<外交手腕は未知数と言われる菅首相。その初の外遊先にはさまざまな危険が待ち構えている>
10月15日、インドネシアの新型コロナウイルスへの感染者数が、東南アジア諸国連合(ASEAN)で最多を記録していたフィリピンを追い越し域内最多の34万9160人に達した。保健省などによる感染関連統計で明らかになった。
死者数は以前からインドネシアが域内では突出して多く、これで感染者、死者ともにインドネシアがASEAN域内で「最もコロナ禍に見舞われている国」となった。
インドネシア保健省やコロナ対策本部が15日午後4時過ぎに公表した統計によると、感染者34万9160人・死者1万2268人でASEAN域内ワーストとなった。次いでフィリピンが感染者34万8698人・死者6497人となっっている。
今年3月にインドネシア国内でインドネシア人へのコロナ感染が初確認されて以来、感染者、死者ともに急激な増加を記録してきた。
周辺国でコロナ感染が広がるなか、「イスラム教信仰が感染を防いでいる」「既に存在する多様なウイルスがインドネシア人の体内に抗体をつくっている」「熱帯の高温がウイルスを死滅させている」などという極めて非科学的なデマ・迷信が広まり、早めの感染防止策を怠ってきた「ツケ」で3月以降感染者・死者の急激な増加が続いた。
フィリピンに抜かれたことで油断
ところが8月6日に感染者数は同じく急激な感染拡大が深刻なフィリピンに抜かれ、域内2位となった。世界4位という約2億7000万人という人口を擁するインドネシアは、この時「対人口比」という数字を挙げて「フィリピンに比べたらインドネシアの感染状況は深刻ではない」と「安堵と油断」がインドネシアを覆った。
《中略》
9月24日には死者がついに1万人を超える事態になり、その後も感染者・死者は増え続けていた。
感染症専門家を無視、医療は崩壊寸前
こういう状況を招いた要因の一つは、インドネシア大学医学部や公衆衛生学部などの感染症専門家、疫病専門家さらに各大学の医療専門家、最前線の現場で治療にあたる医師や看護師による度重なる忠告や提言を政府や一部地方自治体が悉く無視してきたことだ。
「ロックダウンが必要不可欠」「3密回避だけでは感染防止はできない」「医師や看護師の感染防止が不十分」などの進言は聞きおかれ、インドネシア医師協会(IDI)などによればこれまでにコロナ禍で死亡した医師は115人以上、看護師は70人以上に達し、感染者を収容する施設、病床も不足気味で医療崩壊がすでに始まっているとの指摘もある。
菅首相訪問にインドネシアが期待すること
こんなASEAN最悪のコロナ感染者・死者を記録し続けるインドネシアを10月20、21日に日本の菅首相が公式訪問する。
全34州の中でも最もコロナが蔓延している首都ジャカルタを避けて西ジャワ州のボゴールにある大統領宮殿でジョコ・ウィドド大統領との首脳会談に臨む予定という。
ベトナムとともに菅首相の初の外遊先に選ばれたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領だが、国内では「感染予防より経済優先」としてマスコミや野党から批判を受けている。
また親日の立場を堅持しながらも中国との関係をも重視するというジョコ・ウィドド大統領との間の首脳会談で菅首相は「コロナウイルス対策」での協力とともに「南シナ海問題での国際海洋法に基づく秩序という基本姿勢確認」を重要議題にあげるだろうが、インドネシア側にしてみれば2国間の経済問題が最重要課題となる。
注目は中国が受注して大幅に工事が遅れているジャカルタ〜バンドン間の高速鉄道計画への日本の協力を求めるかどうかだ。ジョコ・ウィドド大統領は5月29日に「中国中心のコンソーシアムに日本の追加を検討している」との意向を経済担当調整相に明らかにしたというが、日本側に正式に依頼したとの続報はこれまでのところなく、今回の首脳会談でそこまで踏み込むか注目されている。
このほか日本からの投資促進と同時に経済援助を引き出したいインドネシア側には「中国からそして日本からも」と日中それぞれの関係を強調して「もらえるものはもらう」という思惑の戦略で会談に臨むのは間違いない。
《略〆》
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
Newsweek 2020年10月15日(木)21時45分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/asean-19.php
関連
【東南アジア】首相、来週東南アジア歴訪へ 初外遊、ベトナムとインドネシア[10/13] [Ikh★]
