日本で働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」に11月から介護が加わり、今後現場で働く外国人が増える見通しだ。深刻な人手不足に悩む施設や事業所では、歓迎の声が上がる一方、安価な労働力とみなされる懸念も消えない。
既に経済連携協定(EPA)の枠組みで来日した介護福祉士や在日外国人ヘルパーらは欠かせない存在になっている。日本の介護を支える外国人たちに迫った。
◆3500人が入国
「きれいな花ですね」。奈良県天理市の特別養護老人ホーム。インドネシア人の介護福祉士、ナンシー・ノルタンティさん(32)が、高齢者の女性に笑顔で話しかける。
介護職における外国人の受け入れは、2008年にインドネシアとのEPAから始まった。フィリピン、ベトナムも加わり、これまでに約3500人が入国した。
ナンシーさんはEPA第2期生。大学で学んだ日本語を生かしたいと、09年に来日した。施設で4年間実習し、難関の国家試験に合格。期限なく日本で働けるようになった。「親も誇りに思ってくれている。ここでずっと働きたい」。ほぼ毎月仕送りし、母国で暮らす家族3人を支える。
業務を交代する時間になるとナンシーさんが、日本語で記録した利用者の様子を丁寧に読み上げる。細やかな引き継ぎに、同僚の信頼も厚い。入居者の村井静子さん(85)は「何でもすぐに気付いてくれる」と彼女を慕う。勤務中に手が空くと、人目のつかない部屋で祈る。多いときで1日2回。イスラム教徒の大切な時間を、施設側も尊重する。
経営する医療法人健和会は、現在16人の介護士を雇い、既に8人が国家資格を取得。厚生労働省によると、合格者の3割程度が帰国しているが、同施設を辞めて母国に帰ったのは1人しかいない。
岡田智幸事務局長は「外国人の力は必要。命を預かる現場だけに、時間がかかっても定着を目指したい」と意気込む。技能実習生も20人弱を受け入れる方針だ。研修施設も整備し、ナンシーさんらを交えて支援できる環境整備を進める。
◆受け入れ体制に課題
外国人労働者の紹介を手掛ける人材派遣会社、N.T.トータルケア(大阪市)は、技能実習生の来日を見越した施設から、既に介護で100件を超す求人依頼があるという。
高橋太朗社長は「外国人を受け入れる体制や準備もなく、ただの労働力としてしか考えない施設は必ず失敗する。介護業界にとって、試練の1年になります」と話した。
◇
■EPA追い風 広がる活躍の場
「筑前煮できたで〜」。大阪市に住むフィリピン出身のヘルパー、アマリア・サンペドロさん(52)が訪問先の冷蔵庫にある食材で、素早く和食を作り上げた。「おまけに台所も拭いといたよ」。細やかな気遣いに利用者の顔がほころんだ。
日本人男性と結婚し、2003年に来日。介護の仕事は10年になるベテランで関西弁も堪能だ。体調管理やおむつ交換、掃除や洗濯を手際よくこなす。「すごくええ人」「明るくて何でも頼みやすい」と利用者に評判だ。
フィリピン人は介護に向いているという声は多い。日本人と結婚し、会話能力に優れる在日フィリピン人向けの養成講座は首都圏中心に相次いで開設された。
600人以上がヘルパーの資格を取得した人材派遣会社の「キャリーアップ」(大阪市)の鍬田優一社長は、明るくて家族を大切にする国民性を指摘する。さらに、「語学に個人差はあるが、ハンディを克服しようと彼女たちは懸命に頑張る」と派遣先の様子を語る。需要は高まる一方だという。
こうした講座を受けたサンペドロさんも、当初は日本語が分からずトラブルがあった。漢字が読めずに買うべき食材が分からず、利用者とけんかになったことも。「日本人の方がいい」と言われたときは涙がこぼれた。
「素直に謝って、勉強してきた」。漢字を電子辞書で調べ、繰り返し書いて練習した。「介護の仕事はしんどいけど楽しい」。苦労があったからこそそう思える。
「鳥肌が立って涙が出るぐらい、感謝されてうれしいことがある」。日本の介護現場で働く外国人が今後も増え、その喜びを知ってほしいと話す。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/171023/ecd1710230500001-n1.htm
