終末の日の迎え方にも色々あるだろうが、最悪のシナリオはもしかするとこうだ。
トイレに座ったまま立ち上がることもできず、トイレットペーパーがもうなくなる……。
少なくとも現在、多くのオーストラリア人がこのてんまつに怯えているらしい。
新型コロナウイルスを恐れる自分の恐怖心をなんとかするため、大量のトイレットペーパーをまとめ買いする人たちはあちこちにいるが、
それが今ではオーストラリアでも起きている。
政府当局がトイレットペーパーの在庫は不足していないといくら強調しても、買い占めは続く。
オーストラリア国内で消費されるトイレットペーパーのほとんどが国内で生産されているというのに。
最大都市シドニーでは、スーパーマーケットの棚が数分で空っぽになってしまう。
1人が買えるのは4パックまでと、制限するしかなかったチェーン店もある。
4日にはトイレットペーパーのパニック買いで、店の客同士が口論になり、ナイフを取り出す人もいたらしい。この現場には警察が呼ばれた。
ソーシャルメディアでは4日、「#トイレットペーパー・ゲート」(ウォーター・ゲート事件にちなんだもの)や
「#トイレットペーパー危機」といったハッシュタグがトレンド入りした。
オンライン上ではトイレットペーパーが数百ドル(数万円)で違法に取引されたり、
3層トイレットペーパーに当選したいリスナーがラジオ局に電話をかけたりしていた。
過去48時間で状況はますます悪化し、公衆トイレのトイレットペーパーが盗まれる始末だという話もある。
いったい何が起きているのか。なぜ人はこんなことをするのか。
政府は国民に、衛生状態を保ち、手を洗うようアドバイスした。さらに、必要だと思うなら、2週間分の食料や水、家庭用品を準備するよう勧めた。
すると、トイレットペーパーの需要が一気に急騰した。長期保存可能な食料や非生鮮食品の需要よりも。
客がトイレットペーパーをつかみ、ショッピングカートに山のように積み上げる様子が、ソーシャルメディアに投稿された。
「(スーパーマーケットの)アルデイで会計待ちをする私の後ろにいる女性」のカートだという、写真の投稿もあった。
大量のトイレットペーパーが山積みになっているのがわかる。
この状況を受けて、当局はパニック買いをやめるよう求めている。この現象にあちこちでひんしゅくを買っている。
いざとなれば、トイレットペーパーよりはごわごわしているかもしれないが、代用品はいくらでもあるのに、
なぜそこまで必死になるのかと、オンラインではそういう意見も出ている。
オーストラリア人が煽ったものとしては、史上「一番ばかげた」危機だという声もある。
あるいは、医薬品やマスクや手の消毒液と比べれば、トイレットペーパーは新型ウイルス対策にさえならないのにと。
「トイレットペーパーが生命維持にとって最重要な必需品だなんて、知らなかった」というツイートもある。
消費者心理学の専門家は、こうした行動は「明らかに理性を欠いた」もので、ソーシャルメディアやニュース報道に煽られた群集心理の、分かりやすい一例だと説明する。
空っぽになった棚の写真も、状況の改善につながらない。
グリフィス大学のデブラ・グレイス教授は、「トイレットペーパー50パックがごっそり棚からなくなると、本当に目立つ。
とてもかさばるので」と指摘し、だからこそトイレットペーパーについてパニック買いの対象になりやすいのだと話す。
ニューサウスウェールズ大学のニチカ・ガーグ准教授はBBCに、「仲間はずれの恐怖」(FOMO症候群)が影響していると指摘する。
「この人もあの人も同じものを買っている、自分のご近所も買っている、だったら自分も買うべき理由が何かあるのだろうと、そう思い込む」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51748502
https://pbs.twimg.com/media/ESLLaz-UUAI3-oI?format=jpg