≪深刻の度加えるチキンレース≫
8月29日にまた、北朝鮮がミサイルを発射した。米朝のチキンレースは深刻の度を加えている。
ここでまず押さえておかなければならないのは、なぜチキンレースが起きているかだ。一部の論者は、トランプ大統領がツイッターで無分別に過激な書き込みをし、それに刺激された金正恩朝鮮労働党委員長が過激な言動を返しているという解説をしている。また4月にはトランプ大統領が北朝鮮攻撃を命じるXデーはいつか、という論議が盛んだった。
しかし、危機が発生している原因は、北朝鮮のテロ政権がついに米本土まで届く核ミサイルを実戦配備する直前まできたことである。言い換えるならば、金正恩氏の核ミサイル開発こそが危機を呼び起こしているのだ。トランプ大統領の言動や爆撃近しという情報リークは、それを止めさせるための心理戦の一環でしかない。
例を一つ挙げる。北朝鮮は8月9日、米空軍基地があるグアム島沖に4発の弾道ミサイル「火星12」を撃ち込む作戦を立案中だと脅した。日本ではこれを誘発したのは、トランプ大統領の「(北朝鮮は)炎と怒り、そして率直に言えば、世界がこれまでに目にしたことがないようなパワーに見舞われることになるだろう」という過激な書き込みだという解説が多かった。
しかし、金正恩氏が意識し続けているのは、トランプ氏のツイッターの書き込みではない。米軍の「斬首作戦」だ。ここで、それについて解説しておく
≪北が警戒強めるB1爆撃機≫
従来、米韓軍は北朝鮮の先制攻撃の兆候を掴(つか)んだら、長距離砲やロケット砲基地、ミサイル基地などの攻撃能力を無力化するという作戦計画5027を持っていた。
しかし、それだけでは撃ち漏らした攻撃能力で米韓軍側も被害を受けると予測されるため、「首」に当たる最高司令部と司令官の金正恩氏、そしてその命令を伝える通信手段をも攻撃対象に加えるというのが「斬首作戦」である。
最近作られた作戦計画5015には「斬首作戦」が含まれているという。8月21日から始まった米韓軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」でも5015が試されるという。
「斬首作戦」に動員される(レーダーに捕捉されにくい)ステルス性の高いB1戦略爆撃機が、グアム島の米軍基地に配備されている。韓国の文在寅大統領は朝鮮半島で武力攻撃を行うときは「必ず韓国の同意が必要だ」と強調するが、米国がグアムにある戦力を使って対北攻撃をする場合は、理論的には韓国の同意は必要ない。
5月末から8月8日にかけて、なんと11回もグアムのB1戦略爆撃機が朝鮮半島上空などに飛来する演習を実施している。B1戦略爆撃機には空対地巡航ミサイルが搭載できるから、「斬首作戦」の主力となりうる。
金正恩氏は自分を殺すための戦闘機が配備されているグアムを意識し、「火星12」を撃つと脅したのだ。
北朝鮮の公式声明にB1戦略爆撃機がしばしば言及されていることからも金正恩氏の恐れがよく分かる。しかし、米国が迎撃すると脅し返したので、「火星12」を北海道上空から太平洋に向けて撃ったのだろう。
≪拉致被害者帰国の原則忘れるな≫
独裁者は自分の命が危ういと判断したときだけ譲歩する。1994年と2002年に米国の軍事圧力を恐れて北朝鮮が2回、大きな譲歩をおこなった。1994年には米朝が最終談判して北朝鮮が核開発凍結という譲歩をした。しかし、その譲歩の中に日本人拉致被害者帰国は含まれていなかった。
それなのに村山富市政権は米国の求めに応じて朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への10億ドル支出に同意してしまった。2002年には北朝鮮が米国の圧力をかわすため日本をカードとして使ったので、北は拉致を認めて5人を帰すという大きな譲歩をした。
北朝鮮は少なくとも、あと1回以上の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験をしなければ米本土まで届く核ミサイルを完成できない。しかし、それをすればチキンレースは最高潮を迎え、トランプ大統領が軍事攻撃を決断する可能性も十分ある。
http://www.sankei.com/column/news/170831/clm1708310005-n1.html
