3日に行われた1回目の身柄拘束で失敗した公捜処は、15日は早朝から約1,100人の警察を動員する大規模な作戦に出ていた。大統公邸前では支持者たちが進入を阻止しようとしたが、その中の1人が負傷したとの報道も流れた。尹大統領は「これ以上の流血事態を望まない」と述べ、午前10時33分に拘束に応じ、京畿道果川(キョンギド クァチョン)市にある公捜処の調査室へと連行された。
その後も尹大統領は「公捜処には内乱容疑に対する捜査権限がない」立場を改めず、一切の供述を拒否して黙秘権を行使。公捜処は200ページに及ぶ詳細な調査質問を用意したが、尹大統領からは回答を得ることはできなかった。ソウル西部地裁での審議には尹大統領も出席し、意見を述べた。しかし地裁は逮捕状を出した……というのが一連の経緯である。
■与党支持率35%、野党は33%の「逆転」
尹大統領の逮捕をめぐって揺れる韓国だが、ここにきて、尹大統領への評価に変化がみえはじめている。
韓国ではいくつかの機関が世論調査を行っているが、エムブレインパブリック、Kstatリサーチ、コリアリサーチ、韓国リサーチは共同で1月13日から15日にかけて全国の有権者1,005人を対象に調査を実施した。それによると、与党「国民の力」の支持率は35%を記録し、野党「共に民主党」の33%を上回った。与党と野党の支持率が逆転したのは昨年9月以来、初めてのことだった。
政治評論家たちは、この結果を以下のように分析している。
「尹大統領の捜査や逮捕を不当と考える支持者たちが結集したことや、尹大統領による非常戒厳を『共に民主党』が利用し、政権奪取を急ぐことへの反発が今回の支持率逆転に影響を与えたのではないか」
■野党こそ「本当の内乱」…逮捕劇の周辺を取材すると
尹大統領の支持率の上昇は、失敗に終わった1月3日の1回目の逮捕劇がひとつの契機になったと見る向きが多い。
例年なら新年のムードに包まれるこの日、ソウルの高級住宅街として知られる漢南(ハンナム)洞は緊張感に包まれていた。昨年12月3日に尹錫悦大統領が発令した「戒厳令」を受け、公捜処が大統領を「内乱罪」の容疑で逮捕しようと動いたためだ。
公捜処の捜査官30人と特別警察捜査隊約120人は、午前8時ごろ、漢南洞の公邸周辺に到着。これに対して、公邸を警護する大統領警護処は約200人を配置。互いに腕を組み、「人間の壁」をつくり、公捜処の接近を物理的に阻止した。
数時間にわたり説得を続けたものの、公捜処は午後1時30分、尹大統領の姿さえ確認することなく撤退を決定した。韓国史上類を見ない現職大統領を逮捕する試みは、6時間ほどで終わった。
逮捕が失敗に終わった直後の3日午後、筆者は公邸周辺を訪れた。最寄りのソウル地下鉄6号線「漢江鎮駅」には、多くの市民が詰めかけ、階段から地上に至るまで「弾劾無効!」を訴える声が響いていた。
駅の出口を出ると、公邸に続く道路沿いには、韓国やアメリカの国旗を手にした人々が集まっていた。尹大統領を支持する弾劾反対派の市民たちだった。
さらに公邸前には大規模なステージとスクリーンが設置され、その周囲に群衆が集まっていた。ステージ上では、元ボクシング世界チャンピオンの洪秀煥(ホン・スファン)氏が「戒厳令は正当で、弾劾は詐欺だ!」と叫び、支持者たちの拍手を浴びていた。
50歳代の女性は「尹大統領が戒厳令を発表した理由に共感している。周囲を見れば若い世代も弾劾反対に加わっていることがわかるはずだ」と語った。実際、集会には高齢の保守層だけでなく、20〜30代の若者たちの姿も多く見られた。夫婦やカップル、子連れの若い親たちもいた。保守性向を好まないとされる20代の女性が多いことも意外だった。
大学を休学中だという20代半ばの男性はこう語った。
「尹錫悦大統領が就任する前の70年間で発議された弾劾の数よりも、就任後の2年間に『共に民主党』が発議した弾劾の数の方が多い。野党が政策妨害を繰り返し、浦項深海ガス開発事業の予算削減や文在寅政権の不正を調査した監査院長の弾劾などを繰り返している。これこそ本当の内乱ではないか」
彼自身は尹大統領の政策に共感しているわけではなく、好ましい政策も少なかったとしつつも、「『共に民主党』が弾劾と妨害ばかりに執着し、表向きには青年を擁護するとしても、実際には青年就職支援予算を削減していると知り、弾劾には反対です」と続けた。
以下全文はソース先で
■「国際的な恥」弾劾支持の声も
■2日後の“異変”
■旅客機事故も要因に?
■スピード弾劾で李在明代表の“無罪”も?
現地ジャーナリスト ノ・ミンハ
新潮 2025年01月22日
https://www.dailyshincho.jp/article/2025/01221700/