(省略)
韓国では2月下旬になって新型コロナウイルス感染者が一気に増えた。「震源地」となったのが、ソウル、釜山に次ぐ、第三の都市、大邱(テグ)だ。新興宗教団体の教会での集団感染もあって、患者数が急増。韓国政府は、大邱などを「特別管理区域」とした。現地では、博物館や美術館などが閉じられ、韓国のポピュラー音楽「K−POP」コンサートも中止に。市民は、外出の自粛を求められている。
2020年は韓国で「TK」と呼ばれる大邱と慶尚北道の「観光年」だそうだ。私も2月初め、ソウルから高速鉄道KTXで約2時間かけて1泊2日の日程で訪れた。もちろん、今は観光客の呼び込みどころではないだろう。
と書くのが、とても切ない。「身近な所に緑が多くて、歴史の息づかいも感じることができる韓国で一番の街です。もっと良くなります」。こんなふうに語る大邱で生まれ育った2人の女性に滞在中、街のあちこちを親切に案内してもらっていたからだ。
◇「医療観光」で外国人観光客は増えていた
(中略)
なぜ、人口約250万人の大邱市は、医療観光に打って出たのか。まずは五つの大学病院、3200以上の医療機関が集まるなど医療施設が充実しているから。朝鮮王朝時代の1658年に王の命令で、薬の流通拠点になってから360年以上にわたり、伝統的な韓方医療が盛んということもあった。さらには、世界中の人やモノ、カネが自由に移動し、情報もつながるグローバル化の進展。先進国の人々や新興国の富裕層に、医療を受けてもらうだけではなく、旅行もセットで楽しんでもらう。そうすれば地元の医療業界も、観光業界も潤う一石二鳥の効果になると、そろばんをはじいたのだ。
外国人が受けることができる医療は、歯科だけでなく、人間ドックや皮膚美容、近視矯正手術をはじめとする眼科、韓方医療など広範囲にわたる。大邱市は、出入国時の空港までの送迎、通訳や診断書の翻訳、ホテルの予約、医療保険の加入などの「無料サービス」も提供する。
そうしたかいあってか、大邱へ医療観光に訪れた外国人は2009年の約2000人から、18年には約1万8000人にまで増えた。日本人には美容外科や皮膚科、韓方が人気らしい。
さっぱりした性格の2人に勧められるまま巡った大邱の街も、確かに首都ソウルとは違うたたずまいがあった。おしゃれなカフェがたくさんあるのに、朝鮮戦争の戦火を免れた古い街並みも残るギャップが良い。骨付きカルビを柔らかく蒸してから、、ニンニク、ショウガなどが入ったタレでピリ辛く味付ける地元の名産料理「チムカルビ」は、大いにご飯が進んだ。ソウルでも「カルビチム」という似た料理があるが、こちらは調理方法が違い、骨付きカルビを甘辛いタレで味付けしてから、長時間蒸したものだ。
日本に仏教が伝わるより前の493年、新羅の時代に建てられた寺を前身とする桐華寺(トンファサ)へは、金理事が車を出してくれた。1992年に南北統一を願って建立された高さ30メートルの薬師如来大仏も見ることができて、心地よい散策だった。
(中略)
◇しっかりと乗り越えます
国境を越えて移動する人が増えたからこそ、大邱は外国人をターゲットにした医療観光戦略を展開できたし、世界中に拡大した新型コロナウイルスの猛威にもさらされた。この構図は、インバウンド(訪日外国人客)を大きく増やすことに成功し、今は苦境に立つ日本各地の観光地もまた同じだ。ウイルスへの対応策がまだはっきりとわからない中、当事者の自助努力でどうにか打開できるものではないという点も共有している。
新型コロナウイルスの感染拡大は、元徴用工問題などを巡る騒動で「1965年の国交正常化以降で最悪の関係」と言われる日韓両国が、グローバル化のメリットも、リスクも共有するという側面を浮き彫りにした。同時進行の逆境を共有しているからこそ、双方が手を携えて乗り切り、「グローバル化した時代の隣人関係」をもう一度、見つめ直すことにつなげられないだろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ソウルでも国会本館と議員会館の全面消毒が実施された2月24日。会員制交流サイト(SNS)でやりとりした金恩嬅さんは「しっかりと乗り越えます。早い収束を祈ります。おいしい食事をたくさん食べて、熟睡して、楽しく過ごせば、新型コロナウイルスもきっと心配ありません。ファイト」と前向きにつづっていた。こちらが「大邱にまた足を運びたいです」と返信したのは、「2人の金さん」の郷土愛に感じ入るところが大だったからだろう。
毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200307-00000005-mai-int
3/7(土) 10:00配信
