認知症患者の数がここ5年で30万人以上増加したことが分かった。平均寿命の伸びで「人生100年時代」と言われるようになり、高齢に伴う代表的な疾患である認知症の患者数も2014年の42万5000人から昨年は73万1000人にまで急増した。韓国健康保険公団が30日にキム・ミョンヨン議員に提出した資料によると、認知症治療のため健康保険から支払われた額は同じ期間に9722億ウォン(現在のレートで約870億円、以下同じ)から1兆6353億ウォン(約1460億円)にまで膨れ上がった。
韓国政府は2年前に「認知症国家責任制」を宣言し、認知症の検診と患者の管理のため全国に「認知症安心センター」を256カ所設置した。しかし現状では職員の確保もできないまま空回りしている。256カ所のうち職員の定員(18−35人)を満たしているのは18カ所(7%)にすぎないのが現状だ。政府は暴力や妄想などの症状を示す重症の認知症患者を専門に治療する認知症専門病院も55カ所設置する方針を示していたが、現時点では3カ所しかない。仁済大学上渓白病院精神健康医学科のイ・ドンウ教授は「患者の増加ペースから考えると、認知症専門病院は55カ所では足りないだろう」と指摘する。
■高齢化に認知症検査の拡大などが影響
認知症患者の増加は高齢化に伴ういわば避けられない問題ではあるが、政府が認知症国家責任制を打ち出し、高齢者に検査を促したことで、検査件数が大きく増加したことも影響しているとの見方もある。2017年12月からの検査件数を累計で比較すると、1次選別検査は昨年3月には35万件だったが、今年8月には320万件へと9倍に増え、診断検査の場合は1万2000件から20万件へと16倍も増えた。
そのため専門家は認知症安心センターなどで行われる検査について「実績の水増し」に終わらないか懸念している。その典型がソウルだ。ソウル市内のある認知症安心センター所長は「患者数によって毎年区ごとの実績が比較されるので、数字の水増し競争が起こっている」「(治療が必要な患者を探し出すのではなく)患者数ばかりが誇張される恐れがある」と指摘する。検査の拡大によって認知症に伴う保険支出を抑えることが期待され、またもしすでに症状が出ている場合は悪化を防げるはずだが、実際は患者の数を増やすことで政府の認知症対策が順調に進んでいることを強調するだけで終わる恐れがあるということだ。
国会立法調査処も「認知症安心センターの運営方式が認知症診断への成果と実績に対する圧力として作用し、認知症国家責任制の本来の趣旨から外れないようにしなければならない」とコメントしている。
■認知症安心センターの93%でスタッフの人材不足
認知症患者は増加しているが、256カ所ある認知症安心センターのほとんどが職員の定員を満たせていない。保健福祉部(省に相当)がキム・スンヒ議員に提出した資料によると、全国に256カ所ある認知症安心センターのうち、238カ所(93%)が人手不足となっている。特に江原道(50.8%)、忠清北道(50.8%)、大田市(54.5%)などでは定員はほぼ半分しか満たせていない。とりわけ医師など専門的な人材の確保が難しいという。
保健福祉部は本来、認知症安心センターごとに看護師、臨床心理士、社会福祉士、作業療法士を1人ずつ置き、また医師も1人が週8時間勤務するよう定めている。しかし医師の確保が特に難しいため、今年からは医師の勤務時間を週4時間へと規定を変えた。すると医師の週当たりの勤務時間が4時間の認知症安心センターが全体の29%に当たる74カ所に増えた。4時間未満のケースも3カ所あったという。看護師、臨床心理士、社会福祉士、作業療法士も全体の定員(6284人)の66.8%に当たる4196人しか採用できていない。キム・サンヒ議員は「専門的な人材が足りないため、認知症患者は認知症安心センターで体系的な管理が受けられない状況に置かれている」と問題点を指摘した。
ホン・ジュンギ 記者
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朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2019/10/06 06:03