一橋大学の准教授が「コリアンは頭がおかしい」などの差別発言をしたとして、在日コリアンの同大学院生が大学所在地である国立市に人権救済を申し立てた。永見理夫市長と学生らの話し合いの結果、出た答えは。
授業中に差別発言、批判封じるような文言も
人権救済の申し立てを行ったのは、一橋大学院博士課程の梁英聖(リャン・ヨンソン)さん。政治家の言動やサッカーの試合会場での差別発言や差別的行為を監視・記録し、情報発信するヘイトウォッチ団体「反レイシズム情報センター・ARIC」の代表も務める、在日コリアン三世だ。
梁さんは2018年から同大学のアメリカ人の准教授の男性にSNSなどで攻撃を受け続けてきたといい、一橋大学に第三者委員会を立ち上げて二度と差別が起こらない教育環境を整えるよう求め、署名なども展開してきた。「大学にも発言の撤回や謝罪などを求めてきたが、対応してもらえなかった」(梁さん)ため、今回、准教授の該当ツイートや授業中の発言などを元に国立市に人権救済を申し立てたという。
申し立てでは、2019年5月と6月の授業中に同准教授が発言したとされる「コリアンは頭がおかしい」「新しい単語を教えてあげよう。『バカチョン』だ」などの人種差別発言と共に、この准教授がシラバス(授業計画)に書いている内容も指摘している。准教授はシラバスに「言論の自由に関する契約」として、こう記している。
「レイシスト、セクシスト、ホモフォビア、トランスフォビア(同性愛嫌悪)などと言われたり、あるいはセーフスペースを侵害していると言われることなくコミュニケーションする権利を有する」(シラバスより)
つまりこのメッセージは「例えば授業中に人種差別発言をしても、『レイシスト』だと指摘・批判されないということ。これでは差別なく安心して教育を受ける環境は保てない。授業中の准教授による差別やハラスメントに対し、学生が批判することを封じたり委縮させる効果を狙ったもの」だと梁さんは批判する。
「差別は大したことじゃない」と子どもたちに伝えるのか
今回、梁さんが人権救済の申し立てをしたのは、国立市が2019年4月1日から施行した「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」に基づくものだ。
同条例は人種や国籍、性別などさまざまな差別を禁止し、「不当な差別の解消を始めとする人権救済のために必要な措置を講ずる」としている。そして必要に応じて「国立市人権・平和のまちづくり審議会において調査及び審議を行う」と規定する。
梁さんは8月1日に要望書を国立市の永見理夫市長と、市の国立市人権・平和のまちづくり審議会宛てに提出。26日に永見市長らと話し合った。梁さんは言う。
「市長が審議会に諮問して、審議会が調査し、それを踏まえて市から一橋大学に何らかの働きかけを行って欲しかったのですが、条例の『基本方針』がまだ定まっていないため、諮問は難しいという回答でした。
それでは何にもならない。率直に言って失望しましたし、裏切られた気持ちでした。
夏休み明けのこの時期は、子どもの自殺が増えます。しかも8月24日は4年前に一橋大学の学生がアウティング(性的指向や性自認について本人の意思に反して他者が公表すること)により自死した日です。市のゼロ回答は『差別は大したことじゃない』というメッセージになってしまうと訴えました」(梁さん)
その結果、上記の内容が記された回答書を、市長はその場で回収。国立市として何ができるか考えていくために、再度話し合いの場を設けることになったという。
2017年8月、アメリカ東部バージニア州のシャーロッツビルで白人至上主義団体の集会に抗議していたデモ隊に、団体側の男性が自動車で突入し、1人が死亡、19人が負傷する事件が起きた。その際、バージニア州のテリー・マコーリフ知事(当時)は白人至上主義者に対して「我々のメッセージは単純で簡単だ。『帰れ』。この偉大な州はお前たちを歓迎しない。恥を知れ」と強い言葉で非難した(BBC、2017年08月13日)。
「(国立市の)市長は准教授の発言にショックを受けた、私個人を攻撃する文脈で、朝鮮人全体を差別する発言だという趣旨のことを話していました。
私は国立市長にもテリー・マコーリフ前知事のような対応をして欲しいんです。日本にはこうした発想も前例も無いですが、今回の条例で一歩踏み込んでくれることを期待します」(梁さん)
