日本が無責任な感情的中国脅威論に与してはいけない理由
2022.12.22(木) 北村 淳 軍事社会学者
第2次世界大戦で日本軍を打ち破って以降、アメリカ海軍の主戦力は空母艦隊になった。現在に至るまで太平洋からインド洋にかけての戦域では空母艦隊こそがアメリカ軍事力が世界最強であることを象徴している、と多くの米国民や米軍関係者は自認しているし、日本を筆頭にアメリカ軍に頼り切っている国々でもそのように信じられている感が強い。
実際に、今から四半世紀も以前になるが、中国が台湾の独立を志向する動きに対して軍事的圧力をかけたいわゆる第3次台湾海峡危機(1995~96年)に際しては、空母艦隊2セットを台湾周辺海域に派遣したアメリカ軍に対して、中国側はなんら抵抗の姿勢を見せることなく沈黙せざるを得なかった。
この事件は、国際社会に米国の軍事力の強大さを再確認させるとともに、中国の軍事力の弱体ぶりをさらけ出してしまうこととなった。
海洋戦力の強化に邁進した中国、手が回らなくなった米国
だが、この出来事をきっかけとして、中国は海洋戦力(海軍力、航空戦力、長射程ミサイル戦力など)を中心とした接近阻止戦力(アメリカ軍が中国沿岸海域に接近してくるのをできるだけ遠方海上で撃退するための戦力)の強化に邁進した。
とりわけ中国が努力を傾注したのは、太平洋やインド洋から中国の“前庭”にあたる東シナ海や南シナ海に侵入してくる米空母艦隊を撃破する戦力の整備であった。とはいっても、1990年代後半の中国海軍や航空戦力はいまだに自衛隊にも対抗し得ないほど脆弱なものであり、米軍と衝突することなど思いも寄らないレベルであった。そのため、まずは近代的艦艇や航空機の取得や開発に着手し、海軍と空軍の強化に全精力を傾けた。
ー中略ー
中国軍が米空母艦隊を攻撃する手段
このような危惧の最大の理由は、中国軍がこれまで四半世紀にわたってアメリカ空母艦隊を撃破する能力の構築を推進してきた結果、現在、中国軍が手にするに至った米海軍航空母艦ならびに強襲揚陸艦を破壊するための各種手段に対して、米軍側が防御する可能性が極めて低いからである。
中国軍が手にしている手段は、現時点では3つある。
第1の手段は地上(移動式発射装置)から発射する対艦弾道ミサイルによる攻撃である。中国ロケット軍はDF-21D対艦弾道ミサイル(最大射程距離1550km)とDF-26弾道ミサイル(最大射程距離4000km)によって、米軍の早期警戒監視の目が行き届かない中国内陸深部から日本列島沖西太平洋上や南沙諸島周辺を航行する米海軍航空母艦を撃沈する能力を手にしている。
第2の手段は極超音速兵器による攻撃だ。DF-17弾道ミサイルに装着されるDF-ZF極超音速滑空体は、最大で2500km遠方の航空母艦にマッハ5~10のスピードで突入する。DF-ZFは第1撃が失敗しそうな場合には自ら変針して攻撃目標に再突入することも可能な恐るべき兵器である。
第3の手段はミサイル爆撃機からの超音速ミサイルによる攻撃である。中国海軍H-6Jならびに中国空軍H-6Kミサイル爆撃機に搭載されるYJ-12超音速対艦ミサイルはマッハ3のスピードで目標に突入する。この方法自体は目新しいものではないが、YJ-12は米軍艦が装備している対空防御システムの射程圏外から発射されるだけでなく、YJ-12自体が防御をかわすターンを繰り返しながら突入してくるため、迎撃することは極めて困難と考えられている。
さらにこれら3つの方法に加えて、中国海軍は近々「ミサイル魚雷」による攻撃という手段を手にする模様である。
ミサイル魚雷というのは中国海軍による独創的兵器であり、艦艇から発射したミサイルがまずは高度10000メートルの上空をマッハ2.5で飛翔し、次いで海面すれすれの超低空を超音速で20キロメートルほど巡航した後、攻撃目標手前10キロメートルで着水し、そこからは秒速100メートルのスーパーキャビテーション魚雷として目標に突入する。この攻撃をかわす防御システムは現在存在しない。
以下ソースから
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73212