新型コロナウイルスの感染が拡大する中、各国の製薬会社がワクチンや治療薬の開発に取り組んでいる。開発は時間との戦い。血液由来の治療薬の研究を行う武田薬品工業は、速やかに進めるためにあえてライバル企業と協力することを決めた。実用化されれば武田の名前は使わずノーブランドで提供する考えだ。世界が100年に1度の危機を迎えたといわれる今、製薬会社の使命を果たすべきときがきた。
■回復者の血液から
武田は新型コロナに感染して完全に回復した人の血液の中にある血漿(けっしょう)成分から、抗体を含む成分を抽出して精製する「血漿分画製剤」の開発を進めている。
新型コロナに効く抗体は病歴のある人に特有のため、実用化には多くの回復者の血液を採集しなければならない。当初、武田は自社だけでの開発を検討していたが、実用化を早めるために今月になって複数のライバル会社と提携し、共同で開発、供給することを決めた。1企業の収益よりも、製薬会社としての使命を優先させた格好だ。
「現在のような状況の中で取り組みを進め、一定の成果を挙げてこられたことを、誇りに思っています」
3月末、クリストフ・ウェバー社長は世界の従業員約5万人に対してメッセージを送った。
この未曽有の時期においても、皆さんが新しい働き方に適応し、必要とされる医薬品を患者さんへお届けすることに注力していることに感謝しています」
今、ウェバー社長の胸中にあるのは、製薬会社としての使命を示した、武田に伝わる価値観に違いない。
■日本の価値観
「武田には独自の価値観がある。まずは患者に誠実であり、社会に信頼されてから、最後にビジネスを発展させる。この考え方が私たちのコンパスとなる」
昨年10月、大阪府吹田市内にある研修所。ウェバー社長は世界各地から集まった100人近い新人幹部社員を前に、武田で長年受け継がれてきた価値観について説明した。参加者のほとんどが外国籍。やり取りはすべて英語の中で武田の精神が語られた。
武田は従業員が行動や判断の基準とする独自の価値観を持ち、その優先順位を明文化している。1番に常に患者を中心に考え、2番目に社会との信頼関係を築き、3番目には評判を向上させる。この3つを実現した上で事業を発展させるという考え方だ。昭和15年に制定された社是でも「公に奉じ、質実を尊び、力を合わせ、礼節を守り、深く研鑽(けんさん)に努めること」と説く。
ウェバー社長は平成26年の入社以来、武田に脈々と受け継がれるこれらの考えに強く共感してきた。
「製薬会社がまず取り組むべきことが書かれている。ただし多くの会社が実行できていない」
■製薬企業の評判は
実は米国などでは製薬会社の評判はよくない。日本とは異なり、企業側が薬の価格を設定できることから、命にかかわる産業でありながら利益優先となってしまっているからだ。
「患者優先の考えは環境や制度によっては実践することが難しい。気づかずにミスを犯すこともある。だからこそ私たちはどんな場面でもこの価値観に立ち返る。この価値観が革新を生んでいく」。ウェバー社長は話す。
海外企業の買収を重ね、従業員の9割が外国籍となった武田では現在、社是を「誠実」「公正」「正直」「不屈」というキーワードに訳して「タケダイズム」として伝える。
「武田がその歴史の中で作り上げた価値観をグローバル化して世界に示したい」
大阪・道修町で創業してから239年。市場を世界に求め、巨大化した企業が果たすべき責任、使命は世界に広がっている。
◇
大阪の製薬会社からグローバル企業へと発展している武田薬品工業の歩みから見えてくるものとは何だろうか。
https://www.sankei.com/premium/news/200427/prm2004270002-n1.html
産経新聞 2020.4.27 16:00
武田薬品工業のクリストフ・ウエバー社長CEO=東京・日本橋本町の武田薬品グローバル本社(酒巻俊介撮影)
■回復者の血液から
武田は新型コロナに感染して完全に回復した人の血液の中にある血漿(けっしょう)成分から、抗体を含む成分を抽出して精製する「血漿分画製剤」の開発を進めている。
新型コロナに効く抗体は病歴のある人に特有のため、実用化には多くの回復者の血液を採集しなければならない。当初、武田は自社だけでの開発を検討していたが、実用化を早めるために今月になって複数のライバル会社と提携し、共同で開発、供給することを決めた。1企業の収益よりも、製薬会社としての使命を優先させた格好だ。
「現在のような状況の中で取り組みを進め、一定の成果を挙げてこられたことを、誇りに思っています」
3月末、クリストフ・ウェバー社長は世界の従業員約5万人に対してメッセージを送った。
この未曽有の時期においても、皆さんが新しい働き方に適応し、必要とされる医薬品を患者さんへお届けすることに注力していることに感謝しています」
今、ウェバー社長の胸中にあるのは、製薬会社としての使命を示した、武田に伝わる価値観に違いない。
■日本の価値観
「武田には独自の価値観がある。まずは患者に誠実であり、社会に信頼されてから、最後にビジネスを発展させる。この考え方が私たちのコンパスとなる」
昨年10月、大阪府吹田市内にある研修所。ウェバー社長は世界各地から集まった100人近い新人幹部社員を前に、武田で長年受け継がれてきた価値観について説明した。参加者のほとんどが外国籍。やり取りはすべて英語の中で武田の精神が語られた。
武田は従業員が行動や判断の基準とする独自の価値観を持ち、その優先順位を明文化している。1番に常に患者を中心に考え、2番目に社会との信頼関係を築き、3番目には評判を向上させる。この3つを実現した上で事業を発展させるという考え方だ。昭和15年に制定された社是でも「公に奉じ、質実を尊び、力を合わせ、礼節を守り、深く研鑽(けんさん)に努めること」と説く。
ウェバー社長は平成26年の入社以来、武田に脈々と受け継がれるこれらの考えに強く共感してきた。
「製薬会社がまず取り組むべきことが書かれている。ただし多くの会社が実行できていない」
■製薬企業の評判は
実は米国などでは製薬会社の評判はよくない。日本とは異なり、企業側が薬の価格を設定できることから、命にかかわる産業でありながら利益優先となってしまっているからだ。
「患者優先の考えは環境や制度によっては実践することが難しい。気づかずにミスを犯すこともある。だからこそ私たちはどんな場面でもこの価値観に立ち返る。この価値観が革新を生んでいく」。ウェバー社長は話す。
海外企業の買収を重ね、従業員の9割が外国籍となった武田では現在、社是を「誠実」「公正」「正直」「不屈」というキーワードに訳して「タケダイズム」として伝える。
「武田がその歴史の中で作り上げた価値観をグローバル化して世界に示したい」
大阪・道修町で創業してから239年。市場を世界に求め、巨大化した企業が果たすべき責任、使命は世界に広がっている。
◇
大阪の製薬会社からグローバル企業へと発展している武田薬品工業の歩みから見えてくるものとは何だろうか。
https://www.sankei.com/premium/news/200427/prm2004270002-n1.html
産経新聞 2020.4.27 16:00
武田薬品工業のクリストフ・ウエバー社長CEO=東京・日本橋本町の武田薬品グローバル本社(酒巻俊介撮影)