・8月29日、北朝鮮のミサイルが北海道上空を通り太平洋上に落下。
・日本メディアはミサイルが「通過」と書いたが、米メディアは日本国内の米軍基地などが「標的」となった、と書いた。
・日米間のこうした差はなぜ生まれたのか考えるべきであろう。
北朝鮮が8月29日に日本に向けて撃った弾道ミサイルは北海道上空を通り、太平洋上に落下した。日本の主要新聞はこの発射を日本「通過」と総括するところが多かった。ところがアメリカの新聞はこの北朝鮮弾道ミサイルが日本国内の米軍基地などを「標的」として実験発射されたとするのがほとんどだ。
同じ無謀な北朝鮮のミサイル発射でも日本とアメリカの反応の温度差は顕著である。やはり日本では核やミサイルの脅威がつい目先に存在するにもかかわらず、反応は鈍いといえそうだ。
北朝鮮の「火星12」と称されるこの中距離弾道ミサイルは約2700キロを飛び、北海道の襟裳岬の東の太平洋上に落ちた。このミサイル発射を朝日新聞8月30日朝刊(国際版)は「北朝鮮ミサイル 日本通過」という大見出しで報道した。
脇の見出しには「2700キロ飛行 『グアム射程』誇示か」とあり、北朝鮮の狙いはまずグアムであるかのような総括の表現だった。ここで強調されたのは「通過」という言葉であり、このミサイルがあくまで日本の上空を単に通っていくという印象だった。(参考:朝日新聞ウェブ版記事2017年8月30日)
日本経済新聞8月30日朝刊(国際版)の記事も主要見出しは「北朝鮮ミサイル 日本通過」だった。(参考:日本経済新聞ウェブ版2017年8月29日記事)同時に「日本領域への落下物や飛行機や船舶への被害情報はない」点を強調していた。
ここでもこのミサイルはただ日本領土のはるかの上空をなにごともなく飛んでいった、という感じの描写なのである。
一方、アメリカの主要新聞でみる反応は異なっていた。ワシントン・ポスト8月30日付は「北朝鮮の完全に計算された発射」という見出しの記事で、アメリカ側専門家たちの意見の総合として「北朝鮮は今回は慎重にグアム島の米軍基地は狙わないが、日本国内のどこでも標的としうる能力を誇示した」という点を強調していた。
弾道ミサイルは日本の上空を通過はしたが、北側の意図はあくまで日本を標的として、日本国内のどの拠点でも撃てる能力の明示だという解釈だった。
ワシントン・タイムズ同日付の記事も「この弾道ミサイルはグアム島の米軍基地を標的とはしなかったが、アメリカの重要な同盟国である日本を標的とした」という複数の専門家たちの見解を伝えていた。
同記事は「北朝鮮は今回のミサイル発射で日本国内のどのような標的をも攻撃できる能力を示して、日米の離反を図ろうとする意図をもうかがわせた」という専門家の意見をも載せていた。ここでもやはり日本は「通過」ではなく、「標的」という位置づけなのだ。
ミサイルが物理的に日本上空を通過しても、その意図は日本を標的とする攻撃能力の誇示だということだろう。
ウォールストリート・ジャーナル8月30日の記事もこのミサイル打ち上げを「北朝鮮の日本に対する正面からの挑戦」として描いていた。この記事は、挑戦された日本は軍事能力を大幅に増強して対応せざるをえないだろう、とも述べていた。
日米間のこうした温度差は日本が最大の脅威であるはずの北朝鮮に距離的に至近な点を考えると、さらに奇妙に映る。やはり日本は「憲法9条さえあれば、平和は守られる」という式の幻想的な平和観が主流となってきたことに大きな代償を払わねばならないのだろうか。
古森義久 ジャーナリスト
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。
ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。
著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。
http://japan-indepth.jp/?p=35853
・日本メディアはミサイルが「通過」と書いたが、米メディアは日本国内の米軍基地などが「標的」となった、と書いた。
・日米間のこうした差はなぜ生まれたのか考えるべきであろう。
北朝鮮が8月29日に日本に向けて撃った弾道ミサイルは北海道上空を通り、太平洋上に落下した。日本の主要新聞はこの発射を日本「通過」と総括するところが多かった。ところがアメリカの新聞はこの北朝鮮弾道ミサイルが日本国内の米軍基地などを「標的」として実験発射されたとするのがほとんどだ。
同じ無謀な北朝鮮のミサイル発射でも日本とアメリカの反応の温度差は顕著である。やはり日本では核やミサイルの脅威がつい目先に存在するにもかかわらず、反応は鈍いといえそうだ。
北朝鮮の「火星12」と称されるこの中距離弾道ミサイルは約2700キロを飛び、北海道の襟裳岬の東の太平洋上に落ちた。このミサイル発射を朝日新聞8月30日朝刊(国際版)は「北朝鮮ミサイル 日本通過」という大見出しで報道した。
脇の見出しには「2700キロ飛行 『グアム射程』誇示か」とあり、北朝鮮の狙いはまずグアムであるかのような総括の表現だった。ここで強調されたのは「通過」という言葉であり、このミサイルがあくまで日本の上空を単に通っていくという印象だった。(参考:朝日新聞ウェブ版記事2017年8月30日)
日本経済新聞8月30日朝刊(国際版)の記事も主要見出しは「北朝鮮ミサイル 日本通過」だった。(参考:日本経済新聞ウェブ版2017年8月29日記事)同時に「日本領域への落下物や飛行機や船舶への被害情報はない」点を強調していた。
ここでもこのミサイルはただ日本領土のはるかの上空をなにごともなく飛んでいった、という感じの描写なのである。
一方、アメリカの主要新聞でみる反応は異なっていた。ワシントン・ポスト8月30日付は「北朝鮮の完全に計算された発射」という見出しの記事で、アメリカ側専門家たちの意見の総合として「北朝鮮は今回は慎重にグアム島の米軍基地は狙わないが、日本国内のどこでも標的としうる能力を誇示した」という点を強調していた。
弾道ミサイルは日本の上空を通過はしたが、北側の意図はあくまで日本を標的として、日本国内のどの拠点でも撃てる能力の明示だという解釈だった。
ワシントン・タイムズ同日付の記事も「この弾道ミサイルはグアム島の米軍基地を標的とはしなかったが、アメリカの重要な同盟国である日本を標的とした」という複数の専門家たちの見解を伝えていた。
同記事は「北朝鮮は今回のミサイル発射で日本国内のどのような標的をも攻撃できる能力を示して、日米の離反を図ろうとする意図をもうかがわせた」という専門家の意見をも載せていた。ここでもやはり日本は「通過」ではなく、「標的」という位置づけなのだ。
ミサイルが物理的に日本上空を通過しても、その意図は日本を標的とする攻撃能力の誇示だということだろう。
ウォールストリート・ジャーナル8月30日の記事もこのミサイル打ち上げを「北朝鮮の日本に対する正面からの挑戦」として描いていた。この記事は、挑戦された日本は軍事能力を大幅に増強して対応せざるをえないだろう、とも述べていた。
日米間のこうした温度差は日本が最大の脅威であるはずの北朝鮮に距離的に至近な点を考えると、さらに奇妙に映る。やはり日本は「憲法9条さえあれば、平和は守られる」という式の幻想的な平和観が主流となってきたことに大きな代償を払わねばならないのだろうか。
古森義久 ジャーナリスト
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。
ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。
著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。
http://japan-indepth.jp/?p=35853