1月3日、中国政府は消費喚起のため電気自動車や家電に加えて、スマホやタブレット端末、スマートウォッチの買い替えにも補助金を支給すると明らかにした。政府は昨年夏から3000億元(約6兆円)もの巨費を投じた経済対策を実施している。しかし、その成果を疑問視する専門家は多い。中国の経済政策に圧倒的に足りない視点は何か。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
● 買い替え補助金がEVと家電に加えて スマホ、タブレット、スマートウォッチにも
中国政府は1月3日、巨額を投じる景気刺激策を更新した。補助金支給の範囲を電気自動車(EV)や家電のみならず、新たにスマホ、タブレット端末、スマートウォッチにも拡大する政策を打ち出した。
ただ、今回の措置に関する経済効果については疑問符を付ける専門家もいる。習近平政権は、経済よりも安全保障や社会の安定に優先順位を置いているのは分かるのだが、景気低迷が長期化すると国民の不満が高まると懸念される。
2024年9月以降、中国政府はいくつかの経済対策を発表してきた。12月の中央経済工作会議では、財政赤字を拡大してまで内需を刺激する方針を決定した。ただ、一連の経済対策を見ると、期待されたほどの効果が上がっていない。
そして今回、新たに国債発行で調達した資金によって、EVや家電が対象だった買い替え補助政策を、スマホなどにも拡大すると明らかにした。
従来は中国政府が経済対策を発動すると、関連分野の株価が上昇することが多かった。しかし、今回の対策による年明けの中国の株価は、あまり好感しているようには見えない。
政策により一時的に中国の個人消費が持ち直す可能性はあるだろう。しかし、重要なポイントは、庶民の心理を改善して消費が持続的に増加するかどうかだ。
中国では住宅の差し押さえ件数が増えており、不動産バブル崩壊後の景気悪化が深刻だ。家庭の節約志向は高まり、デフレが進むリスクは高い。株式や為替市場の動きを見る限り、中国経済の先行きへの不安のほうが、政策への期待を上回っているといえる。
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スマホなどにも買い替え補助金が支給されることで、今後はファーウェイの新型折りたたみスマホなど、最新機種への乗り換え需要は増えるだろう。一時的に、中国の個人消費は持ち直し、景況感に改善の予兆が出る可能性はある。
今回の買い替え支援策には、米トランプ政権への備えという意味もありそうだ。トランプ政権が、半導体や人工知能(AI)分野で対中輸出を厳格化し、禁輸措置を拡大する可能性は高い。そうなる前に中国政府は、産業補助金に加えて買い替え支援を実施し、主要企業を支援しようとしているとみられる。
問題は、個人消費の増加がどれだけ持続するかだろう。新エネ車への補助金を拡充して以降、中国ではEVやPHVの値下げ競争が輪をかけて激化した。この影響から、IT大手の百度(バイドゥ)、自動車大手の吉利(ジーリー)が共同出資したEVメーカー極越(ジーユエ)が経営破綻したことは衝撃だ。買い替え補助金が始まってから増産に踏み切る企業は増え、結果的に過剰な生産能力が深刻化し、値下げ競争が激しくなる可能性は高い。
一方、消費者物価指数などの主要データからも分かるように、中国経済の需要は不足している。これまで不動産投資が支えてきた経済成長メカニズムは明らかに行き詰まっている。雇用・所得環境も不安定化しており、住宅ローンの返済困難者が増えていることから住宅の差し押さえ件数も増加傾向にある。
家計の節約心理が高まっているので、企業が新しい需要創出を目指して研究開発や投資に活発になるのも難しい状況だ。中国の政策には、もっと経済の専門家や実務家の見識が生かされるべきだろう。抜本的な景気支援策に取り組むことが必要なはずだ。
現在のような政策運営を続けると、いずれ国債発行が増加し過ぎて財政の悪化要因になり得る。世界的な信用格付け業者が中国国債を格下げし、資金流出が増加する恐れもある。年が明けて約1週間の中国株や人民元の動向は、そうした展開を警戒する見方を反映しているといえるだろう。
ダイヤモンド・オンライン 2025.1.14 6:00
https://diamond.jp/articles/-/357349