雄安新区の一部に指定された河北省保定市容城県で、地上げを戒めた横断幕。「今日勝手に土地を買うやつは明日はすっからかんだ」とある Jason Lee-REUTERS
<中国政府が首都のサブセンターとして開発を発表した「雄安新区」。通うには遠いようだが、期待できるのか? ゴーストタウン化は避けられるのか? 早くも「雄安」の標語が林立する現場にも行ってみた>
2017年4月1日、中国政府は首都・北京の過密問題を解決するために、河北省保定市に属する雄県、容城県、安新県にまたがる地域に「雄安」という名の新しい都市を作り、そこに「首都のサブセンター」を作ることを発表した。
これは深?特区、上海浦東新区に並ぶ「千年の大計、国家の大事」だというのだから、すごく力が入っているのは間違いない。
ただ、ここのところ中国で新都市を作るというとすぐに「鬼城」(ゴーストタウン)になりはしないかとの心配が頭をもたげてくる。実際、内モンゴル・オルドス市のカンバシ区だとか、天津の「マンハッタン」と称する響螺湾ビジネス街など壮大な都市計画が失敗するケースが続いている。
「雄安新区」もそうなってしまうのではないか、新しい入れ物を作るより、既存の入れ物を売り切ることを考えたほうがいいのではないかと思ってしまう。
雄安には北京の「非首都機能」を移すというのだが、そもそも「非首都機能」とは何を指すのかはっきりしない。日本では1980年代の竹下政権時代に「首都機能移転」が始まったが、首都機能といえば省庁やその関連機関、国会などを指すのは明らかであろう。
では首都の「非首都機能」とは何だろうか。例えば、北京のベッドタウンを雄安に作るというのは、後で述べるように、距離が遠すぎてまったく現実的ではない。すると人口の多いところに付随する商業や文化施設なども移る可能性はない。
企業の本社に移ってもらうというのもありうるが、政府が移転させることのできるのは国有企業だけであろう。北京にある工場を移すということも考えられるが、もともと北京の工場はすでに郊外や唐山市などへの移転を済ませており、移転することで北京の過密問題解消に寄与できるような工場はもう余り残っていない。
「非首都機能」とは何か
また、大学や研究機関の移転は、筑波学園都市の先例もあるからありうる話である。北京で、長年の友人に「非首都機能」とは何だと思うか聞いてみたら、政府関連機関、たとえば試験施設とかではないかという。ただ、それらを移転しただけではごく小さな都市にしなかならない。
しかし、これだけ鳴り物入りで始めたプロジェクトを失敗させるわけにもいかないだろう。ここにどんな都市ができる可能性があるのか、現地に行って考えてみた。
まず地理的な事実から確認しておく。雄安新区の中心部と目されている雄県のあたりは北京市の中心から直線距離で110キロ、天津市の中心から直線距離で100キロの位置にある。東京丸の内を起点に同じ大きさの三角形を書いてみると、東京―沼津―軽井沢がほぼ同じぐらいの大きさになる。
雄安新区は、「北京―天津―河北の共同発展」という構想のなかから生まれてきたものだが、これを東京圏に引き付けて考えてみると、いささか拠点どうしの距離が離れすぎているように思う。
つまり、東京―横浜、東京―千葉は30-35キロぐらいの距離で、これぐらいであれば毎日通勤する人も多いが、軽井沢や沼津から東京に毎日通うというのは、ありえなくはないものの、それを実践する人は少ない。そんな遠いところに北京の「サブセンター」を作っても、移動に時間がかかりすぎる。
となると、北京、天津、雄安は全体として一つの大都市圏を構成するというよりも、基本的にはそれぞれ完結するような都市圏となり、部分的に補完関係を持つとするほうが現実的である。今年7月には北京と雄安が高速鉄道で結ばれた、と報じられたが、まだ1日片道2便で、所要時間は1時間20分である。
「これだったら通える」と日本の感覚で考えてはいけない。
http://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2017/08/post-30.php
(>>2以降に続く)