民主主義には長所ばかりがあるわけではない。短所も多い。政策の持続性と安定性を維持するのが難しいというのは、民主主義の致命的な弱点の一つだ。選挙を通じて政権が交代するたびに政策も変わることが多い。
前政権の誤った政策は新政権が当然正さなければいけない。それを公約にして執権したりもする。問題は変える必要がない政策、変えてはならない政策までも変えるところにある。
後任者は前任者の業績を継承・発展させるより、粗探しをしたり消したいという誘惑に陥りやすい。弱点が多い後任者であるほどそうだ。大きな業績を残した指導者を前任者とする“不運”な後任者は前任者に対する評価のため焦りを感じたりもする。
不動産財閥のトップから世界最強大国のトップになったトランプ大統領がそうだ。オバマ大統領の足跡を消すために大統領になったのかと思うほどトランプ大統領は執拗であり徹底している。
トランプ政権発足から9カ月間で、オバマ大統領が「遺産(legacy)」とするほとんどのものが毀損されている。就任するやいなやトランプ大統領はアジア・太平洋地域の12カ国が合意した環太平洋経済連携協定(TPP)を白紙にした。
地球温暖化を防ぐための国際的な合意「パリ協定」からも離脱した。オバマ大統領の主要政策だった「オバマケア(国民健康保険)」もダメージが大きい。不法滞在者を救済する移民法はメキシコ国境に建設中の「トランプ障壁」に阻まれた。北米自由貿易協定(NAFTA)と韓米自由貿易協定もこのような「リスト」に含まれている。
トランプ大統領が消しているオバマ大統領の業績リストにさらにもう一つが追加された。前任者が苦労して妥結して機能しているイラン核合意にブレーキをかけたのだ。
トランプ大統領は13日、包括的な対イラン戦略を発表し、「イラン核合意は今まで米国が締結した最も悪く、最も一方的な取引の一つ」と酷評しながら、イランの核合意遵守を認めないと宣言した。
イランが合意内容のうち何を守っていないのかという具体的な説明はなかった。米政権は「イラン核合意検証法」に基づき、90日ごとにイランが核合意を遵守しているかどうかを評価して認証するかどうかを議会に報告しなければいけない。トランプ大統領は就任後2回は認証したが、3回目で明確な根拠も提示せず認証しなかった。
イラン核合意とは、2015年7月に米国・英国・フランス・中国・ロシアの国連安全保障理事会常任理事国(P5)にドイツと欧州連合(EU)を加えた7者がイランと交渉して妥結した「包括的共同行動計画(JCPOA)」をいう。
安保理の承認を経て昨年1月に発効したこの合意に基づき、今後15年間にイランが保有できる濃縮ウランは濃度3.67%以下の低濃縮ウラン300キロに制限される。約2万個にのぼるウラン濃縮用遠心分離機は平和的な目的に使用する約6000個だけを残して廃棄された。
イランは核兵器開発が疑われるすべての施設に対する国際原子力機関(IAEA)視察団の接近を受け入れた。これを受け、イランは国連と米国、EUの経済制裁から抜け出し、石油輸出と金融取引を再開した。海外で凍結されていた約1000億ドルの資産も取り戻した。
核プログラムの部分的廃棄と凍結を制裁解除と交換したのがイラン核合意の骨子だ。
IAEAはイラン核合意後8回にわたり査察を実施したが、まだいかなる問題点も見つかっていない。核合意に参加した英国・フランス・ドイツなど同盟国はもちろん、中国とロシアもイランが核合意を遵守しているという立場だ。にもかかわらずトランプ大統領は協議もなく一方的に認めなかった。
そしてトランプ大統領は「議会が同盟国と協力してイラン核合意の多くの欠陥を解消することを望む」と議会にボールを渡した。とにかく問題点が多いためこれを正さなければ大統領の権限で離脱を宣言するという脅迫と変わらない。
トランプ大統領の決定を受け、米議会は60日以内にイランに対する経済制裁を再開するかどうかを決めなければならない。議会がイランの国際金融活動を遮断し、石油輸出を禁止する従来の制裁をまた加えることを決定すれば、波紋は広がるしかない。
http://japanese.joins.com/article/801/234801.html
(続く)