ー前略ー
チクタクと進む時限爆弾と格闘する主人公が爆発寸前に止めるというのは、ハリウッドのサスペンス・アクション映画の定番である。
だが、中国となると全く違った展開になる。強権の習政権は「時限爆弾」の情報をひたすら隠蔽し、
あたかもその事実はないかのようにメディアに強いる。
そう、中国のノンバンク(非銀行)大手の「中植企業集団」とその傘下の「中融国際信託」による支払い停止問題に対する
習政権の対応がまさにそれである。本欄はこの金融危機勃発以来、連続で詳報してきたが、
今回は習政権の情報隠しに焦点を合わせてみる。
現地のSNSなどの情報によると、中植・中融の信託商品の元本総額は日本円換算で約20兆円に上るが、
満期が到来しても元利や配当の支払いが7月から途絶えた。
中植・中融からは「払えない」としか返答がないという。こうした状況にもかかわらず、
中国共産党と政府が統制する中国国内のテレビや新聞は1行も報じなかった。
・抗議の投資家に公安警察が脅し
8月11日になって、中融の信託に投資していた中国の上場企業3社が規定に従って情報開示したことから、問題の一部が露見した。
それでも、習政権下の国家金融監督管理総局は何のアクションもとらないし、主要メディアが記事にすることもない。
15万人に上るという投資家たちはそこで、スマホのチャットアプリ「微信」(ウイーチャット)上で
上海、北京など各地ごとにグループを結成し、抗議運動を始めた。
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各地の投資家たちは8月15日、中融国際信託が翌16日に事情説明すると聞き、微信で北京集結を決めた。
すると、15日深夜から翌日早朝にかけ、地元公安警察の幹部が首謀者格の投資家の自宅を突然、訪問した。
「あなたの身のためには北京には行かないほうがよい」。
椅子に座った幹部は、組んだ片方の脚を揺すりながら投資家にこう勧めた。この光景は隠し撮りされ、微信に流れた。
人工知能(AI)を使った習政権のネット監視技術は、微信で発信する投資家の身元をただちに把握し、
警察権力を使って脅迫するといわれる。なりふり構わぬ恐怖政治だ。
それでもめげずに、一部の投資家は16日、北京の中融ビル前に集結した。
中融の社員たちは「警察」と書かれたメガホンを使って解散を呼びかける。社員の背後には、警察官たちの姿があった。
これ以来、同じような抗議は上海、西安など各地で連日行われたが、中植・中融、政府とも無視するばかりだ。
中融の北京ビルは周りをブロック柵で閉鎖した。
だが、いくら隠しても時限爆弾は時を刻んでいる。
https://www.sankei.com/resizer/giTfJDPBjc7gVDT3SWydQSCmDEM=/0x224/smart/filters:quality(70)/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/CCL3TI7K3NPEXMJQGOI2SETHYY.jpg
グラフは、不動産投資の資金源の推移である。信託などノンバンク系が関与する「融資」「自己調達」は激減している。
不安に駆られた預金者や投資家は資金の回収を急ぐ一方で、
香港に押しかけて銀行で口座を開設するため行列をなしていると現地メディアが伝えている。
香港では人民元を香港ドルや米ドルに換えられるからだ。
人民元も株も売り一色だ。中国の国内金融の規模は米国を凌駕(りょうが)している。
情報不足のなかで中国金融爆発が及ぼす世界へのショックは計り知れない。
日本の投資家にとって「対岸の火事」どころではないだろう。見えにくい中国の動きを注意深くウオッチする必要がある。
田村秀男 産経新聞特別記者
夕刊フジ 2023.8/25 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20230825-GFPLJHIIBBPEDKWKB22VK237UM/