「大統領のクーデター」未遂は、日本に「悪夢」をもたらすかもしれない。新大統領がトランプ大統領や金正恩総書記と急接近、そして……。東アジア情勢に精通する本誌特別編集委員の緊急レポート。
「最愛の妻」のために
12月7日午前、3日ぶりに姿を現した尹錫悦大統領は、痩せ細り、白髪交じりでげっそりした様子。虚ろな目をしばたたかせながら述べた。
「大変申し訳なく思い、非常に驚いた国民の皆様に、心よりお詫び申し上げます。今後の国政運営は、わが党と政府が共に責任を持って行っていきます……」
力なくそう言うと、テレビカメラに向かって、深々と頭を下げた。
何だか出来の悪い「韓ドラ」を見ているような気分である。
尹大統領が3日の深夜に突然発表した「非常戒厳令宣言」は、韓国史に残る「大悪手」だった。将棋なら一発投了すべき大ポカである。実際、韓国大統領室の高官が一斉に辞任を申し出たのだから、もはや飛車角金銀を取られた「裸の王様」だ。
それでも尹大統領が潔く投了(辞任)しないのは、主に二つの理由によるものと思われる。
一つは、できるだけ時間稼ぎをして、最大の「仇敵」である李在明「共に民主党」代表に権力を奪われないようにするということだ。いまあっさり辞任すれば、2ヵ月以内に大統領選挙が行われ、ほぼ確実に李在明大統領が誕生する。
ところが李代表は先月15日、公職選挙法違反の罪で、ソウル中央地裁から懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。即刻控訴したが、半年以内に最終的な判決が確定する予定で、有罪となれば失職し、5年間、公職に立候補できないのだ。
尹大統領にとって、李在明政権の誕生はすなわち、自己の監獄行きである。「韓国で大統領とは、監獄行き一歩手前の職業」という俗説の正しさを、さらに証明するだけだ。
それならば、なるべく長く大統領職に踏みとどまって、与党「国民の力」の韓東勲代表もしくは別の保守系政治家が、李在明代表に打ち勝つ人気を得るまで耐え忍ぼうという戦略だ。
大統領夫人の「悪行」疑惑
もう一つは、最愛の金建希夫人を何としても守りたいという「家族愛」である。尹錫悦政権発足からこの2年半、すなわち5年の大統領任期の折り返し地点まで、支持率は常に低迷してきた。その最大の理由は、尹政権の失政ではなく、「悪妻」の存在だったのだ。
金建希夫人の「悪行」と言われるものは、自身の改名や整形手術、部下へのパワハラならまだしも、経歴詐称、高級バッグ授受、株価操作への資金提供、与党公認候補選びへの口利き、高速道路の不当な路線変更、公的外遊への民間人同行など、枚挙にいとまがない。
しかし12年前に、齢51にして、12歳下の美女を射止めた尹大統領は、子宝にも恵まれず、夫人を世界で一番愛している。「彼女のために料理を作っている時が至福の時」と公言する愛妻家なのである。そのため、夫人への糾弾を特別検察が始めると想定されていた12月10日を前に、「大統領のクーデター」を決起したという説もあるほどだ。
7日に韓国国会で審議された大統領弾劾訴追案は、ほとんどの与党議員が投票時に退席したため、廃案となった。
だがその決議前、実はもう一つの決議が行われた。金夫人の一連の疑惑を捜査する特別検察設置法の採決である。
300人の国会議員のうち200人以上が賛成すれば成立するが、結果は賛成198票で、「薄氷の不成立」となった。尹大統領はホッと胸をなでおろしたに違いない。
後編記事『「悪夢の文在寅政権」の再来も…悩める国・韓国で「反日モンスター」政権が生まれる日』へ続く。
「週刊現代」2024年12月21日号より
取材・文/近藤大介(本誌特別編集委員)
https://news.yahoo.co.jp/articles/70f063586b9858892faf41b31aa481da85cc6db5?page=1