【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が北朝鮮に対する本格的な人道支援に乗り出した。国連機関の支援事業への資金拠出を決めたほか、大規模な食糧支援に向けて時期や方法を探っている。膠着(こうちゃく)化した米朝非核化交渉や南北対話の再始動の糸口にしたい考えだ。だが、食糧支援の必要性を疑問視する見方も根強く、北朝鮮自体が文政権からの人道支援に冷淡な態度を取り続けている。
文政権は5日、世界食糧計画(WFP)などが北朝鮮で進める児童・妊産婦への栄養・医療支援事業に800万ドル(8億6700万円)を拠出する手続きを終えた。食糧支援についても与党議員が5月末に「政府が近く国際機関を通じて5万トンを支援する予定だ」と述べた。
文大統領は、支援について「人道」や「同胞愛」を強調する一方、滞った米朝交渉の「突破口を開く効果もある」と説明してきた。北朝鮮は2月の米朝首脳会談後、韓国との協議も拒否した状態だが、食糧を直接送るとなると、自然と南北協議の機会が生まれるとの思惑もある。
だが、野党など保守層には食糧支援に懐疑的な見方が強く、韓国の北朝鮮専門サイトなどは、北朝鮮の主要都市で米の価格が4月末まで6カ月連続で下落しているとの調査内容を示した。価格が下がるぐらい米が足りているというのだ。
文政権の支援方針は、昨年の北朝鮮の食糧生産を490万トンと推定、136万トンが不足するとしたWFPなどの報告書に依拠している。韓国の専門家らは、WFPが北朝鮮の統計も使っているため、「不足分の水増しがある」とみつつも、ここ10年で最も深刻なのは確かで、少なくとも数十万トンは不足すると分析する。
米価下落は、所得の減った庶民が米を買う代わりに別の穀物でしのいでいるためだとの見方も出ている。
中国やロシアが既に北朝鮮に食糧支援を行っているのに対し、米国務省は「国連決議は食糧輸入を禁じていない」と強調してきた。足りなければ、他国から買えばいいとの立場だ。ヘイリー前米国連大使は「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が食糧を受け取れば、節約した資金を核兵器開発に回すだろう」と警告した。
北朝鮮は1〜5月の全国の平均降水量が観測史上最低になるとし、深刻な干魃(かんばつ)への備えを訴えている。一方で、文政権の人道支援方針を、南北合意の履行という「根本問題を後回しにしたざれ言や恩着せ」だと宣伝サイトで一蹴。中国で5月下旬に韓国の民間団体と会った北朝鮮関係者も「根本問題から目をそらすな」と苦言を呈した。開城(ケソン)工業団地の再開などカネを生み出す経済協力事業を先にやれとの意味だ。党機関紙、労働新聞も「『援助』は開発途上国の命綱を握ろうとする帝国主義者らの略奪手段だった」と牽制(けんせい)した。
北朝鮮の駐ジュネーブ国際機関代表部大使はロイター通信との5月のインタビューで「支援を受けても良いが、受けなくとも自ら管理できる。問題は国連制裁だ」と述べ、食糧を輸入するにも制裁で銀行決済が不可能だと主張した。制裁解除が先決で、食糧支援を外交カードには使わせないとの北朝鮮の意思が読み取れる。対話再開の呼び水にしようとした文氏の食糧支援計画は、開始前から暗礁に乗り上げているようだ。
https://www.sankei.com/world/news/190607/wor1906070013-n1.html
産経新聞 2019.6.7 17:31
文政権は5日、世界食糧計画(WFP)などが北朝鮮で進める児童・妊産婦への栄養・医療支援事業に800万ドル(8億6700万円)を拠出する手続きを終えた。食糧支援についても与党議員が5月末に「政府が近く国際機関を通じて5万トンを支援する予定だ」と述べた。
文大統領は、支援について「人道」や「同胞愛」を強調する一方、滞った米朝交渉の「突破口を開く効果もある」と説明してきた。北朝鮮は2月の米朝首脳会談後、韓国との協議も拒否した状態だが、食糧を直接送るとなると、自然と南北協議の機会が生まれるとの思惑もある。
だが、野党など保守層には食糧支援に懐疑的な見方が強く、韓国の北朝鮮専門サイトなどは、北朝鮮の主要都市で米の価格が4月末まで6カ月連続で下落しているとの調査内容を示した。価格が下がるぐらい米が足りているというのだ。
文政権の支援方針は、昨年の北朝鮮の食糧生産を490万トンと推定、136万トンが不足するとしたWFPなどの報告書に依拠している。韓国の専門家らは、WFPが北朝鮮の統計も使っているため、「不足分の水増しがある」とみつつも、ここ10年で最も深刻なのは確かで、少なくとも数十万トンは不足すると分析する。
米価下落は、所得の減った庶民が米を買う代わりに別の穀物でしのいでいるためだとの見方も出ている。
中国やロシアが既に北朝鮮に食糧支援を行っているのに対し、米国務省は「国連決議は食糧輸入を禁じていない」と強調してきた。足りなければ、他国から買えばいいとの立場だ。ヘイリー前米国連大使は「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が食糧を受け取れば、節約した資金を核兵器開発に回すだろう」と警告した。
北朝鮮は1〜5月の全国の平均降水量が観測史上最低になるとし、深刻な干魃(かんばつ)への備えを訴えている。一方で、文政権の人道支援方針を、南北合意の履行という「根本問題を後回しにしたざれ言や恩着せ」だと宣伝サイトで一蹴。中国で5月下旬に韓国の民間団体と会った北朝鮮関係者も「根本問題から目をそらすな」と苦言を呈した。開城(ケソン)工業団地の再開などカネを生み出す経済協力事業を先にやれとの意味だ。党機関紙、労働新聞も「『援助』は開発途上国の命綱を握ろうとする帝国主義者らの略奪手段だった」と牽制(けんせい)した。
北朝鮮の駐ジュネーブ国際機関代表部大使はロイター通信との5月のインタビューで「支援を受けても良いが、受けなくとも自ら管理できる。問題は国連制裁だ」と述べ、食糧を輸入するにも制裁で銀行決済が不可能だと主張した。制裁解除が先決で、食糧支援を外交カードには使わせないとの北朝鮮の意思が読み取れる。対話再開の呼び水にしようとした文氏の食糧支援計画は、開始前から暗礁に乗り上げているようだ。
https://www.sankei.com/world/news/190607/wor1906070013-n1.html
産経新聞 2019.6.7 17:31