またまた出たバイデン大統領の「弱腰」「短慮」 株上げたのは訪台・ペロシ氏だけ
林外相「政府としてコメントする立場にない」と相変わらずの情けなさ
米国のナンシー・ペロシ下院議長が2日夜、台湾を訪問し、蔡英文総統と翌日会談した。中国は「人民解放軍は決して座視しない」などと猛烈な圧力をかけていたが、蓋を開けてみれば「空脅し」だったことがバレてしまった。
それはいいとして、見逃せないのはジョー・バイデン大統領の「弱腰」と、無定見とも言える「短慮」である。コメントを拒否した「政界屈指の親中派」こと、林芳正外相の情けなさも相変わらずだ。
中国が振り上げた拳は、いつになく激しかった。
中国外務省は「主権と領土の一体性を守るために、断固として強力な措置をとる」と繰り返し、ペロシ氏が訪台すれば、いまにも戦争を始めかねないような勢いだった。
これを受けて、米軍は原子力空母「ロナルド・レーガン」を派遣し、戦闘機編隊による護衛に加えて、万が一、搭乗機が墜落した場合に備えて、米メディアは「ヘリコプターによる救出作戦も準備している」と報じていた。
ところが、ペロシ氏の搭乗機が飛来しても、中国軍機が異常接近するでもなく、拍子抜けしたように、搭乗機はすんなり台北市の松山空港に着陸した。
中国軍は4日から7日まで、台湾を取り囲むように大規模な軍事演習をすると発表したが、これこそ「後の祭り」である。さんざん脅した揚げ句、何もしないわけにはいかず、国内向けにポーズをとってみせた、にすぎない。
なぜ、こんな騒ぎになったかと言えば、火を付けたのは、バイデン氏である。フィナンシャル・タイムズが7月19日、「関係者6人からの情報」をもとに、訪台計画を報じると、記者団に問われた大統領は「米軍は『いい考えではない』と思っている。自分は状況がどうなっているか、知らない」と語った。
いきなり「米軍」という言葉を持ち出して、暗に「バイデン政権は賛成していない」と牽制(けんせい)したのだ。これが、いかに短慮だったか。
ペロシ氏が訪台を見送れば、中国の圧力に屈したかたちになり、ペロシ氏もバイデン政権も「弱腰批判」を避けられない。逆に、ペロシ氏が訪台を強行したら、バイデン氏の「求心力のなさ」がバレてしまう。どっちにしろ、政権にプラスにならないのだ。
バイデン氏は、ロシアによるウクライナ侵攻では、侵攻前の昨年12月に「米軍は派遣しない」と語り、「侵攻を促す結果になった」と批判を浴びた。昨年8月の米軍のアフガニスタン撤退でも、米軍幹部の反対にもかかわらず、早い段階から「8月撤退」を公言し、発言を撤回しなかった。
撤退時期を事前に言ってしまえば、武装派勢力がそれに合わせて攻撃計画を練るのは当然だ。結果として、撤退直前にテロ攻撃され、米兵13人の命が失われてしまった。重大局面での大統領の失言、妄言は、いまや定番である。
岸田文雄首相はと言えば、台湾をめぐる緊張が高まったタイミングで、ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席して「核廃絶」を訴えていた。世界が激動するなか、いつまで「お約束のセリフ」を吐けば、気が済むのか。
林外相は2日の記者会見で、ペロシ氏の訪台報道について、「政府としてコメントする立場にない」と語った。ここは、基本的価値を共有する台湾を強く支持する局面ではないか。
結局、ペロシ氏1人が株を上げた訪台になった。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。
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