首相の国連演説
緊張あおりながら解散か
【論説】安倍晋三首相が国連総会で演説し、核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮を「史上最も確信的な破壊者」などと強く批判した。各国に国連安保理決議の完全履行を呼び掛け、国際社会の結束を求めるとともに、国内向けには衆院の解散・総選挙に向け国連総会を最大限利用したといえる。
ただ、国民にすれば、首相が「眼前の脅威」などと緊迫感をあおるほど、なぜ解散し政治空白をつくるのか、首をかしげたくなるはずだ。大義なき解散を「危機対応」で脚色し、大義を仕立て上げようとする意図が透ける。
さらに過去の対話で見せた北朝鮮の不遜な態度を非難。「必要なのは対話ではない。圧力だ」と強調すればするほど、それなら北朝鮮を動かす打開策や戦略があるのか、問いたくなる。対話の道を模索しなければ、平和的解決を導くことはできるはずもない。
前日のトランプ米大統領の演説では、「金正恩(キムジョンウン)体制は向こう見ずで下劣」「自国民を飢えさせ、弾圧している」「ロケットマンの金氏」「ならず者国家」などとツイッターばりの過激としか言いようのない非難の言葉が並んだ。これを受けた北朝鮮の演説でもさらに過激な言葉が飛び交うことは必至だろう。
非難の応酬が緊張感を一層高め、不測の事態へと発展する懸念も捨てきれない。とりわけトランプ氏が発した「自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」は、体制維持を強化する金政権にとっては最大級の警告に映ったのではないか。
石油の上限規制や繊維製品の輸出禁止など安保理の制裁決議がじわじわ効果を見せ始めているとの観測があるが、実際には数カ月以上かかるとの見方もある。その間、情勢は緊迫の一途をたどる。日米韓合同の弾道ミサイル防衛訓練が予定され、米国は空母を中心とした艦隊を朝鮮半島周辺に向かわせる見通しだ。偶発的な軍事衝突を引き起こす可能性も否定できない。
日本や韓国にとっては、軍事衝突が全面戦争の引き金になることを最も恐れる。安倍政権は日米韓の連携の深まりや、国際的包囲網構築への貢献などで危機管理能力の高さを示す狙いだろうが、圧力一辺倒に危うさを感じている国民も少なくないはずだ。
県内でも弾道ミサイル発射を受け、県漁連が県に発射阻止や連絡体制の構築などを国に強く働き掛けるよう求めた。また西川一誠知事が小野寺五典防衛相に、原発の防御や自衛隊の基地整備などを緊急要請した。
国民、県民が求めるのは、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域に平和と安定をもたらすこと以外にない。そのためには北朝鮮を対話の場につかせるしかない。問われるのは外交力だ。今は外交努力に専念する時であり、現段階での総選挙には疑問符がつく。それでも解散するなら、首相は外交的解決に向けた道筋を示すべきだ。
ソース:福井新聞 2017年9月22日 午前8時05分
http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/240975