先週末、韓国最大規模の財閥サムスングループ経営トップのサムスン電子副会長、李在鎔(イ・ジェヨン)被告に厳しい判決が下されたのを受け、同被告が民衆の怒りを抑えるためのスケープゴートになったとの見方が強まっている。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は大統領選の公約として財閥改革を掲げていたが、今回の判決によって国民からの圧力は弱まり、文政権における財閥改革の優先順位は低くなった公算が大きく、財閥改革が先延ばしされる恐れもある。
公然と批判し当選
韓国ではこの1年間、政府と家族経営の財閥との癒着が明らかになったスキャンダルを受け、財閥に対する国民の怒りが爆発していた。文氏はこうした流れの中で財閥を公然と非難し、5月に大統領に当選した。
だが、文氏は北朝鮮の核問題やトランプ米政権からの米韓自由貿易協定(FTA)再調整の要請といった、緊急性のより高い問題への対応に追われており、財閥対策として掲げていた公約は果たせていなかった。
このような状況下で、韓国ソウル中央地裁は25日、李被告に対し懲役5年の実刑判決を下した。これは同国の財閥トップに対する懲役刑としては、最も厳しい判決の一つだ。李被告は28日、これを不服として控訴に踏み切った。
韓国国民の多くは、李被告への判決を好意的に受け止めている。大企業の経営陣に対しては執行猶予付きの判決が下されるというこれまでの慣例が打ち破られたためだ。
米ジョージ・ワシントン大学のセレステ・アリントン助教授は「有罪判決を受け、文氏への圧力は確実に弱まるだろう。もはや財閥改革は最優先事項とはならないとみられる」と分析する。
これまで韓国の財閥は、常に悪者だったわけではない。1960〜70年代の朴正煕(パク・チョンヒ)政権下では、同国の急速な経済成長を率いたとしてもてはやされた。だが、借り入れによる拡大を続けたことで反発が生まれ、大宇グループといった巨大企業の破綻が追い打ちを掛けた。
国際通貨基金(IMF)は、97〜99年に韓国経済が危機に見舞われたのは、家族経営の財閥に大きな原因があるとの見方を示した。
それ以降、韓国株式市場の大部分を占める家族経営の財閥に対し、関連企業間で相互に株式を保有する「循環出資」を採用し、自らの利益を少数株の株主よりも優先しているとの批判が続いている。
さらに、このような財閥は韓国企業の株価が世界の競合よりも低い株価収益率で取引される「コリア・ディスカウント」の一因でもある。韓国総合株価指数(KOSPI)の予想株価収益率(PER)は9倍で、アジアの主要株価指数の中で最も低い部類に入る。
大統領への圧力軽減
文政権は財閥対策に着手している。金尚祚(キム・サンジョ)公正取引委員長は、現代自動車の鄭(チョン)一族に対して循環出資を解消するよう要請。財閥に向けて公に構造改革を求めた。
財閥への増税も検討されている。企画財政省は2日、文政権が大企業に対する表面税率を、現行の22%から25%に引き上げる計画を発表した。しかし、文氏の与党「共に民主党」は韓国の国会で獲得している議席は4割にしか満たない。税制改革が国会で承認されない可能性もぬぐいきれない。
さらに、米韓FTAを批判するトランプ米大統領に対処するには、財閥からの支持も必要だ。文氏が6月にワシントンを訪れた際には、複数人の財閥企業幹部が同行している。
米シンクタンク全米アジア研究所(NBR)の貿易・経済・エネルギー問題担当シニアディレクター、クララ・ギリスピー氏は
「もし懲役が言い渡されなかったならば、文氏は財閥に対して、厳しい態度を取り続ける必要があっただろう。判決を受け、文氏へのプレッシャーは軽減されたようだ」と分析している。(ブルームバーグ Bruce Einhorn、Sohee Kim)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170829/mcb1708290500011-n1.htm
ソウル市内にあるサムスン電子の本社ビル。李在鎔被告への厳しい判決で、韓国の財閥改革が先延ばしされる恐れもある(ブルームバーグ)