(文・竹下郁子)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190827-00000003-binsiderl-soci&p=2
授業中に差別発言、批判封じるような文言も
人権救済の申し立てを行ったのは、一橋大学院博士課程の梁英聖(リャン・ヨンソン)さん。政治家の言動やサッカーの試合会場での差別発言や差別的行為を監視・記録し、情報発信するヘイトウォッチ団体「反レイシズム情報センター・ARIC」の代表も務める、在日コリアン三世だ。
梁さんは2018年から同大学のアメリカ人の准教授の男性にSNSなどで攻撃を受け続けてきたといい、一橋大学に第三者委員会を立ち上げて二度と差別が起こらない教育環境を整えるよう求め、署名なども展開してきた。「大学にも発言の撤回や謝罪などを求めてきたが、対応してもらえなかった」(梁さん)ため、今回、准教授の該当ツイートや授業中の発言などを元に国立市に人権救済を申し立てたという。
申し立てでは、2019年5月と6月の授業中に同准教授が発言したとされる「コリアンは頭がおかしい」「新しい単語を教えてあげよう。『バカチョン』だ」などの人種差別発言と共に、この准教授がシラバス(授業計画)に書いている内容も指摘している。准教授はシラバスに「言論の自由に関する契約」として、こう記している。
「レイシスト、セクシスト、ホモフォビア、トランスフォビア(同性愛嫌悪)などと言われたり、あるいはセーフスペースを侵害していると言われることなくコミュニケーションする権利を有する」(シラバスより)
つまりこのメッセージは「例えば授業中に人種差別発言をしても、『レイシスト』だと指摘・批判されないということ。これでは差別なく安心して教育を受ける環境は保てない。授業中の准教授による差別やハラスメントに対し、学生が批判することを封じたり委縮させる効果を狙ったもの」だと梁さんは批判する。
「差別は大したことじゃない」と子どもたちに伝えるのか
今回、梁さんが人権救済の申し立てをしたのは、国立市が2019年4月1日から施行した「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」に基づくものだ。
同条例は人種や国籍、性別などさまざまな差別を禁止し、「不当な差別の解消を始めとする人権救済のために必要な措置を講ずる」としている。そして必要に応じて「国立市人権・平和のまちづくり審議会において調査及び審議を行う」と規定する。
梁さんは8月1日に要望書を国立市の永見理夫市長と、市の国立市人権・平和のまちづくり審議会宛てに提出。26日に永見市長らと話し合った。梁さんは言う。
「市長が審議会に諮問して、審議会が調査し、それを踏まえて市から一橋大学に何らかの働きかけを行って欲しかったのですが、条例の『基本方針』がまだ定まっていないため、諮問は難しいという回答でした。
それでは何にもならない。率直に言って失望しましたし、裏切られた気持ちでした。
夏休み明けのこの時期は、子どもの自殺が増えます。しかも8月24日は4年前に一橋大学の学生がアウティング(性的指向や性自認について本人の意思に反して他者が公表すること)により自死した日です。市のゼロ回答は『差別は大したことじゃない』というメッセージになってしまうと訴えました」(梁さん)
その結果、上記の内容が記された回答書を、市長はその場で回収。国立市として何ができるか考えていくために、再度話し合いの場を設けることになったという。
2017年8月、アメリカ東部バージニア州のシャーロッツビルで白人至上主義団体の集会に抗議していたデモ隊に、団体側の男性が自動車で突入し、1人が死亡、19人が負傷する事件が起きた。その際、バージニア州のテリー・マコーリフ知事(当時)は白人至上主義者に対して「我々のメッセージは単純で簡単だ。『帰れ』。この偉大な州はお前たちを歓迎しない。恥を知れ」と強い言葉で非難した(BBC、2017年08月13日)。
「(国立市の)市長は准教授の発言にショックを受けた、私個人を攻撃する文脈で、朝鮮人全体を差別する発言だという趣旨のことを話していました。
私は国立市長にもテリー・マコーリフ前知事のような対応をして欲しいんです。日本にはこうした発想も前例も無いですが、今回の条例で一歩踏み込んでくれることを期待します」(梁さん)
(文・竹下郁子)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190827-00000003-binsiderl-soci&p=2