(続く)
既に経済連携協定(EPA)の枠組みで来日した介護福祉士や在日外国人ヘルパーらは欠かせない存在になっている。日本の介護を支える外国人たちに迫った。
◆3500人が入国
「きれいな花ですね」。奈良県天理市の特別養護老人ホーム。インドネシア人の介護福祉士、ナンシー・ノルタンティさん(32)が、高齢者の女性に笑顔で話しかける。
介護職における外国人の受け入れは、2008年にインドネシアとのEPAから始まった。フィリピン、ベトナムも加わり、これまでに約3500人が入国した。
ナンシーさんはEPA第2期生。大学で学んだ日本語を生かしたいと、09年に来日した。施設で4年間実習し、難関の国家試験に合格。期限なく日本で働けるようになった。「親も誇りに思ってくれている。ここでずっと働きたい」。ほぼ毎月仕送りし、母国で暮らす家族3人を支える。
業務を交代する時間になるとナンシーさんが、日本語で記録した利用者の様子を丁寧に読み上げる。細やかな引き継ぎに、同僚の信頼も厚い。入居者の村井静子さん(85)は「何でもすぐに気付いてくれる」と彼女を慕う。勤務中に手が空くと、人目のつかない部屋で祈る。多いときで1日2回。イスラム教徒の大切な時間を、施設側も尊重する。
経営する医療法人健和会は、現在16人の介護士を雇い、既に8人が国家資格を取得。厚生労働省によると、合格者の3割程度が帰国しているが、同施設を辞めて母国に帰ったのは1人しかいない。
岡田智幸事務局長は「外国人の力は必要。命を預かる現場だけに、時間がかかっても定着を目指したい」と意気込む。技能実習生も20人弱を受け入れる方針だ。研修施設も整備し、ナンシーさんらを交えて支援できる環境整備を進める。
◆受け入れ体制に課題
外国人労働者の紹介を手掛ける人材派遣会社、N.T.トータルケア(大阪市)は、技能実習生の来日を見越した施設から、既に介護で100件を超す求人依頼があるという。
高橋太朗社長は「外国人を受け入れる体制や準備もなく、ただの労働力としてしか考えない施設は必ず失敗する。介護業界にとって、試練の1年になります」と話した。
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■EPA追い風 広がる活躍の場
「筑前煮できたで〜」。大阪市に住むフィリピン出身のヘルパー、アマリア・サンペドロさん(52)が訪問先の冷蔵庫にある食材で、素早く和食を作り上げた。「おまけに台所も拭いといたよ」。細やかな気遣いに利用者の顔がほころんだ。
日本人男性と結婚し、2003年に来日。介護の仕事は10年になるベテランで関西弁も堪能だ。体調管理やおむつ交換、掃除や洗濯を手際よくこなす。「すごくええ人」「明るくて何でも頼みやすい」と利用者に評判だ。
フィリピン人は介護に向いているという声は多い。日本人と結婚し、会話能力に優れる在日フィリピン人向けの養成講座は首都圏中心に相次いで開設された。
600人以上がヘルパーの資格を取得した人材派遣会社の「キャリーアップ」(大阪市)の鍬田優一社長は、明るくて家族を大切にする国民性を指摘する。さらに、「語学に個人差はあるが、ハンディを克服しようと彼女たちは懸命に頑張る」と派遣先の様子を語る。需要は高まる一方だという。
こうした講座を受けたサンペドロさんも、当初は日本語が分からずトラブルがあった。漢字が読めずに買うべき食材が分からず、利用者とけんかになったことも。「日本人の方がいい」と言われたときは涙がこぼれた。
「素直に謝って、勉強してきた」。漢字を電子辞書で調べ、繰り返し書いて練習した。「介護の仕事はしんどいけど楽しい」。苦労があったからこそそう思える。
「鳥肌が立って涙が出るぐらい、感謝されてうれしいことがある」。日本の介護現場で働く外国人が今後も増え、その喜びを知ってほしいと話す。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/171023/ecd1710230500001-n1.htm
(続く)