朝鮮半島左右する決定的時期 北朝鮮危機と混迷するトランプ外交
拓殖大学海外事情研究所所長 川上 高司氏
世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の定期講演会が8月22日、都内で開催され、拓殖大学海外事情研究所所長の川上高司氏が「北朝鮮危機と混迷するトランプ外交」をテーマに講演した。
川上氏は、北朝鮮問題の今後の展開について、米国が武力行使に踏み切るハードランディングと米国が中国とディール(取引)をして北朝鮮の核保有を認めるソフトランディングの二つのシナリオがあると説明。
今後の朝鮮半島情勢を見据え、日本は「自主防衛を真剣に考えるべきだ」と強調し、日米同盟を強化しつつ独自に防衛力を整備する必要性を説いた。(以下は講演要旨)
軍事攻撃か中国影響下の統一か 同盟強化、自主防衛急げ
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は自分の保身、体制維持のために絶対に核を手放さない。これを前提にすれば、北朝鮮問題の落としどころは、ハードランディングかソフトランディングしかない。どちらに転ぶかはフィフティー・フィフティーで、今まさに決定的な時期だ。
米国が武力行使に踏み切るハードランディングの場合、北朝鮮から日本に向けてミサイルが何発か飛んで来る可能性がある。標的は米軍基地、自衛隊基地、原発だ。特殊部隊も入ってくるだろう。福島原発事故のような状況が日本国内で同時並行的に起こる可能性がある。
また、同時に中国が尖閣諸島を取りに来ることも考えられる。それを見越して今から備えなければならない。これは本当に嫌なシナリオだが、戦争直前ぐらいのことを考えないといけない時代だ。
北朝鮮が米国本土、特に東海岸に到達する核弾頭付きの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有する時期は2〜3年後と言われていたが、半年のうちに確保できるとの話が米政府から出てきた。
北朝鮮としては、ICBM完成に必要な弾頭部の大気圏への再突入技術を確立するために、何か口実を付けてミサイルを発射したい。そのためにグアム周辺への発射を予告した。
現在、米国の日本への拡大抑止が効いている。その意味するところは、北朝鮮が日本の都市に核ミサイルを発射し、数十万人が犠牲になった場合、米国は平壌に核ミサイルで報復する。北朝鮮はこれが怖いから撃たないということだ。
しかし、北がワシントンを破壊できる能力を持てば、米国は躊躇(ちゅうちょ)して北にミサイルを撃てなくなり、米国の抑止力は崩壊する。今まさにそういう状況が起きようとしている。そうなる前に攻撃するには今しかないというのが米軍の考え方だ。
もう一つのソフトランディングは、米国が中国とディール(取引)をし、北朝鮮の核保有を容認するというシナリオだ。北朝鮮がたとえ核弾頭を60発くらい持ったとしても、米国には約7000発、予備弾は別途5000発ほどあり、北朝鮮は取るに足らない、一瞬にして崩壊させられるとの考え方だ。これは過去に米国が中国の核保有を容認した時と同じ論理だ。
一番心配なことは、米朝が国交を回復すれば、韓国も北朝鮮に接近して南北対話が進む。そこで統一の話が一気に進む。中国もそれを強力に後押しする。
最悪のシナリオは、中国の影響力の下で核を持った反日の統一朝鮮が生まれることだ。休戦協定がなくなるので、国連軍は解体され、在韓米軍も撤退する。
日本では、米最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」か陸上配備型イージスシステム「イージス・アショア」の導入が検討されている。
だが、イージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」や地対空誘導弾パトリオット「PAC3」、THAAD、イージス・アショアなどの迎撃ミサイルは、北朝鮮がミサイルを何十発も同時に飽和攻撃してきたら、必ず撃ち漏らしが出る。
それならば、なぜ攻撃型の巡航ミサイルや中・長射程のミサイルを導入しないのか。これは真剣に議論すべきテーマだが、国会では加計問題や防衛省の日報問題しか議論できないという滅茶苦茶な状況だった。
http://vpoint.jp/world/korea/94861.html
(>>2以降に続く)