http://2chb.net/r/news4plus/1602572514/
10月15日、インドネシアの新型コロナウイルスへの感染者数が、東南アジア諸国連合(ASEAN)で最多を記録していたフィリピンを追い越し域内最多の34万9160人に達した。保健省などによる感染関連統計で明らかになった。
死者数は以前からインドネシアが域内では突出して多く、これで感染者、死者ともにインドネシアがASEAN域内で「最もコロナ禍に見舞われている国」となった。
インドネシア保健省やコロナ対策本部が15日午後4時過ぎに公表した統計によると、感染者34万9160人・死者1万2268人でASEAN域内ワーストとなった。次いでフィリピンが感染者34万8698人・死者6497人となっっている。
今年3月にインドネシア国内でインドネシア人へのコロナ感染が初確認されて以来、感染者、死者ともに急激な増加を記録してきた。
周辺国でコロナ感染が広がるなか、「イスラム教信仰が感染を防いでいる」「既に存在する多様なウイルスがインドネシア人の体内に抗体をつくっている」「熱帯の高温がウイルスを死滅させている」などという極めて非科学的なデマ・迷信が広まり、早めの感染防止策を怠ってきた「ツケ」で3月以降感染者・死者の急激な増加が続いた。
フィリピンに抜かれたことで油断
ところが8月6日に感染者数は同じく急激な感染拡大が深刻なフィリピンに抜かれ、域内2位となった。世界4位という約2億7000万人という人口を擁するインドネシアは、この時「対人口比」という数字を挙げて「フィリピンに比べたらインドネシアの感染状況は深刻ではない」と「安堵と油断」がインドネシアを覆った。
《中略》
9月24日には死者がついに1万人を超える事態になり、その後も感染者・死者は増え続けていた。
感染症専門家を無視、医療は崩壊寸前
こういう状況を招いた要因の一つは、インドネシア大学医学部や公衆衛生学部などの感染症専門家、疫病専門家さらに各大学の医療専門家、最前線の現場で治療にあたる医師や看護師による度重なる忠告や提言を政府や一部地方自治体が悉く無視してきたことだ。
「ロックダウンが必要不可欠」「3密回避だけでは感染防止はできない」「医師や看護師の感染防止が不十分」などの進言は聞きおかれ、インドネシア医師協会(IDI)などによればこれまでにコロナ禍で死亡した医師は115人以上、看護師は70人以上に達し、感染者を収容する施設、病床も不足気味で医療崩壊がすでに始まっているとの指摘もある。
菅首相訪問にインドネシアが期待すること
こんなASEAN最悪のコロナ感染者・死者を記録し続けるインドネシアを10月20、21日に日本の菅首相が公式訪問する。
全34州の中でも最もコロナが蔓延している首都ジャカルタを避けて西ジャワ州のボゴールにある大統領宮殿でジョコ・ウィドド大統領との首脳会談に臨む予定という。
ベトナムとともに菅首相の初の外遊先に選ばれたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領だが、国内では「感染予防より経済優先」としてマスコミや野党から批判を受けている。
また親日の立場を堅持しながらも中国との関係をも重視するというジョコ・ウィドド大統領との間の首脳会談で菅首相は「コロナウイルス対策」での協力とともに「南シナ海問題での国際海洋法に基づく秩序という基本姿勢確認」を重要議題にあげるだろうが、インドネシア側にしてみれば2国間の経済問題が最重要課題となる。
注目は中国が受注して大幅に工事が遅れているジャカルタ〜バンドン間の高速鉄道計画への日本の協力を求めるかどうかだ。ジョコ・ウィドド大統領は5月29日に「中国中心のコンソーシアムに日本の追加を検討している」との意向を経済担当調整相に明らかにしたというが、日本側に正式に依頼したとの続報はこれまでのところなく、今回の首脳会談でそこまで踏み込むか注目されている。
このほか日本からの投資促進と同時に経済援助を引き出したいインドネシア側には「中国からそして日本からも」と日中それぞれの関係を強調して「もらえるものはもらう」という思惑の戦略で会談に臨むのは間違いない。
《略〆》
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
Newsweek 2020年10月15日(木)21時45分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/asean-19.php
関連
【東南アジア】首相、来週東南アジア歴訪へ 初外遊、ベトナムとインドネシア[10/13] [Ikh★]
http://2chb.net/r/news4plus/1602572514/