★中西輝政さん『アメリカ帝国衰亡論・序説』(幻冬舎、1100円+税)
トランプ大統領の登場は、大国・アメリカの「終わりの始まり」。日米同盟だけに頼っていては、もはやわが国の領土や国民の生命は守れない。迫り来る中国、北朝鮮、韓国…包囲網を打ち破るためにいま、何をなすべきか。(文・梓勇生 写真・酒巻俊介)
−−アメリカの衰退は止められないと
「冷戦に勝利し唯一の超大国になったアメリカですが、その後、幾つも過ちを犯してしまう。湾岸戦争(1991年)以降、必要以上に中東に介入した結果、泥沼化させて反発を招き、世界中にテロを蔓延(まんえん)させてしまったこと。
ロシアのゴルバチョフ、エリツィンに圧力を加えて民主化改革を潰し、プーチンのような独裁的な勢力を誕生させたこと。中国を甘やかし軍事覇権国家になることを許してしまったことです」
−−事態は深刻です
「今後、10年、20年先を見た場合、軍事力では中露の猛追を受け、経済力でも中国に並ばれ、やがては追い抜かれる。グローバル化を過度に推し進めるあまり、国益にかなわないような各地の紛争に介入しては失敗を繰り返し、経済では国民の大きな所得格差を生んでしまった。
その不満がトランプ大統領を登場させたといえますが、保護主義的、排他的な政策ではやがてアメリカの経済はますます落ち込み、ウォール街にもカネが集まらなくなる。国力の低下は止められません」
−−トランプ大統領の政策は100年前の孤立主義とどこが違うのでしょう
「アメリカ建国以来の孤立主義は、高い理想や道徳によって、平和と繁栄をもたらすというものです。一方、アメリカファーストを掲げるトランプ大統領の政策は理念もないエゴイズムに過ぎません。
アメリカの強みは、自由、人権、民主主義、法の支配といった価値観の力にこそあるのに、トランプ大統領はそれを軽んじる言動を繰り返しています。階層、人種差別といった社会の矛盾が露呈し、衰亡を加速させるでしょう」
−−日本は「アメリカ追随」でやってきましたが
「(占領期の)マッカーサー神話や田中角栄元首相のロッキード神話からいまだに逃れられていない。アメリカに楯突くと何をされるか分からないという恐怖です。一方のアメリカ側にも『日本は思い通りになる』との意識が消えない。
ノーということなどあり得ないと思っているのです。こうした日本の『対米位負け』外交を今こそ見直さねばなりません」
−−安全保障でも日米同盟を強化しさえすればいいという意見があります
「アメリカは確かに『尖閣諸島は日米安保の適用範囲内』と繰り返しています。平時なら中国への抑止力にはなるでしょうが、有事となれば、アメリカが中国と事を構えてまで武力介入することはないでしょう。
今回の北朝鮮の核・ミサイル危機でも、アメリカが先制攻撃に出る可能性はまずない。それは米軍の態勢を見ても明らかです。中国は日米を脅せる『北の核』の利用価値を知っており、本気で北朝鮮を止めるつもりはない。日本は危機の裏で進む米中の取引や接近こそ警戒しないといけません」
−−今後、日本がやるべきことは
「自前の防衛のために防衛費を2倍にする。情報力を強化し地力をつけることです。そして、アメリカにも言うべきことをいう。『尖閣の現状変更』に反対されても、粛々と船着き場を作り、公務員を常駐させればいい。日本にとっては正当性があることですからね。
中国にもしっかりと対峙(たいじ)しなければなりません。むしろ日本が中国の民主化を促してゆく。こうしたことを日本ができてアメリカからの真の自立も可能になるのです。これからの世界は抑止力の時代が終わり、『プロパガンダの戦い』になる。
それに備えてしっかりと戦略を練り、勝ち抜かねば日本は生き残れません」
■中西輝政(なかにし・てるまさ) 京都大名誉教授、国際政治学者。1947年、大阪府生まれ。70歳。京都大法卒、英ケンブリッジ大大学院修了。三重大助教授、米スタンフォード大客員研究員、静岡県立大教授を経て京都大大学院教授。正論大賞受賞。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170828/soc1708280002-n1.html
