>>1 日韓条約破棄なら日本資産の返還要求が可能
日韓会談における日本の最初の主張
1951年の条約締結を受けて、日韓の予備会談が始まったが、それに先だって、池田勇人大蔵大臣は、国会で、
@韓国はサンフランシスコ講和条約の調印国でないので賠償はしない。
A日本資産の処分は第四条によって認めたが、日本人の財産については、今後、韓国と話し合うとした。
つまり、とりあえず、米国による接収と韓国政府への移管は有効だが、それに補償する権利は放棄しないと言うことだ。
そして、日韓第1次会談は1952年2月に開始された。
日本側の代表は松本俊一外務省顧問(元事務次官)だった。
このときに、「インドは独立したときに、インド国内にあったイギリス人の財産を認めた」「敵の財産の処分を行ったときに、その財産に対する元の所有権は消滅しない。
たとえば、売却代金に対しては日本側の所有者が請求権をもっている」という方針だった。
これに対して韓国側は、「日本が真に誠意を示そうとするなら(韓国に対する)請求権は撤回しろ」と主張した。
それに対して、日本側はとりあえず、そうした問題は棚上げにして、合意できる問題から合意したらどうかと提案したが、韓国側が拒否したので、日本側は会談打ち切りを提案。韓国側も日本が請求権を撤回しない限り話し合いを続ける意味がないとしたので、日本は無期延期を提案し、韓国側もこれに合意するしかなかった。
これが、日韓会談における日本側の日本資産請求権についての出発点である。
そして、これが話を通じて妥協が行われ、1965年の日韓請求権協定に結実しているのだから、もし、韓国側が日韓基本条約や請求権協定を否定するなら、日本側もこの1952年の主張に戻るしかないということになってしまう。
なお、こののち、サンフランシスコ講和条約第四条(b)の解釈について、1957年に米国政府が「解釈」を出している。
その内容については、また、機会を改めて紹介するが、「日本国は、これらの資産またはこれらの資産に関する利益に対する有効な請求権を主張することはできない。もっとも、日本国が平和条約第四条
(b)において効力を承認したこれらの資産の処理は、合衆国の見解によれば、平和条約第四条(a)に定められている取極を考慮するに当たって関連があるものである」というものであった。
つまり、直接に返還を要求したり、その代金をよこせということはできないが、最終的な請求権交渉にあたって、それが韓国政府に与えられたことを考慮することは可能だということである。
そして、これを日韓両国は受け入れた。それが何を意味をするかは微妙である。それに拘束はされるのか、交渉を進めるために受け入れる判断をしたので、交渉の結果である条約を韓国が否定するなら日本はこれも拘束されないのか、
そもそも、サンフランシスコ講和条約に基づいた話し合いの結果において結ばれた条約を否定するなら、日本は何も拘束されないのか、なかなか難しいところだ。
いずれにせよ、いったん結んだ条約を実質的に否定して、裁判所の決めたことだから知らないという大統領が登場するなどというのは想定外なのである。