韓国では2月下旬になって新型コロナウイルス感染者が一気に増えた。「震源地」となったのが、ソウル、釜山に次ぐ、第三の都市、大邱(テグ)だ。新興宗教団体の教会での集団感染もあって、患者数が急増。韓国政府は、大邱などを「特別管理区域」とした。現地では、博物館や美術館などが閉じられ、韓国のポピュラー音楽「K−POP」コンサートも中止に。市民は、外出の自粛を求められている。
2020年は韓国で「TK」と呼ばれる大邱と慶尚北道の「観光年」だそうだ。私も2月初め、ソウルから高速鉄道KTXで約2時間かけて1泊2日の日程で訪れた。もちろん、今は観光客の呼び込みどころではないだろう。
と書くのが、とても切ない。「身近な所に緑が多くて、歴史の息づかいも感じることができる韓国で一番の街です。もっと良くなります」。こんなふうに語る大邱で生まれ育った2人の女性に滞在中、街のあちこちを親切に案内してもらっていたからだ。
◇「医療観光」で外国人観光客は増えていた
(中略)
なぜ、人口約250万人の大邱市は、医療観光に打って出たのか。まずは五つの大学病院、3200以上の医療機関が集まるなど医療施設が充実しているから。朝鮮王朝時代の1658年に王の命令で、薬の流通拠点になってから360年以上にわたり、伝統的な韓方医療が盛んということもあった。さらには、世界中の人やモノ、カネが自由に移動し、情報もつながるグローバル化の進展。先進国の人々や新興国の富裕層に、医療を受けてもらうだけではなく、旅行もセットで楽しんでもらう。そうすれば地元の医療業界も、観光業界も潤う一石二鳥の効果になると、そろばんをはじいたのだ。
外国人が受けることができる医療は、歯科だけでなく、人間ドックや皮膚美容、近視矯正手術をはじめとする眼科、韓方医療など広範囲にわたる。大邱市は、出入国時の空港までの送迎、通訳や診断書の翻訳、ホテルの予約、医療保険の加入などの「無料サービス」も提供する。
そうしたかいあってか、大邱へ医療観光に訪れた外国人は2009年の約2000人から、18年には約1万8000人にまで増えた。日本人には美容外科や皮膚科、韓方が人気らしい。
さっぱりした性格の2人に勧められるまま巡った大邱の街も、確かに首都ソウルとは違うたたずまいがあった。おしゃれなカフェがたくさんあるのに、朝鮮戦争の戦火を免れた古い街並みも残るギャップが良い。骨付きカルビを柔らかく蒸してから、、ニンニク、ショウガなどが入ったタレでピリ辛く味付ける地元の名産料理「チムカルビ」は、大いにご飯が進んだ。ソウルでも「カルビチム」という似た料理があるが、こちらは調理方法が違い、骨付きカルビを甘辛いタレで味付けしてから、長時間蒸したものだ。
日本に仏教が伝わるより前の493年、新羅の時代に建てられた寺を前身とする桐華寺(トンファサ)へは、金理事が車を出してくれた。1992年に南北統一を願って建立された高さ30メートルの薬師如来大仏も見ることができて、心地よい散策だった。
(中略)
◇しっかりと乗り越えます
国境を越えて移動する人が増えたからこそ、大邱は外国人をターゲットにした医療観光戦略を展開できたし、世界中に拡大した新型コロナウイルスの猛威にもさらされた。この構図は、インバウンド(訪日外国人客)を大きく増やすことに成功し、今は苦境に立つ日本各地の観光地もまた同じだ。ウイルスへの対応策がまだはっきりとわからない中、当事者の自助努力でどうにか打開できるものではないという点も共有している。
新型コロナウイルスの感染拡大は、元徴用工問題などを巡る騒動で「1965年の国交正常化以降で最悪の関係」と言われる日韓両国が、グローバル化のメリットも、リスクも共有するという側面を浮き彫りにした。同時進行の逆境を共有しているからこそ、双方が手を携えて乗り切り、「グローバル化した時代の隣人関係」をもう一度、見つめ直すことにつなげられないだろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ソウルでも国会本館と議員会館の全面消毒が実施された2月24日。会員制交流サイト(SNS)でやりとりした金恩嬅さんは「しっかりと乗り越えます。早い収束を祈ります。おいしい食事をたくさん食べて、熟睡して、楽しく過ごせば、新型コロナウイルスもきっと心配ありません。ファイト」と前向きにつづっていた。こちらが「大邱にまた足を運びたいです」と返信したのは、「2人の金さん」の郷土愛に感じ入るところが大だったからだろう。
毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200307-00000005-mai-int
3/7(土) 10:00配信