明したあとで、
それが戦争で兵器として使われていると知った科学者のような気分だ。いい気分ではない」と語っている。
インセルとは、恋愛および性的なパートナーが見つからない、
あるいは自身に性体験のない原因が女性にあるとする男性たちだ。パートナーを持ち、
ふつうの性生活を送る女性たちをみな娼婦のようにみなし、極端な場合、
彼女たちを暴力やレイプで「罰する」ことを奨励する。
ミナシアンは事件前、フェイスブックに「インセルの反乱はすでに始まった!
すべての『チャッド』と『ステイシー』を襲ってやる。最高紳士エリオット・ロジャー万歳」と書き込んでいる。
トロントの襲撃事件の被害者の大多数は女性だった。
■インターネットに潜む闇
「チャド」「ステイシー」はインセルの使う用語で、性的に魅力があり、交際相手に困らない男女のことだ。
エリオット・ロジャーは2014年にカリフォルニア州で、自身が童貞なのは自分を振った女性たちのせいであるとし、
6人を無差別に殺害、多数の負傷者を出したあとで自殺した22歳の青年のことだ。
インセルの世界ではときにERと言及され、英雄視されている。
また、本誌米国版によると、女性はfeminoidまたは foid と呼ばれることもある。
女性を人間ではない humanoid「ヒト類似、ヒト型ロボット」と見なしているからだ。
公民権非営利団体のサザン・パバティ・ロー・センターはインセルたちを「オンライン上の男性至上主義者の生態系」と分析する。
この動きは、ピックアップ・アーティスト(PUA)すなわち、セックスを最終目的とした心理作戦を提唱する、
いわゆるナンパ師たちだと言われる。考案したテクニックが効かないことに腹を立て、
その怒りを女性に向けるようになったという。
オンライン上のフォーラム、Reddit や4Chanなどに存在するインセルのグループでは、
女性差別だけではなく、人種差別、同性愛者差別、フェミニスト攻撃などの意見が盛んに交わされている。
グローブ紙によると、各グループに5千から9千人のメンバー登録があるという。
トロントでの事件後も、早速ミナシアンの行動を賛美する声が登場。若い女性の犠牲者一人につきビールを一杯飲む、
などという書き込みもあった。
Metooムーブメントが世界的に拡大している矢先に明らかとなった、
新たなミソジニスト(女性蔑視主義者)の世界は大きな衝撃を与えている。
関連ソース画像
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Investigating van attack suspect Alek Minassian's past
ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10070.php