「北」ミサイル道上空通過 冷静に対処し暴走阻止を
北朝鮮がまたしても弾道ミサイルを発射した。ミサイルは渡島半島と襟裳岬上空を通過し、太平洋上に落下した。
全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動し、JR北海道は一時、運転を見合わせた。
早朝でもあり、初めての経験にびっくりした道民も多かったことだろう。被害がなかったのは幸いというほかない。
7月末にも奥尻島の沖合に大陸間弾道ミサイル(ICBM)が落下したばかりである。緊張を高める暴挙は絶対に許されない。
安倍晋三首相は「これまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と述べ、米国と一体になって対応する考えを強調している。
日米韓が連携し、経済制裁を徹底するなど北朝鮮に圧力をかけることは必要だ。
だが、一触即発の危機を高め、偶発的であれ軍事的衝突が起きれば、取り返しのつかない惨事を招くことになりかねない。
だからこそ求められるのは冷静な対応だ。北朝鮮と関係が深い中国、ロシアと連携を強め、外交努力で緊張緩和を図るべきである。
■挑発で得るものなし
北朝鮮によるミサイル発射は今年に入って既に10回を超えた。うち2発はICBMだ。
日本上空の通過は1998年以降5回目で、過去4回は事前に「人工衛星」と予告していたが、今回は通告さえしなかった。
一層、強硬姿勢を打ち出すことで、自国に有利な状況をつくり、米国との対話を始めたい意図が見え隠れする。
一方で北朝鮮は中距離弾道ミサイルを米領グアムに向けて4発発射する計画を明らかにしていた。
あえてグアムを避け、米国との軍事的な一体化を進める日本を挑発したとの見方もできるが、北朝鮮の思惑に振り回されるべきではない。
ミサイル発射を前に、北朝鮮の労働新聞が新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発を示唆する写真も公開した。核実験の準備を完了したとの情報もある。
しかし、核の脅威をちらつかせながらの交渉に米国が乗ることはありえない。
仮に軍事的衝突が起きれば、金正恩(キムジョンウン)体制が維持できなくなることは明らかである。挑発を重ねても、なんら得るものはないことを正面から受け止めねばならない。
■軍事的傾斜は危うい
軍事的緊張を和らげ、対話の道を開く以外に、北朝鮮の核・ミサイル問題は解決できない。
トランプ大統領は「炎と怒りに見舞われる」と核攻撃も辞さない構えを見せてきた。「売り言葉に買い言葉」にならぬような落ち着いた対応が求められる。
安倍首相はトランプ氏と電話会談し、今は北朝鮮と対話の時ではなく、圧力をさらに強化すべきだとの認識で一致した。
だからと言って、軍事的な方向に傾斜すれば、北朝鮮に日本攻撃の口実を与えかねない。
日本政府はミサイル防衛(MD)の強化に向け、イージス艦搭載の迎撃型ミサイルを地上配備するイージス・アショアを米国から導入する方針だ。とはいえ、MDによる完全な迎撃は難しい。
政府は航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方に展開していた。
北朝鮮がグアムへのミサイルは島根、広島、高知の上空を通過すると予告したのを受けたものだが、実際に撃ったのは北海道の方向だった。
軍事的対応には限界があることを認識すべきだ。
■通報体制の点検必要
北朝鮮を話し合いのテーブルに着かせるには、国際的な連携が不可欠である。
その中で重要な役割を果たすのが中国とロシアの対応だ。
両国が「抜け穴」となり、制裁の実効性が失われてきたと言われている。
国連安全保障理事会で先に採択された新たな制裁決議に基づき、中国は北朝鮮の石炭、鉄鉱石などの全面禁輸を実施したという。これを徹底しなければならない。
今回のミサイル通過で学校の始業時間の繰り下げや、不安を感じて避難する人も出るなど、道民生活に大きな影響を及ぼした。北海道沖で操業する漁業者が受けた衝撃も大きい。
高橋はるみ知事は「道民の生命、財産、安全の確保が重要な使命」と述べ、市町村との緊密な連携を指示した。
そうした中、日高管内えりも町で、Jアラートのミサイル発射情報を伝達する防災行政無線の音声が流れないトラブルがあったのは残念だ。
政府と道、市町村は、万が一の事態に住民の安全を守る対応をいま一度点検してほしい。
ソース:北海道新聞 08/30 05:00
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/128823?rct=c_editorial