(>>2以降に続く)
8月29日にまた、北朝鮮がミサイルを発射した。米朝のチキンレースは深刻の度を加えている。
ここでまず押さえておかなければならないのは、なぜチキンレースが起きているかだ。一部の論者は、トランプ大統領がツイッターで無分別に過激な書き込みをし、それに刺激された金正恩朝鮮労働党委員長が過激な言動を返しているという解説をしている。また4月にはトランプ大統領が北朝鮮攻撃を命じるXデーはいつか、という論議が盛んだった。
しかし、危機が発生している原因は、北朝鮮のテロ政権がついに米本土まで届く核ミサイルを実戦配備する直前まできたことである。言い換えるならば、金正恩氏の核ミサイル開発こそが危機を呼び起こしているのだ。トランプ大統領の言動や爆撃近しという情報リークは、それを止めさせるための心理戦の一環でしかない。
例を一つ挙げる。北朝鮮は8月9日、米空軍基地があるグアム島沖に4発の弾道ミサイル「火星12」を撃ち込む作戦を立案中だと脅した。日本ではこれを誘発したのは、トランプ大統領の「(北朝鮮は)炎と怒り、そして率直に言えば、世界がこれまでに目にしたことがないようなパワーに見舞われることになるだろう」という過激な書き込みだという解説が多かった。
しかし、金正恩氏が意識し続けているのは、トランプ氏のツイッターの書き込みではない。米軍の「斬首作戦」だ。ここで、それについて解説しておく
≪北が警戒強めるB1爆撃機≫
従来、米韓軍は北朝鮮の先制攻撃の兆候を掴(つか)んだら、長距離砲やロケット砲基地、ミサイル基地などの攻撃能力を無力化するという作戦計画5027を持っていた。
しかし、それだけでは撃ち漏らした攻撃能力で米韓軍側も被害を受けると予測されるため、「首」に当たる最高司令部と司令官の金正恩氏、そしてその命令を伝える通信手段をも攻撃対象に加えるというのが「斬首作戦」である。
最近作られた作戦計画5015には「斬首作戦」が含まれているという。8月21日から始まった米韓軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」でも5015が試されるという。
「斬首作戦」に動員される(レーダーに捕捉されにくい)ステルス性の高いB1戦略爆撃機が、グアム島の米軍基地に配備されている。韓国の文在寅大統領は朝鮮半島で武力攻撃を行うときは「必ず韓国の同意が必要だ」と強調するが、米国がグアムにある戦力を使って対北攻撃をする場合は、理論的には韓国の同意は必要ない。
5月末から8月8日にかけて、なんと11回もグアムのB1戦略爆撃機が朝鮮半島上空などに飛来する演習を実施している。B1戦略爆撃機には空対地巡航ミサイルが搭載できるから、「斬首作戦」の主力となりうる。
金正恩氏は自分を殺すための戦闘機が配備されているグアムを意識し、「火星12」を撃つと脅したのだ。
北朝鮮の公式声明にB1戦略爆撃機がしばしば言及されていることからも金正恩氏の恐れがよく分かる。しかし、米国が迎撃すると脅し返したので、「火星12」を北海道上空から太平洋に向けて撃ったのだろう。
≪拉致被害者帰国の原則忘れるな≫
独裁者は自分の命が危ういと判断したときだけ譲歩する。1994年と2002年に米国の軍事圧力を恐れて北朝鮮が2回、大きな譲歩をおこなった。1994年には米朝が最終談判して北朝鮮が核開発凍結という譲歩をした。しかし、その譲歩の中に日本人拉致被害者帰国は含まれていなかった。
それなのに村山富市政権は米国の求めに応じて朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への10億ドル支出に同意してしまった。2002年には北朝鮮が米国の圧力をかわすため日本をカードとして使ったので、北は拉致を認めて5人を帰すという大きな譲歩をした。
北朝鮮は少なくとも、あと1回以上の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験をしなければ米本土まで届く核ミサイルを完成できない。しかし、それをすればチキンレースは最高潮を迎え、トランプ大統領が軍事攻撃を決断する可能性も十分ある。
http://www.sankei.com/column/news/170831/clm1708310005-n1.html
(>>2以降に続く)