1人当たりGDPが中国ナンバーワンで、中国有数のイノベーション都市として知られる広東省深セン市。
だが、その郊外の龍華新区にはデジタル工場の短期労働者らが暮らすサイバー・スラム街があり、「1日働けば、3日遊べる」を合言葉にギャンブルや性風俗・オンラインゲーム(ネトゲ)などに日銭をぶち込んで暮らす自堕落な若者たちで溢れている。
彼らはいつしか中国のネット上で「三和ゴッド」(三和大神)と呼ばれるようになった。
私は現地取材の様子を『SAPIO』9月号に寄稿し、さらに現地で出会った三和の知恵者・呉用(ギャンブル廃人かつネトゲ廃人)について本サイトの前回記事〈中国「ネトゲ廃人村」元住民が語る“本物のクズ”の生活〉で記した。
一連の記事が好評だったので、今回は『SAPIO』の記事にも登場した三和のネトゲ廃人の帝王・譚茂陽について、取材ノートをもとに彼とのやりとりを紹介したい。
譚茂陽は湖南省チン州市出身の23歳(「チン」は林におおざと)。中学を卒業して間もないころに深セン市郊外の工場街に流れ着き、2015年5月から2016年9月まで三和ゴッドとしてネトゲ三昧の暮らしを送った。
彼はネトゲの戦歴ゆえに当該の分野でちょっとした有名人であり、本人の人生崩壊の過程やネトゲ廃人だった当時のライフスタイルもあわせて、まさに三和の帝王と呼ぶにふさわしい人物であった。
彼は色黒の肌を持つ偉丈夫。現在は更生(?)して過去の廃人ライフを反省しつつ、なぜか深セン市郊外のフィットネスクラブの従業員におさまっている謎多きマッチョである。
譚茂陽という名は日本語では馴染みにくいので、その体格と直情径行的な行動パターンから、本記事ではとりあえず「鉄牛」と呼ぶことにしよう。
ネットバカラで借金漬けに
――鉄牛さんが三和に流れ着いた経緯は借金だったと聞いています。どういう経緯でそうなったんですか?
鉄牛 俺が深センに出てきたのは中学を卒業してすぐの15歳のとき。2010年だ。しばらくあちこちの工場や他の職場を転々としたが、2013年から2年間ほど同じ工場で働いてね。ちょっとカネが貯まったから、友達と「起業しようぜ!」って話になった。
焼きソバやぶっかけ飯を出す食堂で、起業資金は5万元(約82万円)。俺が負担したのは2万元(約33万円)ちょっとだったかな。深セン郊外の大浪地区に店を出したんだ。
――けっこう最近ですね。
鉄牛 ああ。だけど店がさっぱりダメでさ。売り上げを伸ばそうと、路上で焼きソバを焼いて売ってみたら近所の住民に通報されちゃったんだ。法律がよくわかんなかったんだよ。で、創業2ヶ月目で店が潰れちまった。
――短命すぎる。そのときの借金がもとで鉄牛さんは三和に……。
鉄牛 いや、その時点では手元に数万元は残っていた。潰れた大浪の店を離れて、羅湖のネカフェでとりあえず寝泊まりすることにしたんだ。羅湖は市内中心部だから、滞在費は1時間7元(約115円)で、そこそこ高かったんだよな。……
で、むしゃくしゃしたもんだから、ネトゲやらオンラインカジノに手を出してさ。やっちまったわけだよ。
――なにをやっちまったんですか?
鉄牛 ネットバカラにハマった。あと、オンラインのサッカー賭博も少々だ。微信支付とか支付宝(※)でポンポンと賭けられちゃうからさ。最初に50元(約823円)を賭けたら500元になって、俺は天才だーと思ってカネをガンガンぶち込んでいたら、数万元の貯金が残り5000元になって。
それでも勝負したら有り金がゼロになっちまった。 ※ウィーチャット・ペイとアリペイ。ともに中国のオンライン決済機能のこと。
――うわあ……。それは実にあかんやつだ。
鉄牛 うん、実にあかんやつだ。で、生活がおぼつかないから周囲の友達とか地元の親戚から6〜7万元(約99〜115万円)を借りたんだ。暮らしを立て直そうと思ってな。
――立て直せたんですか?
鉄牛 いや。だって、借りたカネを支付宝とかのウェブマネーにしてネット上に置くだろ? それで、なんとなくネトゲとかネットカジノとかやるだろ? 生活費もかかるだろ? ふと気がついたらカネがなくなっていたんだよ!
http://bunshun.jp/articles/-/3962
(続く)