北朝鮮がまたしても弾道ミサイルを発射した。ミサイルは渡島半島と襟裳岬上空を通過し、太平洋上に落下した。
全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動し、JR北海道は一時、運転を見合わせた。
早朝でもあり、初めての経験にびっくりした道民も多かったことだろう。被害がなかったのは幸いというほかない。
7月末にも奥尻島の沖合に大陸間弾道ミサイル(ICBM)が落下したばかりである。緊張を高める暴挙は絶対に許されない。
安倍晋三首相は「これまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と述べ、米国と一体になって対応する考えを強調している。
日米韓が連携し、経済制裁を徹底するなど北朝鮮に圧力をかけることは必要だ。
だが、一触即発の危機を高め、偶発的であれ軍事的衝突が起きれば、取り返しのつかない惨事を招くことになりかねない。
だからこそ求められるのは冷静な対応だ。北朝鮮と関係が深い中国、ロシアと連携を強め、外交努力で緊張緩和を図るべきである。
■挑発で得るものなし
北朝鮮によるミサイル発射は今年に入って既に10回を超えた。うち2発はICBMだ。
日本上空の通過は1998年以降5回目で、過去4回は事前に「人工衛星」と予告していたが、今回は通告さえしなかった。
一層、強硬姿勢を打ち出すことで、自国に有利な状況をつくり、米国との対話を始めたい意図が見え隠れする。
一方で北朝鮮は中距離弾道ミサイルを米領グアムに向けて4発発射する計画を明らかにしていた。
あえてグアムを避け、米国との軍事的な一体化を進める日本を挑発したとの見方もできるが、北朝鮮の思惑に振り回されるべきではない。
ミサイル発射を前に、北朝鮮の労働新聞が新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発を示唆する写真も公開した。核実験の準備を完了したとの情報もある。
しかし、核の脅威をちらつかせながらの交渉に米国が乗ることはありえない。
仮に軍事的衝突が起きれば、金正恩(キムジョンウン)体制が維持できなくなることは明らかである。挑発を重ねても、なんら得るものはないことを正面から受け止めねばならない。
■軍事的傾斜は危うい
軍事的緊張を和らげ、対話の道を開く以外に、北朝鮮の核・ミサイル問題は解決できない。
トランプ大統領は「炎と怒りに見舞われる」と核攻撃も辞さない構えを見せてきた。「売り言葉に買い言葉」にならぬような落ち着いた対応が求められる。
安倍首相はトランプ氏と電話会談し、今は北朝鮮と対話の時ではなく、圧力をさらに強化すべきだとの認識で一致した。
だからと言って、軍事的な方向に傾斜すれば、北朝鮮に日本攻撃の口実を与えかねない。
日本政府はミサイル防衛(MD)の強化に向け、イージス艦搭載の迎撃型ミサイルを地上配備するイージス・アショアを米国から導入する方針だ。とはいえ、MDによる完全な迎撃は難しい。
政府は航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方に展開していた。
北朝鮮がグアムへのミサイルは島根、広島、高知の上空を通過すると予告したのを受けたものだが、実際に撃ったのは北海道の方向だった。
軍事的対応には限界があることを認識すべきだ。
■通報体制の点検必要
北朝鮮を話し合いのテーブルに着かせるには、国際的な連携が不可欠である。
その中で重要な役割を果たすのが中国とロシアの対応だ。
両国が「抜け穴」となり、制裁の実効性が失われてきたと言われている。
国連安全保障理事会で先に採択された新たな制裁決議に基づき、中国は北朝鮮の石炭、鉄鉱石などの全面禁輸を実施したという。これを徹底しなければならない。
今回のミサイル通過で学校の始業時間の繰り下げや、不安を感じて避難する人も出るなど、道民生活に大きな影響を及ぼした。北海道沖で操業する漁業者が受けた衝撃も大きい。
高橋はるみ知事は「道民の生命、財産、安全の確保が重要な使命」と述べ、市町村との緊密な連携を指示した。
そうした中、日高管内えりも町で、Jアラートのミサイル発射情報を伝達する防災行政無線の音声が流れないトラブルがあったのは残念だ。
政府と道、市町村は、万が一の事態に住民の安全を守る対応をいま一度点検してほしい。
ソース:北海道新聞 08/30 05:00
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/128823?rct=c_editorial