●「これからも、しぶとく」
文芸誌「架橋」を発行する「在日朝鮮人作家を読む会」が40周年を迎える。在日コリアンと日本人の文学的交差路として、作家の磯貝治良さん(80)=愛知県清須市在住=が主宰してきた。互いの差異や境界を見据え、読み・書き・語り合う場に、磯貝さんは立ち続けている。
「読む会」が発足したのは1977年12月。のちに講師として何度か来演する金石範が、韓国・済州島の過酷な歴史をたどる「海嘯」(単行本は『火山島』)の連載を文芸誌で始めた翌年だ。月例読書会が軌道に乗った80年から、同人誌にあたる「架橋」を年1回出すようになった。
「文学を通して在日朝鮮・韓国人の生活と思想にふれ、みずからの差別意識や制度としての差別を克服する視点にたって、民衆連帯の基底を探っていきたい」。40年前、呼びかけ文に込めた磯貝さんの思いは今も変わらない。それは、幼少から在日の友人と濃密にかかわった経験から生まれた信念でもある。
金石範、金時鐘、李恢成、梁石日といった著名作家のほか、新人作家にも目を配り、小説・詩・評論などを読んできた。「在日2世あたりまでの作家は、抑圧者の言語だった日本語を使うことに屈折感を抱きつつ、奔放・屈強・磊落(らい・らく)に自分を表現していた。日本への同質化とともに文学も変化しているが、往年の作品も新しい世代の作品も、それぞれに読み応えがある」と磯貝さんは話す。
教員、会社員、主婦、自営業、大学院生ら、延べ5千人を超す在日コリアンと日本人が毎回1冊の本を介して自由に意見を述べ合ってきた。韓国やフランスの大学で在日文学を語る研究者も輩出した。
参加者の一人に、名古屋大学の浮葉正親教授(文化人類学)がいる。「読む会」のフォーラムを大学で開き、磯貝さんの初期作品が読めるウェブサイトを作った。「差別されたり取り残されたりする社会の弱者が権力に立ち向かう様子を、磯貝さんは好んで小説にしてきた。幼少の〈朝鮮体験〉を生き直しているような磯貝さんのエネルギーが、読書会にも表れ、場の魅力となっている」と話す。
8月末の日曜午後、451回目の「読む会」が、定例会場にしている名古屋・栄のYWCAであった。地元ほか千葉と大阪から計8人。磯貝さんの体調不良のせいもあって4年ぶりの発行となった「架橋」の最新33号を素材に意見交換した。
「読む会」も「架橋」も、出入り自由で会則を設けない文学的マダン(広場)として運営してきた。
「ここまで続いたのは、軽薄にも窮屈にもならずに、文学作品を楽しみながら新しい自分を発見する喜びがあったから。〈他者〉を理解しようとすることで視野が広がり、自分が変わり、個人や民族や国の枠を超えて共有できるものが生み出される。これからも、しぶとく続けていきたい」。磯貝さんの気力は衰えていない。(佐藤雄二)
【いそがい・じろう】 作家、文芸評論家。1937年愛知県半田市生まれ。愛知大卒。会社勤めを経て30代後半から文筆に専念。長編小説に『在日疾風純情伝』『クロニクル二〇一五』など、評論に『始源の光 在日朝鮮人文学論』『〈在日〉文学論』などがあり、多くの評論が韓国で翻訳されている。
『〈在日〉文学全集』(全18巻、共同編集)を06年に出版して話題を呼んだ。市民運動にも積極的にかかわり、現在も活動している「韓国併合100年東海行動実行委員会」の世話人代表を務めている。
http://www.asahi.com/area/aichi/articles/MTW20170906241310001.html
![【朝日新聞】「在日朝鮮人作家を読む会」40周年 差異見据え語り合う場[9/10] [無断転載禁止]©2ch.net YouTube動画>1本 ->画像>3枚](http://www.asahi.com/area/aichi/articles/images/MTW2017090624131000132988.jpg)
磯貝治良さん