トランプ大統領の登場は、大国・アメリカの「終わりの始まり」。日米同盟だけに頼っていては、もはやわが国の領土や国民の生命は守れない。迫り来る中国、北朝鮮、韓国…包囲網を打ち破るためにいま、何をなすべきか。(文・梓勇生 写真・酒巻俊介)
−−アメリカの衰退は止められないと
「冷戦に勝利し唯一の超大国になったアメリカですが、その後、幾つも過ちを犯してしまう。湾岸戦争(1991年)以降、必要以上に中東に介入した結果、泥沼化させて反発を招き、世界中にテロを蔓延(まんえん)させてしまったこと。
ロシアのゴルバチョフ、エリツィンに圧力を加えて民主化改革を潰し、プーチンのような独裁的な勢力を誕生させたこと。中国を甘やかし軍事覇権国家になることを許してしまったことです」
−−事態は深刻です
「今後、10年、20年先を見た場合、軍事力では中露の猛追を受け、経済力でも中国に並ばれ、やがては追い抜かれる。グローバル化を過度に推し進めるあまり、国益にかなわないような各地の紛争に介入しては失敗を繰り返し、経済では国民の大きな所得格差を生んでしまった。
その不満がトランプ大統領を登場させたといえますが、保護主義的、排他的な政策ではやがてアメリカの経済はますます落ち込み、ウォール街にもカネが集まらなくなる。国力の低下は止められません」
−−トランプ大統領の政策は100年前の孤立主義とどこが違うのでしょう
「アメリカ建国以来の孤立主義は、高い理想や道徳によって、平和と繁栄をもたらすというものです。一方、アメリカファーストを掲げるトランプ大統領の政策は理念もないエゴイズムに過ぎません。
アメリカの強みは、自由、人権、民主主義、法の支配といった価値観の力にこそあるのに、トランプ大統領はそれを軽んじる言動を繰り返しています。階層、人種差別といった社会の矛盾が露呈し、衰亡を加速させるでしょう」
−−日本は「アメリカ追随」でやってきましたが
「(占領期の)マッカーサー神話や田中角栄元首相のロッキード神話からいまだに逃れられていない。アメリカに楯突くと何をされるか分からないという恐怖です。一方のアメリカ側にも『日本は思い通りになる』との意識が消えない。
ノーということなどあり得ないと思っているのです。こうした日本の『対米位負け』外交を今こそ見直さねばなりません」
−−安全保障でも日米同盟を強化しさえすればいいという意見があります
「アメリカは確かに『尖閣諸島は日米安保の適用範囲内』と繰り返しています。平時なら中国への抑止力にはなるでしょうが、有事となれば、アメリカが中国と事を構えてまで武力介入することはないでしょう。
今回の北朝鮮の核・ミサイル危機でも、アメリカが先制攻撃に出る可能性はまずない。それは米軍の態勢を見ても明らかです。中国は日米を脅せる『北の核』の利用価値を知っており、本気で北朝鮮を止めるつもりはない。日本は危機の裏で進む米中の取引や接近こそ警戒しないといけません」
−−今後、日本がやるべきことは
「自前の防衛のために防衛費を2倍にする。情報力を強化し地力をつけることです。そして、アメリカにも言うべきことをいう。『尖閣の現状変更』に反対されても、粛々と船着き場を作り、公務員を常駐させればいい。日本にとっては正当性があることですからね。
中国にもしっかりと対峙(たいじ)しなければなりません。むしろ日本が中国の民主化を促してゆく。こうしたことを日本ができてアメリカからの真の自立も可能になるのです。これからの世界は抑止力の時代が終わり、『プロパガンダの戦い』になる。
それに備えてしっかりと戦略を練り、勝ち抜かねば日本は生き残れません」
■中西輝政(なかにし・てるまさ) 京都大名誉教授、国際政治学者。1947年、大阪府生まれ。70歳。京都大法卒、英ケンブリッジ大大学院修了。三重大助教授、米スタンフォード大客員研究員、静岡県立大教授を経て京都大大学院教授。正論大賞受賞。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170828/soc1708280002-n1.html