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は大統領選の公約として財閥改革を掲げていたが、今回の判決によって国民からの圧力は弱まり、文政権における財閥改革の優先順位は低くなった公算が大きく、財閥改革が先延ばしされる恐れもある。
公然と批判し当選
韓国ではこの1年間、政府と家族経営の財閥との癒着が明らかになったスキャンダルを受け、財閥に対する国民の怒りが爆発していた。文氏はこうした流れの中で財閥を公然と非難し、5月に大統領に当選した。
だが、文氏は北朝鮮の核問題やトランプ米政権からの米韓自由貿易協定(FTA)再調整の要請といった、緊急性のより高い問題への対応に追われており、財閥対策として掲げていた公約は果たせていなかった。
このような状況下で、韓国ソウル中央地裁は25日、李被告に対し懲役5年の実刑判決を下した。これは同国の財閥トップに対する懲役刑としては、最も厳しい判決の一つだ。李被告は28日、これを不服として控訴に踏み切った。
韓国国民の多くは、李被告への判決を好意的に受け止めている。大企業の経営陣に対しては執行猶予付きの判決が下されるというこれまでの慣例が打ち破られたためだ。
米ジョージ・ワシントン大学のセレステ・アリントン助教授は「有罪判決を受け、文氏への圧力は確実に弱まるだろう。もはや財閥改革は最優先事項とはならないとみられる」と分析する。
これまで韓国の財閥は、常に悪者だったわけではない。1960〜70年代の朴正煕(パク・チョンヒ)政権下では、同国の急速な経済成長を率いたとしてもてはやされた。だが、借り入れによる拡大を続けたことで反発が生まれ、大宇グループといった巨大企業の破綻が追い打ちを掛けた。
国際通貨基金(IMF)は、97〜99年に韓国経済が危機に見舞われたのは、家族経営の財閥に大きな原因があるとの見方を示した。
それ以降、韓国株式市場の大部分を占める家族経営の財閥に対し、関連企業間で相互に株式を保有する「循環出資」を採用し、自らの利益を少数株の株主よりも優先しているとの批判が続いている。
さらに、このような財閥は韓国企業の株価が世界の競合よりも低い株価収益率で取引される「コリア・ディスカウント」の一因でもある。韓国総合株価指数(KOSPI)の予想株価収益率(PER)は9倍で、アジアの主要株価指数の中で最も低い部類に入る。
大統領への圧力軽減
文政権は財閥対策に着手している。金尚祚(キム・サンジョ)公正取引委員長は、現代自動車の鄭(チョン)一族に対して循環出資を解消するよう要請。財閥に向けて公に構造改革を求めた。
財閥への増税も検討されている。企画財政省は2日、文政権が大企業に対する表面税率を、現行の22%から25%に引き上げる計画を発表した。しかし、文氏の与党「共に民主党」は韓国の国会で獲得している議席は4割にしか満たない。税制改革が国会で承認されない可能性もぬぐいきれない。
さらに、米韓FTAを批判するトランプ米大統領に対処するには、財閥からの支持も必要だ。文氏が6月にワシントンを訪れた際には、複数人の財閥企業幹部が同行している。
米シンクタンク全米アジア研究所(NBR)の貿易・経済・エネルギー問題担当シニアディレクター、クララ・ギリスピー氏は
「もし懲役が言い渡されなかったならば、文氏は財閥に対して、厳しい態度を取り続ける必要があっただろう。判決を受け、文氏へのプレッシャーは軽減されたようだ」と分析している。(ブルームバーグ Bruce Einhorn、Sohee Kim)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170829/mcb1708290500011-n1.htm
![【韓国】財閥改革の先延ばしも サムスントップに実刑判決、民衆の怒りを抑えるためのスケープゴート[8/29] [無断転載禁止]©2ch.net ->画像>1枚](http://www.sankeibiz.jp/images/news/170829/mcb1708290500011-p1.jpg)
ソウル市内にあるサムスン電子の本社ビル。李在鎔被告への厳しい判決で、韓国の財閥改革が先延ばしされる恐れもある(ブルームバーグ)